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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第一章 恋と共に
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第10話 甘酸っぱいですわね

紆余曲折ありましたが、二人の結末は……?

お家デート最終回!

ご覧ください。


甘酸っぱいですわね


どうぞ。

『い……今のは——何だったの⁉︎』


 転倒して尻餅をつくナナの頭上で、慌てふためくラキ。


 何かを確かめるように、自らの胸を押さえた。


 だが——。


『むむむ……気のせいよね。アバンさんならともかく、弟相手に——』


 先ほどまであった痛いほどの心の高鳴りは、すでに消えていた。


 首を傾げたラキは、少し離れた場所からナナを見つめる。


『ナナちゃんってば……』


 そして、慌てふためく彼女の様子を見て、ようやく理解した。


 あの熱の正体が——恋の炎だったことを。


『あんなに熱くなるなんて——命懸けで恋をしているのね……』


 彼に触れるたび熱くなる恋心を、ラキはほんの一瞬だけ共有してしまった。


 やがて、その熱に気圧された彼女は、逃げるように身を引き、遠くから二人を見守ることにしたのだった。


* * *


「——急に転けたりして……大丈夫かよ」


「えっ? あ、はい……」


 いつの間にやら去ってしまった幸運の女神。

 ようやくその場に、二人だけの時間が訪れた。

 

「ほら」


「ありがとう……ございます」


 困惑しつつも彼の手を借り、再び向かい合うように椅子へと腰掛けるナナ。


 しかし。


「……」


 彼女はただ、口をつぐんでいた。

 今になって、彼を騙したような罪悪感が込み上がる。


 だが、不思議そうに彼女を見つめていたルキは、頭を掻きながら口を開いた。


「いつも通りで、いいんだぜ?」


「えっ?」


 怒りではない彼の意外な反応に、ナナは顔を上げる。

 やがて、その胸の内が明かされた。


「ルミナのやつに言われてさ——俺も、ナナの前ではちゃんとしなきゃって頑張ってたんだ」


「ルキ様も……」


 ()()の力まで借り必死になっていたナナだったが、何かを隠そうとしている彼女の気持ちなど、ルキにはわかっていた。


 それは、彼も同じことだったから。


「でもそれじゃ——なんかつまんねーんだよな」


「確かに……そうですわね」


 どこかスッキリしない表情を続けていたルキは——小さく息を吐く。


「だからさ——お互い嘘をつくのは、もうおしまいだ」


 そして、あの頃のままの無邪気な笑顔を、彼は見せてくれた。


「なんだか無理してたみたいだけど、俺はいつも通りのナナと一緒にいたいからさ」


「ルキ……様……」


 その言葉に、再び目を逸らしてしまうナナ。

 

 ——しかし、それは安堵の感情だった。


 ただ一緒にいたいと言ってくれる。

 

 たとえ触れ合えなくても、通じ合えなくても、それだけで、彼女の心は満たされていたのだ。


 彼の心を繋ぎ止めようとする、独りよがりの恋なんて、必要なかったのかもしれない。


「そう言ってくださって、ナナは大変嬉しく思いますわ」


 感謝するようにそっと手を合わせるナナ。

 彼へと視線を戻した彼女は、ようやく自然に笑うことができていた。

 

 今大切にすべき事は、変に勇気を出すことではなく、運命に身をまかせ、自然体な自分でいること。


 彼女の心の中の足枷は、一つ外れていた。


「おっ。なんだかいつものナナに戻ったみたいだな。さっ! 食べようぜ」


「ふふふ。でも私もうお腹がいっぱいですわ」


 二人の間にいつもの空気が戻り、楽しい食事を終えようとしていた——その時。


「——お待たせしました」


 ノックと共に使用人が扉を開けた。


「デザートの——蜂蜜入りの、焼きりんごでございます」


 熱々の湯気に乗せられた甘い香り。


「こんなものまで……すっかり忘れていましたわ」


「りんごかぁ……」


 二人のお腹が、ぐうと鳴った。

 フォークを手にしたルキは、目の前の焼きりんごを口へ運ぶ。


「くぅ〜……うまい!」


 優しい甘みと、どこか切ない酸味。


 幸せそうに目を閉じる彼を見て、ナナもまた小さく微笑み、焼きりんごを口へ運んだ。


 あの日、初めて芽生えた恋心と共に、真っ赤な果実をゆっくりと噛み締める。


「甘酸っぱいですわね。本当に——」


 口いっぱいに広がるのは、どこか懐かしい甘さだった。


 それは、ナナ自身の思い出だけではない。


 まるで、誰かの記憶まで溶け込んでいるかのような、不思議な懐かしさ。


 蜂蜜を口にしたことは何度もある。


 それなのに、この胸を満たす懐かしさだけは、どうしても説明がつかなかった。


* * *


 一方その頃、休日の兵舎には。


「やった。これで完成ね!」


 日が傾く頃、仰向けになりながら、緑色に染まった短い紐を掲げるのは——もう一人の、恋する乙女。


「えへへ。私にしては頑張ったよね」


 自分を褒めていたテゴラは、その紐をぎゅっと抱きしめ、目を閉じる。


 剣を振る彼の横顔を思い浮かべながら、空いた時間を見つけては、紐に想いを込め続けた日々。


 その時間が——彼女に勇気を与えてくれた。


 やがて、力強く起き上がった彼女は、白い八重歯をのぞかせる。


「よし! 後は渡すだけ——」


 決して苦ではなかったが、その日々にも、ついに終止符が打たれた。


「待っててね……ルキ君」


 言葉ではうまく伝えられなくても、この紐があれば、きっと——。


 張りつめていた力が抜け、テゴラは大きく息を吐く。


 積み重ねてきた日々の疲れは、その手に残っていた。

 けれど、その手には確かな勇気も握られていた。


 想いを伝えられずに終わるはずだった恋。


 その恋する乙女の瞳には、もう明るい未来しか映っていなかった。

彼女のそれは独りよがりの恋だったのかもしれません。

二人の結末は何のことはない日常に落ち着きました。

今ある運命に身を任せたナナ。

そして一方では、その手に勇気を宿すテゴラ。

この結末はいかに!?


てなわけで! お次は金曜日!

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