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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第一章 恋と共に
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第12話 ついてないなぁ

テゴラとのデートを見てしまったラキ。

ナナ推しの彼女は、冷や冷やしながら二人を見守るが。

その時、幸運の女神は……。


ついてないなぁ


どうぞ。

 五番街の空に、人知れず悲痛な叫びが響いていた。


『ルキのばかぁぁぁ! こんなところで何やってんのよ⁉︎』


 ラキが目撃してしまったのは、女の子と仲睦まじく笑い合う弟の姿。


 だが、その相手は——あのお嬢様ではなかった。


『ナナちゃんというものがありながら、テゴラちゃんとも……⁉︎』


 頬傷に八重歯、緑色の髪。


 彼女もよく知る、ルキと同じ少年隊の少女——テゴラである。


 気分転換にと街を舞っていたラキは、思わぬ現場に遭遇してしまったのだ。


「私だって、もう子供じゃないんだから。恋人くらいいるわよ。ね? ルキ君——」


「そ、そうだな」


 まさかと思いついて行くと、テゴラに腕を抱かれたルキが、なにやら気まずそうに頭を掻いている。


『そうじゃないでしょうが! そこは否定しなさいよ!』


 決定的瞬間を目にし、ラキは頭を抱えていた。


 ——だが彼女は、二人のエギルの動きを見逃してはいなかった。


『……むむむ』


 指の輪っかから再び二人を見守るラキ。


 肩を躍らせるテゴラのエギルは、小刻みに揺れている。


 対して、ルキのエギルは穏やかなまま。


 その様子に、ほっと胸を撫で下ろした。


『まだ……大丈夫なようね』


 恋する者のエギルが、どのように揺れ動くのか。


 彼女は、もう知っている。


 ——しかし。


『一瞬だけ……動いたけど』


 ナナと触れ合ったあの時と同じように、ルキのエギルはほんの一瞬だけ、小さく揺れていた。


『やっぱり年頃の男の子は、ああいうふうに密着されると弱いのかしら……』


 ラキの胸に、不安が残ってしまう。


 恋心などと言うのは、いつ芽生えるかわからない。


 またあの子が、あのような行動に出たら、ルキの心もいつか……。


 弟の支えになってくれたナナを推していた彼女は、ただ思い悩むのだった。


* * *


 一通りの観光を終え、疲れた足を休める二人。


「いやぁ、かっこいい武器だったなぁ!」


「ルキ君ったら……もっとおしゃれな店とかもいっぱいあったのに」


 満足そうに笑うルキを優しく見守るテゴラ。

 しかし、まだ昼を回ったばかりだというのに、彼は口を開いた。


「——そんじゃ、帰るか」


「え……?」


 彼女は思わず立ち上がる。

 去って行こうとする彼を引き止めるように小さく手を伸ばした。


「もう……帰るの?」


 振り向かせたい彼の横顔が通り過ぎて行く。


 だが。


「ルキ君! 待って!」


 彼女はすぐにその背中を呼び止めた。


「面白そうなお芝居があるんだけど、見に行かない?」


「芝居? 興味ないかな……それより修行の方が」


 彼女が用意していた——もう一つの策。


 しぶる様子を見せるルキだったが、それは、彼が飛びつきたくなるようなものだった。


「実践用の剣劇演舞なんだけど……」


「実践⁉︎」


 ——模造刀を使った派手な剣劇ではない、実際の武具を用いた臨場感あふれる芝居。


 兵力国家ギルバディアならではの名物だった。


「でもルキ君。芝居には興味ないんだよね? じゃあ、やっぱり——」


 今度はわざとらしく背を向けるテゴラ。


 しかし。


「行く! そんなのがあるんだったら、早く教えてくれよ!」


 振り返ると、そこにはすでに目を輝かせたルキがいた。


「うふふ……」


 彼の思考をうまく先回りしたテゴラは、小さく拳を握る。

 

「じゃあお菓子でも買って、早速いきましょう!」


 そして、再び肩を躍らせ薄暗い劇場へと足を運んでいくのだった。


* * *


 ——カキーンッ‼︎


 剣戟の火花が、薄暗い劇場を照らしていた。


 一歩間違えれば大怪我しかねないほどの、迫力ある戦いが目の前で繰り広げられる。


「初めて見たけど、すごい……本当の戦場みたいだね」


 あまりの臨場感に、思わず手に汗を握るテゴラ。


「なるほど! あんな技もあるのかぁ」


 一方のルキは、実戦さながらの剣劇に夢中になり、その一つ一つの動きを目で追っていた。


 そんな横顔を、テゴラは何度もちらりと見つめる。


 そして、舞台の物語はさらに進んでいった——。


「——ああ、女神様。どうしてあなたは女神様なのですか」


 物語は終盤にさしかかる。


 描かれるのは、一介の騎士と王族の叶わぬ恋物語。


 舞台の上で手を取り合う男女が、互いを愛おしむように身を寄せ合う。


 その熱に当てられた観客たちもまた、胸を高鳴らせ、潤んだ瞳でその光景を見つめていた。


「こういうのも……いいよね」


 頬を赤らめたテゴラは、そっと隣へ視線を向けようとする。


 ——もし、彼も自分と同じ気持ちでいてくれたなら。


 そんな彼と目が合ってしまったら、自分は一体どうなってしまうのだろう。


 そう思うと、その視線を彼の顔まで持ち上げることはできなかった。


 すると、想いを抑えきれなくなった彼女は、そっと手を横へ這わせていく。


「ルキ……君——」


 さりげなく、触れるくらいなら……。


 今一度勇気を振り絞り、彼のぬくもりを確かめようと、ゆっくりと手を伸ばした。


 しかし——。


「あ……あれぇ?」


 想いを込めたその手は空を切る。


「ふぁ〜あ。戦いのとこは、もう終わりかぁ……」


 隣では、あくびを押さえながら眠そうに目をこするルキが、大きく背伸びをしていた。


「うぅぅ……また」


 ここぞという時に踏み込んでも、どうにも噛み合わない。


 幸運の女神というものがいるのなら、一言文句でも言ってやりたい。


 そんな気分で、テゴラはがっくりと肩を落とし、再び舞台へと視線を戻すのだった。


* * *


『ふぅ、危なかったわ。テゴラちゃんには悪いけど、傷つかないまま諦めてくれないかなぁ……』


 ほっと胸を撫で下ろす幸運の女神。


 そんな彼女に見守られながら、二人は劇場を後にしていた。


「しかし、すごい迫力だったよなぁ」


 余韻に浸りながら、腕を振りテゴラの後ろを歩いていたルキ。


「うん! 本物の兵士さんたちが演じてるから、やっぱり迫力が違うよね!」


 一方、へこたれる様子もない彼女も笑顔で応えていた。


 すると、街のとある下り階段の前で、その足をふと止める。


「ん? 急にどうしたんだ。あっ……」


 ルキも立ち止まり顔を上げると——。


「おお……綺麗だなぁ」


 五番街を、真っ赤な夕日が優しく照らしていた。


 建物の隙間から差し込む茜色の光に、ルキも思わず見入ってしまう。


「私ね、ここから見える夕日が——とっても好きなの」


 武器でも、芝居でもない。


 彼女が本当に見せたかったのは、この景色だった。


「見て欲しかったんだ……ルキ君に」


 胸の奥に秘めた想いと同じ色に染まる空を見つめながら、テゴラはそっと彼の横顔を見上げる。


 やがて、夕日に目を輝かせていたルキは、静かに口を開いた。


「今日はありがとうな、テゴラ」


 それは、ようやく見ることができた彼の無邪気な笑顔。


「この夕日も見れて——よかったぜ」


「ほ、ほんと……⁉︎」


 こんなにも彼が自分を見てくれたのは、今日が初めてかもしれない。


 彼女の胸の熱は、今までにないぐらいに高まっていた。


『むむむ……これはまずい』


 赤く実りはじめた二人を、険しい表情で見守るラキ。


 だが、その視線をよそに、テゴラはついに決心した——。


「ルキ君……私——」


 そっと懐へ手を伸ばす。


「ルキ君に渡したいものがあるの。これ——」


 彼へ想いを届ける、あの紐を渡すなら今しかない。


 しかし——。


「あれ……?」


 彼女の手は、再び空を切っていた。


「おかしいな……確か、ここに……」


 慌てて服の上から体を探るテゴラ。


 肌身離さず持っていたはずの想いの紐が、どこにもなかった。


「どうしたんだ?」


 反対側を探しても、服の中を探しても見つからない。


 何度体を叩いても、落ちてくるものは何一つない。


「嘘でしょ……どこかで落としちゃったの?」


 慌てて歩いてきた道を振り返る。


 そこには見渡す限りの人混みが広がっていた。


 あんな小さな紐が、その中から見つかるはずもない。


「テゴラ……?」


 状況がわからないルキは、何度も彼女に声をかける。


 だが、その返事はなく——やがて、テゴラの背中は小さく震え始めていた。


「せっかく……あんなに」


 どうしても伝えたい想いを、毎日少しずつ紐に込め続けてきた。


 少しでも彼に振り向いてほしくて、勇気を振り絞って、ようやくここまで来たのに。


 それでも最後の最後で、その想いの結晶を渡すことすらできない。


 そんな残酷な結末が、ただ辛くて、ただ悔しかった。


「そんな……あんまりだよ」


 燃え尽きることすら許されず、不運の一言で片付けられてしまう運命。


 その理不尽さに、彼女はこらえきれず涙をこぼしていた。


「おい——大丈夫かよ?」


 背中から聞こえた彼の声で、ようやく我に返る。


「あ……ごめん」


 振り向こうとするが、こんな顔は見せられない。


 テゴラは慌てて涙を拭った。


 そして——。


「……ついてないなぁ」


 ため息とともに、小さく呟く。


 仕方がない……そう笑うしかなかった。


「——ごめん。私、もう帰るね」


「え? ……お、おう」


 別れの空気にもなれないまま、その場を離れようとするテゴラを、ルキはただ見つめていた。


 しかし——次の瞬間。


 そんな彼女へ、“幸運の女神”が舞い降りる。


「——うっ⁉︎」


 体が硬直し、テゴラの背筋がぴんと伸びた。


「テゴラ?」


 その不自然な様子にルキが眉をひそめる。


 やがて目をゴシゴシと擦った彼女は、勢いよく振り向いた。


「ルキくん! ——訓練、訓練場に行きましょう!」


「は?」


 突然の提案に、ルキは目を丸くする。


「さっきのお芝居の技、練習するの! 私さ、今日も夜中まで付き合っちゃうから!」


 わけのわからないまま話を聞いていたルキだったが、やがてその表情はいつもの笑顔へと戻る。


「いいのか⁉︎ 俺もちょうど、剣を振りたくてうずうずしてたんだ!」


 がしっと手を取り合う二人。


 ——その瞬間。


「——えっ?」


 テゴラの体から、ふわりと何かが抜け出した。


「私……今、なんて?」


 我に返った彼女は、状況が飲み込めず首をかしげる。


 しかし。


「ほらほら! 早く行こうぜ!」


「わっ! 待ってよ——」


 彼に引っ張られるままに、二人は階段を駆け下りて兵舎へと走っていった。


 そして——。


『さてと……ここからが大変ね』


 空から二人の背中を優しく見送るラキ。


 そのまま彼女は、夕暮れに染まる五番街の街並みへと静かに姿を消すのだった。

贈り物だった想いの紐を無くしてしまったテゴラ。

幸運の女神様は、不運な彼女を見逃しませんでした。


次回!テゴラ回のクライマックスです。


金曜日に〜

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