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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第一章 恋と共に
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第11話 恋人くらいいるわよ

ついに始まりました!

お次の休日のデートは……テゴラ⁉︎

ナナというものがありながら、いったいなぜ……。


恋人くらいいるわよ


どうぞ。

 数日後の休日の朝。


 凱旋通りと花の道が交わる場所から西へ向くと、そこには城門とは違う、豪華な造りの大きな門がそびえ立っていた。


 五番街の入り口である——。


「むむむ……」


 その門の前で、今日という日を待ちに待っていた少女が、険しい顔で誰かを待っていた。


「おかしいなぁ……もう時間、過ぎてるのに」


 凱旋通りの中央にそびえる大時計を見上げながら、テゴラは彼の到着を待つ。


 ——時間にしたら、五分、十分の遅刻。


 今日のためにおしゃれをして、何日も前から楽しみにしていた彼女にとっては、そのわずかな時間さえも大きな不安になっていた。


 場所を間違えたのだろうか。

 時間を勘違いしたのだろうか。


 それとも——やっぱり自分なんかに、興味はないのだろうか……。


 時計と通りを何度も見比べるたび、一度芽生えた小さな不安は、風船のようにどんどん膨らんでいく。


 すると——。


「テゴラー! いたいた!」


 振り返ると、大きく手を振りながら、こちらへ駆け寄ってくるルキの姿があった。


 その瞬間、胸いっぱいに膨らんでいた不安は、ぱちんと弾けて消えていく。


 こぼれかけていた涙も、そっと引っ込んでいた。


「遅いよルキ君! もう! 女の子を待たせるなんて——」


 腕を組んでそっぽを向くテゴラ。


 怒ったふりをしていたその口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。


 * * *


 数日前。


 月明かりが照らす剣庭にて、剣を交えるルキとテゴラ。


「おっしゃ! まだまだ行くぜ!」


「ちょっと待って! もう、きゅうけ——」


 息を切らしたテゴラは、その場へへたり込む。


 彼女につられて一息ついたルキも、星空を見上げた。


「もうこんな時間か——悪いな。いつも夜中まで付き合わせちまって」


 呼吸を整えたテゴラは、にっこりと笑う。


「最近、訓練後の修行をサボってたからね……取り返さなきゃ」


 吹っ切れたように笑う彼女を見ながら、ルキは口を尖らせていた。


「しっかし、今日に限ってナポルの奴が来ねーとはな。せっかく三人揃う日だと思ったのによ」


「あいつも案外忙しいのよ。それよりさ——」


 ——すると、頬傷へ指を添えたテゴラが、小さく息を吸う。


「今度の休日……二人で、武器屋を回ってみない?」


「武器屋ぁ⁉︎」


 思わぬ誘いにルキは目を丸くした。


「私たちも、もうすぐ一般兵になるでしょ? 実戦用の武器も見てみたいし……」


「へぇ、面白そうだけど……訓練がなぁ」


 興味はある。


 だが、最近は休日の修行を休みがちだったため、その時間も惜しかった。


「ねぇ、いいでしょ? 私の地元の五番街なら、案内もできるし……」


 まっすぐ迫ってくるテゴラに、ルキは苦笑する。


 いつも訓練に付き合ってもらっている彼女の頼み。

 断ることはできなかった。


「じゃあ、案内してもらおうかな」


「やったぁ!」


 その一言で、テゴラの表情がぱっと輝く。


「じゃあ、今度の休みの朝、五番街の入り口で待ってるね!」


 嬉しそうに駆け去っていく背中を見送りながら、ルキは小さく呟いた。


「休日の訓練は……朝と夜に回すか!」


 半ば強引に決まった予定だったが、不思議と悪い気はしない。


 それよりも。

 

「武器屋かぁ……」

 

 彼は、新たな出会いへと胸を躍らせていた。


* * *


 そして、休日の朝。


「——今日くらい、朝の訓練休めばいいのに……」


「悪い悪い」


 遅刻の理由に呆れながらも、テゴラは白い八重歯を覗かせる。


「じゃっ! 早速行きましょう!」


 やがて、息を整える間もなく、二人は歩き出していた。


 ——やってきたのは五番街。


 三番街のような若者向けの賑やかな通りとは違い、そこから先の西の街は、“大人の街”と呼ばれている。


 入り口の五番街には兵士向けの武具店。

 その先へ進めば酒場や夜の店など、まだ彼らには縁のない店が軒を連ねていた。


「おお! これなんか、かっけぇ!」


「似合ってるわよルキ君!」


 店先で白銀の剣を手に取っていたルキ。


 近頃は商人テスカの協力もあり、ギルバディアにも様々な武具が並ぶようになっていた。


 歩いては止まり、様々な武具に目を輝かせていると、そこに——。


「テゴラちゃん! 帰ってきてたの?」


 夢中になっていたルキの隣へ、懐かしい声が飛んできた。


「おばさん!」


 声を掛けてきたのは、地元で顔なじみの女性。

 そして、彼女の視線は隣へと移る。


「まあまあ、こんな格好いい男の子を連れて歩くなんて——もしかして、デートかしら?」


 訝しげに細めた目に、愛想笑いを浮かべていたテゴラだったが、彼女は思い切ってルキの腕を取った。


「私だって、もう子供じゃないんだから。恋人くらいいるわよ。ね? ルキ君——」


「そ、そうだな」


 突然振られたルキは、押し切られるままに頷く。


 そして。


「ふふっ。お幸せにね」


 言い残した女性は、笑いながら去っていった。


「テゴラぁ……これで何度目だよ。お前の知り合いに見られるの」


「ごめんごめん! ここ地元だからさ。今みたいに見栄くらい張らせてよ」


 呆れるように呟くルキに、パッと手を離すテゴラ。

 彼女の知り合いに会うたび、何度も同じような誤解を招いていた。


 そんな事情など気にも留めず、彼は人混みを睨みながら眉をひそめている。


「でも気を付けろよ? この街には、人の噂を広める地獄耳のスケベ野郎がいるからな——ったく、あいつ……」


 何のことかわからず首を傾げるテゴラ。

 すると、彼女は小さく呟いた。


「そういう噂なら……広まってもいいのに」


 ——それは、思わず漏れた心の声。


「……あ」


 自分でも驚き、顔が熱くなる。


 やがて、街の喧騒さえ遠く感じるほど、その意識は彼だけに集中していた。


「えっと……」


 もう引き返せない。


 テゴラは勇気を振り絞って——続けた。


「私たちが、付き合ってるなんて噂されたら……わ、私は嬉しいかなぁ……なんて——」


 熱くなった頬傷を掻く。


 そして。


「ルキ君は……どう、かな?」


 恐る恐る顔を上げると、そこには——。


「あれ……?」


 彼の姿はなかった。


「おーい! こっちこっち! 面白そうな店があるぜ!」


 少し離れた武器屋の前で、無邪気に手を振るルキ。


 彼の興味は、すでに次の物へと向いていた。


「もう! 勝手に行かないでよ!」


 せっかく振り絞った勇気が、誰にも届かないまま空振りに終わる。


 頬を真っ赤にしたテゴラは、小さく口を尖らせながら彼の後を追った。


「ルキ君のバカ……」


 ——懐にしまった想いの紐を、そっと握りしめる。


 あの日から積み重ねてきた想いも、勇気も、まだ伝えられていない。


「……でも、いつか伝えてみせるから」


 小さく誓ったテゴラは、もう一度前を向いて、彼の背中に歩み寄るのだった。

何も知らずについていくルキでした。

テゴラの勇気は彼に伝わるのでしょうか……。


前編終了でお次は中編!

火曜日に!

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