第14話 いつか愛へと変わるまで
全てを見届けたラキ。
果たして彼女の決断は……?
そして、恋する乙女たちは何を思うのでしょうか。
恋と共に、最終回!!!
いつか愛へと変わる恋
どうぞ。
法王の書庫にて。
今日もそこでは、紫髪の魔法使いの少女が魔導書を開き、勉学に励んでいた。
「それで、うまくいったの? 愛しの彼とは——」
「ちょっとニーテ! 誰かに聞かれちゃうじゃない……」
向かいに座る友人の一言に、テゴラは慌てて辺りを見回す。
人の気配がないことを確かめると、ようやくほっと息をつき、観念したように口を開いた。
「全然だめ。ありゃ、脈ないや」
その答えに、本から目を上げるニーテ。
「そう……想いの紐は、ちゃんと渡したの?」
「……渡した。でもさぁ、彼、私の気持ちなんてちっとも気づいてくれないの」
——あの紐は渡せた。
けれど、想いだけはまだ届いていないと言う。
「はぁ⁉︎ それじゃ脈があるかないかも分かんないじゃない!」
「へへ……そうだね」
何の進展もしていないというのに、照れ笑いを浮かべるテゴラ。
ニーテは呆れたように息を吐いていた。
「女に贈り物を貰って、気づかないそいつも馬鹿だけど——それで満足してるあんたも相当の馬鹿よ。これならいっそ、惨めに振られた方がよかったのに」
「ちょっとぉ……私はいいけど、ルキ君を馬鹿にしないでよ」
小さく頬を膨らませるテゴラを気にも留めず、ニーテ再び書物へ視線を落とす。
やがてテゴラは——ぽつりと呟いた。
「仕方ないじゃん……彼、恋してるんだもん」
その一言に、思わず顔を上げるニーテ。
「……そういうことだったのね。それで、一体誰なのよ。彼が恋してる相手って——」
「……剣」
一瞬の沈黙。
そして。
「もうっ! さっきから何なのよ⁉︎ こっちは真剣に聞いてるのに! 剣に恋してる⁉︎ どんだけイカレ野郎なのよ、そのルキってやつは!」
勢いよく机を叩くニーテ。
すると、焼け焦げた匂いが、その場に漂い始めていた。
「ニーテ! 火! 火!」
「あっ! いけない——」
慌てて冷気を放ち、煙を上げる机を必死に冷やす。
やがて火が収まり、少し恥ずかしそうに顔を背けた彼女は、何事もなかったかのように再び本を開いた。
「あはは……」
すっかり怒らせてしまった彼女の顔をそっと覗きながらも——静かに続けるテゴラ。
「ルキ君はね、強くならなきゃいけない理由があるの——」
ニーテは眉をひそめたまま、横目だけを向ける。
「彼……仲間も家族も、みんな亡くしてるから」
その言葉に、ニーテは小さく息をついた。
「気の毒だとは思うけど……そんな話、今時珍しくもないでしょう」
「うん……だけどね。普段あんなに楽しそうに笑うルキ君が、その話をしている時だけ、泣きそうな顔をしてたの。それを見たら……私——」
目を潤ませながら、それでも笑おうとするテゴラ。
そんな彼女を見つめるニーテは、それ以上何も言えなくなっていた。
「だからね。ルキ君が私を見ていなくたって、私は彼を支えたいって思ったの。それに、今のルキ君は……何を言ったって、振り向かないもの」
「テゴラ……」
想いは届かなかった。
けれど、それでよかったのかもしれない。
今の彼に必要なのは、恋ではなく、大切な人を守れるだけの強さ。
そう思えたからこそ、テゴラは穏やかに微笑んでいた。
——しばらく黙っていたニーテは、やがて小さく息を漏らす。
「まあ……あなたがそれでいいなら、文句はないわ。でも——」
「わかってる」
最後まで言わせることなく、テゴラは静かに頷いた。
「わかってるよ、ニーテ。いつか……いつか必ず——」
そして、窓の外へ視線を向ける。
その胸に灯った想いは、未来へ向かって静かに燃え続けていた。
* * *
一方、その頃、テスカの屋敷にて。
「ルキ様……」
紅茶の入った小さなカップを片手に、同じ空へと想いを馳せる、もう一人の恋する乙女。
「おかわりはいかがですか? ナナお嬢様」
「いえ……今は結構ですわ」
空になったカップを庭のテーブルへと置いた——その時だった。
「——うっ!」
「お嬢様?」
再び、自分の心と体を、何かの魂がそっと包み込む。
何度も味わったその感覚に、ナナはすぐさま使用人へと言葉を向けた——。
「今すぐおかわりをいただけますか? 砂糖とミルクもお付けして。それから……少し一人になりたいので、席を外してくださいまし」
「……え、ええ、かしこまりました——」
やがて、手際よく紅茶を淹れた使用人は、砂糖とミルクを添えて静かにその場を後にする。
そして、庭に誰もいなくなったことを確かめたナナは——ようやく息をついた。
「今日はいかがなさいましたか? 女神様」
(えへへ。やっぱり、わかっちゃった?)
彼女の耳に直接響く声。
その日はいつもと違い、彼女に体の主導権を奪われてはいなかった。
「このようなお声をされているのですね。初めて耳にしましたわ」
(そうだったね——えっと……今日は伝えたいことがあって)
小さく微笑んだナナは、続きを促すようにカップを口へ運ぶ。
(ありがと……)
甘くまろやかな味わいが、二人の間にゆっくりと広がっていく。
その甘さを味わうように、彼女は穏やかな声を響かせた。
(ナナちゃんと会うの——今日で最後にしようと思うんだ)
「……どうして、そう思われたのですか?」
ナナの問いかけに、少しだけ言葉を探すように沈黙する。
そして。
(——いけないなって、思ったの)
脳裏によぎるのは、あの日見た——少女の涙。
(誰かが笑ったり、誰かが泣いたり……そんなことを、私の手で変えちゃいけないんだって)
少しだけ震えた声が続く。
(誰かの運命に味方することは……誰かの運命を断ち切ることみたいで、私には辛いの)
彼女は小さく息をついた。
(だって私……)
残された弟を遠くから支えることしかできない。
自分はすでに、この世にいない存在。
だが——。
(……幸運の女神なんかじゃ、ないから)
彼女は最後まで言い切ることはできなかった。
(うまく言えないけど……ごめんね)
見守ることしかできない自分が、少しだけ歯がゆかった。
しかし、その胸を包み込むように、ナナの手が添えられる。
「——いいえ。私は感謝しております」
ゆっくりと紡がれる言葉が、胸の痛みを優しく溶かしていく。
「あなたはいつだって、ルキ様も、私も助けてくださいました」
そして、ナナはそっと目を伏せた。
「あなたは紛れもなく——幸運の女神様です。どうか、ご自分を責めないでください」
(そんな……)
その一言とともに、彼女の涙がナナの瞳を伝い、静かにこぼれ落ちる。
ナナはその雫を、指先でそっと拭った。
(やめてよ……ナナちゃん)
弟のそばにいてくれた彼女を、今度は自分が陰から支えたい。
そう思っていたはずなのに——救われていたのは、自分の方だった。
「ありがとうございます。私のことなら、もう心配はいりません」
——やがて、穏やかに微笑み、空を見上げるナナ。
「何を言っても、今の彼はどなたにも振り向きません」
その声は切なく、それでいてどこか確信に満ちていた。
「きっとあの方は、恋よりも大切な何かを追いかけている。そんな気がするのです」
一度だけ目を閉じ、胸の奥にある想いを確かめるように息をつく。
「それに、いつか——」
そして、静かに瞳を開いたナナは、まっすぐ前を見据えた。
「いつかその時は、借り物ではない私自身の勇気で、ルキ様を振り向かせてみせますわ」
——その決意には、弟を想い続ける少女の強さを感じられた。
もう、背中を押す必要はない。
この子なら、自分の足で歩いていける。
そう思えた瞬間、胸を締めつけていた罪悪感は、安堵へと変わっていった。
(ありがとう……ナナちゃん)
優しい声が、最後に響く。
そして——。
(さようなら)
その言葉を残し、彼女の魂は空に溶けるように静かに昇っていった。
「……あっ」
——突然の別れに思わず立ち上がり、空へと手を伸ばすナナ。
しかし、その指先が何かに届くことはなかった。
一陣の風だけが、別れを惜しむように庭を吹き抜ける。
涙をにじませるナナだったが、やがてゆっくりと手を下げ、あの日の景色を思い出す。
夢中になって鍋をかき混ぜる彼女が、幸せそうに見つめていた光景。
それは、彼女の記憶を通して見た、仲睦まじい姉弟が囲む温かな食卓だった。
だからこそ、ナナは優しく微笑む。
決して届かない——遠くの空へと。
「また、遊びにいらしてくださいね——お姉様」
* * *
ギルバディアの王宮にて。
その上空で、全てを見届けた幸運の女神様は、ただ一人、どこかで聞いたような言葉を漏らしていた。
『はぁ……神様稼業も、大変なんですね』
——ルキを巡る恋物語は、一つの結末を迎えた。
運命も、勇気も。
それだけでは、今を生きる彼の心は動かなかった。
それでも、彼女たちは燃やし続ける。
胸に灯った——恋という炎を。
独りよがりの想いが届き、互いに向き合ったそれが、愛へと変わるその日まで。
たとえ、どういう結果に転んでも、彼女たちならきっと、後悔しない方を選んでくれるだろう。
幸運の女神は、その日まで彼女たちを遠くから見守ることにした——。
『——私の仕事はここまでだね……おや』
すると、何かに気づいたラキは、遠くを見渡すように目を凝らす。
そこには、薄桃色の髪の少女と、懐かしく輝く光の塊。
『あ……あれは、間違いないわ』
ラキは、涙ぐむ瞳を何度も擦りながら——彼らに大きく手を振るのだった。
『お帰りなさい——カガミさぁん!』
想い続ける恋が、相手に伝わることで初めて愛と呼ばれる。
恋という想いを愛へと変えていく行為を、私は“恋愛”と呼びます。
ご愛読ありがとうございます。
白銀鏡が描いた一つの恋物語でした。
もちろん……彼らの物語には、ちゃんと続きがあります。
いつか、愛へと変わりますからね〜
題して、愛と共に編——。
彼らの行く末が気になる方は、ぜひそちらまでご覧くださいm(_ _)m
ってなわけで!
こっからは、だだ転の本編のスタート\(//∇//)\
お次は一週間後! 第二章、鏡と共に編!
明かされた秘密と共に、鏡という物語のスタートです!
お待ちしてます!!!
白銀鏡でした〜




