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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第一章 恋と共に
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第14話 いつか愛へと変わるまで

全てを見届けたラキ。

果たして彼女の決断は……?

そして、恋する乙女たちは何を思うのでしょうか。

恋と共に、最終回!!!


いつか愛へと変わる恋


どうぞ。


 法王の書庫にて。


 今日もそこでは、紫髪の魔法使いの少女が魔導書を開き、勉学に励んでいた。


「それで、うまくいったの? 愛しの彼とは——」


「ちょっとニーテ! 誰かに聞かれちゃうじゃない……」


 向かいに座る友人の一言に、テゴラは慌てて辺りを見回す。


 人の気配がないことを確かめると、ようやくほっと息をつき、観念したように口を開いた。


「全然だめ。ありゃ、脈ないや」


 その答えに、本から目を上げるニーテ。


「そう……想いの紐は、ちゃんと渡したの?」


「……渡した。でもさぁ、彼、私の気持ちなんてちっとも気づいてくれないの」


 ——あの紐は渡せた。


 けれど、想いだけはまだ届いていないと言う。


「はぁ⁉︎ それじゃ脈があるかないかも分かんないじゃない!」


「へへ……そうだね」


 何の進展もしていないというのに、照れ笑いを浮かべるテゴラ。


 ニーテは呆れたように息を吐いていた。


「女に贈り物を貰って、気づかないそいつも馬鹿だけど——それで満足してるあんたも相当の馬鹿よ。これならいっそ、惨めに振られた方がよかったのに」


「ちょっとぉ……私はいいけど、ルキ君を馬鹿にしないでよ」


 小さく頬を膨らませるテゴラを気にも留めず、ニーテ再び書物へ視線を落とす。


 やがてテゴラは——ぽつりと呟いた。


「仕方ないじゃん……彼、恋してるんだもん」


 その一言に、思わず顔を上げるニーテ。


「……そういうことだったのね。それで、一体誰なのよ。彼が恋してる相手って——」


「……剣」


 一瞬の沈黙。


 そして。


「もうっ! さっきから何なのよ⁉︎ こっちは真剣に聞いてるのに! 剣に恋してる⁉︎ どんだけイカレ野郎なのよ、そのルキってやつは!」


 勢いよく机を叩くニーテ。


 すると、焼け焦げた匂いが、その場に漂い始めていた。


「ニーテ! 火! 火!」


「あっ! いけない——」


 慌てて冷気を放ち、煙を上げる机を必死に冷やす。


 やがて火が収まり、少し恥ずかしそうに顔を背けた彼女は、何事もなかったかのように再び本を開いた。


「あはは……」


 すっかり怒らせてしまった彼女の顔をそっと覗きながらも——静かに続けるテゴラ。


「ルキ君はね、強くならなきゃいけない理由があるの——」


 ニーテは眉をひそめたまま、横目だけを向ける。


「彼……仲間も家族も、みんな亡くしてるから」


 その言葉に、ニーテは小さく息をついた。


「気の毒だとは思うけど……そんな話、今時珍しくもないでしょう」


「うん……だけどね。普段あんなに楽しそうに笑うルキ君が、その話をしている時だけ、泣きそうな顔をしてたの。それを見たら……私——」


 目を潤ませながら、それでも笑おうとするテゴラ。


 そんな彼女を見つめるニーテは、それ以上何も言えなくなっていた。


「だからね。ルキ君が私を見ていなくたって、私は彼を支えたいって思ったの。それに、今のルキ君は……何を言ったって、振り向かないもの」


「テゴラ……」


 想いは届かなかった。


 けれど、それでよかったのかもしれない。


 今の彼に必要なのは、恋ではなく、大切な人を守れるだけの強さ。


 そう思えたからこそ、テゴラは穏やかに微笑んでいた。


 ——しばらく黙っていたニーテは、やがて小さく息を漏らす。


「まあ……あなたがそれでいいなら、文句はないわ。でも——」


「わかってる」


 最後まで言わせることなく、テゴラは静かに頷いた。


「わかってるよ、ニーテ。いつか……いつか必ず——」


 そして、窓の外へ視線を向ける。


 その胸に灯った想いは、未来へ向かって静かに燃え続けていた。


 * * *


 一方、その頃、テスカの屋敷にて。


「ルキ様……」


 紅茶の入った小さなカップを片手に、同じ空へと想いを馳せる、もう一人の恋する乙女。


「おかわりはいかがですか? ナナお嬢様」


「いえ……今は結構ですわ」


 空になったカップを庭のテーブルへと置いた——その時だった。


「——うっ!」


「お嬢様?」


 再び、自分の心と体を、何かの魂がそっと包み込む。


 何度も味わったその感覚に、ナナはすぐさま使用人へと言葉を向けた——。


「今すぐおかわりをいただけますか? 砂糖とミルクもお付けして。それから……少し一人になりたいので、席を外してくださいまし」


「……え、ええ、かしこまりました——」


 やがて、手際よく紅茶を淹れた使用人は、砂糖とミルクを添えて静かにその場を後にする。


 そして、庭に誰もいなくなったことを確かめたナナは——ようやく息をついた。


「今日はいかがなさいましたか? 女神様」


(えへへ。やっぱり、わかっちゃった?)


 彼女の耳に直接響く声。


 その日はいつもと違い、()()に体の主導権を奪われてはいなかった。


「このようなお声をされているのですね。初めて耳にしましたわ」


(そうだったね——えっと……今日は伝えたいことがあって)


 小さく微笑んだナナは、続きを促すようにカップを口へ運ぶ。


(ありがと……)


 甘くまろやかな味わいが、()()の間にゆっくりと広がっていく。


 その甘さを味わうように、彼女は穏やかな声を響かせた。


(ナナちゃんと()()の——今日で最後にしようと思うんだ)


「……どうして、そう思われたのですか?」


 ナナの問いかけに、少しだけ言葉を探すように沈黙する。


 そして。


(——いけないなって、思ったの)


 脳裏によぎるのは、あの日見た——少女の涙。


(誰かが笑ったり、誰かが泣いたり……そんなことを、私の手で変えちゃいけないんだって)


 少しだけ震えた声が続く。


(誰かの運命に味方することは……誰かの運命を断ち切ることみたいで、私には辛いの)


 彼女は小さく息をついた。


(だって私……)


 残された弟を遠くから支えることしかできない。

 自分はすでに、この世にいない存在。


 だが——。


(……幸運の女神なんかじゃ、ないから)


 彼女は最後まで言い切ることはできなかった。


(うまく言えないけど……ごめんね)


 見守ることしかできない自分が、少しだけ歯がゆかった。


 しかし、その胸を包み込むように、ナナの手が添えられる。


「——いいえ。私は感謝しております」


 ゆっくりと紡がれる言葉が、胸の痛みを優しく溶かしていく。


「あなたはいつだって、ルキ様も、私も助けてくださいました」


 そして、ナナはそっと目を伏せた。


「あなたは紛れもなく——幸運の女神様です。どうか、ご自分を責めないでください」


(そんな……)


 その一言とともに、彼女の涙がナナの瞳を伝い、静かにこぼれ落ちる。


 ナナはその雫を、指先でそっと拭った。


(やめてよ……ナナちゃん)


 弟のそばにいてくれた彼女を、今度は自分が陰から支えたい。


 そう思っていたはずなのに——救われていたのは、自分の方だった。


「ありがとうございます。私のことなら、もう心配はいりません」


 ——やがて、穏やかに微笑み、空を見上げるナナ。


「何を言っても、今の彼はどなたにも振り向きません」


 その声は切なく、それでいてどこか確信に満ちていた。


「きっとあの方は、恋よりも大切な何かを追いかけている。そんな気がするのです」


 一度だけ目を閉じ、胸の奥にある想いを確かめるように息をつく。


「それに、いつか——」


 そして、静かに瞳を開いたナナは、まっすぐ前を見据えた。


「いつかその時は、借り物ではない私自身の勇気で、ルキ様を振り向かせてみせますわ」


 ——その決意には、弟を想い続ける少女の強さを感じられた。


 もう、背中を押す必要はない。

 この子なら、自分の足で歩いていける。


 そう思えた瞬間、胸を締めつけていた罪悪感は、安堵へと変わっていった。


(ありがとう……ナナちゃん)


 優しい声が、最後に響く。


 そして——。


(さようなら)


 その言葉を残し、彼女の魂は空に溶けるように静かに昇っていった。


「……あっ」


 ——突然の別れに思わず立ち上がり、空へと手を伸ばすナナ。


 しかし、その指先が何かに届くことはなかった。


 一陣の風だけが、別れを惜しむように庭を吹き抜ける。


 涙をにじませるナナだったが、やがてゆっくりと手を下げ、あの日の景色を思い出す。


 夢中になって鍋をかき混ぜる()()が、幸せそうに見つめていた光景。


 それは、彼女の記憶を通して見た、仲睦まじい姉弟が囲む温かな食卓だった。


 だからこそ、ナナは優しく微笑む。

 決して届かない——遠くの空へと。


「また、遊びにいらしてくださいね——お姉様」


 * * *


 ギルバディアの王宮にて。


 その上空で、全てを見届けた幸運の女神様は、ただ一人、どこかで聞いたような言葉を漏らしていた。


『はぁ……神様稼業も、大変なんですね』


 ——ルキを巡る恋物語は、一つの結末を迎えた。


 運命も、勇気も。

 それだけでは、今を生きる彼の心は動かなかった。

 

 それでも、彼女たちは燃やし続ける。

 胸に灯った——恋という炎を。


 独りよがりの想いが届き、互いに向き合ったそれが、愛へと変わるその日まで。


 たとえ、どういう結果に転んでも、彼女たちならきっと、後悔しない方を選んでくれるだろう。


 幸運の女神は、その日まで彼女たちを遠くから見守ることにした——。


『——私の仕事はここまでだね……おや』


 すると、何かに気づいたラキは、遠くを見渡すように目を凝らす。


 そこには、薄桃色の髪の少女と、懐かしく輝く光の塊。


『あ……あれは、間違いないわ』


 ラキは、涙ぐむ瞳を何度も擦りながら——彼らに大きく手を振るのだった。


『お帰りなさい——カガミさぁん!』

想い続ける恋が、相手に伝わることで初めて愛と呼ばれる。

恋という想いを愛へと変えていく行為を、私は“恋愛”と呼びます。


ご愛読ありがとうございます。

白銀鏡が描いた一つの恋物語でした。


もちろん……彼らの物語には、ちゃんと続きがあります。

いつか、愛へと変わりますからね〜


題して、愛と共に編——。


彼らの行く末が気になる方は、ぜひそちらまでご覧くださいm(_ _)m


ってなわけで!

こっからは、だだ転の本編のスタート\(//∇//)\

お次は一週間後! 第二章、鏡と共に編!


明かされた秘密と共に、鏡という物語のスタートです!


お待ちしてます!!!

白銀鏡でした〜

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