第11話 恋人くらいいるわよ
ついに始まりました!
お次の休日のデートは……テゴラ⁉︎
ナナというものがありながら、いったいなぜ……。
恋人くらいいるわよ
どうぞ。
数日後の休日の朝。
凱旋通りと花の道が交わる場所から西へ向くと、そこには城門とは違う、豪華な造りの大きな門がそびえ立っていた。
五番街の入り口である——。
「むむむ……」
その門の前で、今日という日を待ちに待っていた少女が、険しい顔で誰かを待っていた。
「おかしいなぁ……もう時間、過ぎてるのに」
凱旋通りの中央にそびえる大時計を見上げながら、テゴラは彼の到着を待つ。
——時間にしたら、五分、十分の遅刻。
今日のためにおしゃれをして、何日も前から楽しみにしていた彼女にとっては、そのわずかな時間さえも大きな不安になっていた。
場所を間違えたのだろうか。
時間を勘違いしたのだろうか。
それとも——やっぱり自分なんかに、興味はないのだろうか……。
時計と通りを何度も見比べるたび、一度芽生えた小さな不安は、風船のようにどんどん膨らんでいく。
すると——。
「テゴラー! いたいた!」
振り返ると、大きく手を振りながら、こちらへ駆け寄ってくるルキの姿があった。
その瞬間、胸いっぱいに膨らんでいた不安は、ぱちんと弾けて消えていく。
こぼれかけていた涙も、そっと引っ込んでいた。
「遅いよルキ君! もう! 女の子を待たせるなんて——」
腕を組んでそっぽを向くテゴラ。
怒ったふりをしていたその口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。
* * *
数日前。
月明かりが照らす剣庭にて、剣を交えるルキとテゴラ。
「おっしゃ! まだまだ行くぜ!」
「ちょっと待って! もう、きゅうけ——」
息を切らしたテゴラは、その場へへたり込む。
彼女につられて一息ついたルキも、星空を見上げた。
「もうこんな時間か——悪いな。いつも夜中まで付き合わせちまって」
呼吸を整えたテゴラは、にっこりと笑う。
「最近、訓練後の修行をサボってたからね……取り返さなきゃ」
吹っ切れたように笑う彼女を見ながら、ルキは口を尖らせていた。
「しっかし、今日に限ってナポルの奴が来ねーとはな。せっかく三人揃う日だと思ったのによ」
「あいつも案外忙しいのよ。それよりさ——」
——すると、頬傷へ指を添えたテゴラが、小さく息を吸う。
「今度の休日……二人で、武器屋を回ってみない?」
「武器屋ぁ⁉︎」
思わぬ誘いにルキは目を丸くした。
「私たちも、もうすぐ一般兵になるでしょ? 実戦用の武器も見てみたいし……」
「へぇ、面白そうだけど……訓練がなぁ」
興味はある。
だが、最近は休日の修行を休みがちだったため、その時間も惜しかった。
「ねぇ、いいでしょ? 私の地元の五番街なら、案内もできるし……」
まっすぐ迫ってくるテゴラに、ルキは苦笑する。
いつも訓練に付き合ってもらっている彼女の頼み。
断ることはできなかった。
「じゃあ、案内してもらおうかな」
「やったぁ!」
その一言で、テゴラの表情がぱっと輝く。
「じゃあ、今度の休みの朝、五番街の入り口で待ってるね!」
嬉しそうに駆け去っていく背中を見送りながら、ルキは小さく呟いた。
「休日の訓練は……朝と夜に回すか!」
半ば強引に決まった予定だったが、不思議と悪い気はしない。
それよりも。
「武器屋かぁ……」
彼は、新たな出会いへと胸を躍らせていた。
* * *
そして、休日の朝。
「——今日くらい、朝の訓練休めばいいのに……」
「悪い悪い」
遅刻の理由に呆れながらも、テゴラは白い八重歯を覗かせる。
「じゃっ! 早速行きましょう!」
やがて、息を整える間もなく、二人は歩き出していた。
——やってきたのは五番街。
三番街のような若者向けの賑やかな通りとは違い、そこから先の西の街は、“大人の街”と呼ばれている。
入り口の五番街には兵士向けの武具店。
その先へ進めば酒場や夜の店など、まだ彼らには縁のない店が軒を連ねていた。
「おお! これなんか、かっけぇ!」
「似合ってるわよルキ君!」
店先で白銀の剣を手に取っていたルキ。
近頃は商人テスカの協力もあり、ギルバディアにも様々な武具が並ぶようになっていた。
歩いては止まり、様々な武具に目を輝かせていると、そこに——。
「テゴラちゃん! 帰ってきてたの?」
夢中になっていたルキの隣へ、懐かしい声が飛んできた。
「おばさん!」
声を掛けてきたのは、地元で顔なじみの女性。
そして、彼女の視線は隣へと移る。
「まあまあ、こんな格好いい男の子を連れて歩くなんて——もしかして、デートかしら?」
訝しげに細めた目に、愛想笑いを浮かべていたテゴラだったが、彼女は思い切ってルキの腕を取った。
「私だって、もう子供じゃないんだから。恋人くらいいるわよ。ね? ルキ君——」
「そ、そうだな」
突然振られたルキは、押し切られるままに頷く。
そして。
「ふふっ。お幸せにね」
言い残した女性は、笑いながら去っていった。
「テゴラぁ……これで何度目だよ。お前の知り合いに見られるの」
「ごめんごめん! ここ地元だからさ。今みたいに見栄くらい張らせてよ」
呆れるように呟くルキに、パッと手を離すテゴラ。
彼女の知り合いに会うたび、何度も同じような誤解を招いていた。
そんな事情など気にも留めず、彼は人混みを睨みながら眉をひそめている。
「でも気を付けろよ? この街には、人の噂を広める地獄耳のスケベ野郎がいるからな——ったく、あいつ……」
何のことかわからず首を傾げるテゴラ。
すると、彼女は小さく呟いた。
「そういう噂なら……広まってもいいのに」
——それは、思わず漏れた心の声。
「……あ」
自分でも驚き、顔が熱くなる。
やがて、街の喧騒さえ遠く感じるほど、その意識は彼だけに集中していた。
「えっと……」
もう引き返せない。
テゴラは勇気を振り絞って——続けた。
「私たちが、付き合ってるなんて噂されたら……わ、私は嬉しいかなぁ……なんて——」
熱くなった頬傷を掻く。
そして。
「ルキ君は……どう、かな?」
恐る恐る顔を上げると、そこには——。
「あれ……?」
彼の姿はなかった。
「おーい! こっちこっち! 面白そうな店があるぜ!」
少し離れた武器屋の前で、無邪気に手を振るルキ。
彼の興味は、すでに次の物へと向いていた。
「もう! 勝手に行かないでよ!」
せっかく振り絞った勇気が、誰にも届かないまま空振りに終わる。
頬を真っ赤にしたテゴラは、小さく口を尖らせながら彼の後を追った。
「ルキ君のバカ……」
——懐にしまった想いの紐を、そっと握りしめる。
あの日から積み重ねてきた想いも、勇気も、まだ伝えられていない。
「……でも、いつか伝えてみせるから」
小さく誓ったテゴラは、もう一度前を向いて、彼の背中に歩み寄るのだった。
何も知らずについていくルキでした。
テゴラの勇気は彼に伝わるのでしょうか……。
前編終了でお次は中編!
火曜日に!




