第三十六話
ヴァン達から逃げた徹也は、未だ王城に向かって走っていた。だが、最短距離では行っていない。徹也はあえて、その道を通っていなかった。
(……想定通り、ヴァン団長だけが追ってきたな。ここからが、正念場だ)
徹也が走りながらチラリと後ろを振り返ると、ヴァンが風に乗って追ってきているのが見えた。すると、ヴァンは上空から風で攻撃を仕掛けてきた。
徹也はその風を《脚力上昇》を使って避けながら、王城に向かって走り続ける。徹也は魔物狩りが終わってからの一週間の間に、この王都の地図を丸々暗記していたのである。
故に、徹也の走りには迷いがない。後ろからの風の攻撃を避けながら、走り続けていた。
「ちっ……!小癪な……!」
そんな徹也に苛ついたヴァンは、更に風による攻撃を強める。それと同時に、自分の後ろに風を起こし、更に加速して徹也へと迫った。
徹也はヴァンの風による猛攻を避けつつ、ヴァンの方を見る。そして徹也は、ヴァンが風で加速して迫ってきていることに気付き、腰から剣を抜いた。
剣を持ち、風を避けながら、徹也はヴァンを迎え撃つ。ヴァンはそんな徹也に風を纏いながら突っ込んできた。
「死ね!才無佐徹也!」
ヴァンはそう言って徹也に剣を振るう。そんなヴァンの攻撃を、徹也は《脚力上昇》から《腕力上昇》に切り替えて、剣で受けた。
「……っ!」
だが、徹也ではヴァンの攻撃を受け切ることができなかった。当たり前だ。いくら徹也が《腕力上昇》を使っているとはいえ、ヴァンは風に乗って上からの攻撃である。威力が段違いなのだ。
当然、徹也はヴァンの攻撃によって吹き飛ばされる。そして、壁に激突した。
大きな音が、辺り一帯に響き渡る。それと同時に、土煙が上がった。
徹也の全身に、痛みが駆け巡る。手が千切れたり、足がもげたりなどの大怪我はしていないが、その衝撃で徹也は動けなくなった。
徹也のその隙を、ヴァンが見逃すはずもなかった。
「……終わりだ」
ヴァンは壁にもたれかかり動けない徹也に目掛けて、剣に風を纏わせながら突っ込んできた。こんな絶体絶命な状況の中にも関わらず、徹也の表情に絶望はなかった。
むしろ、徹也は口角を上げていたのである。
ヴァンが徹也の近くまで来た瞬間、土煙の中をかけてくる影があった。それでも、ヴァンの剣は止まらず徹也に向かって振り落とされるが、その影がヴァンの剣を受け止めた。
その影の正体に気付いたヴァンは、目を見開いて驚いた。なぜ、この場に彼女がいるのか分からなかったからだ。
「……っ!なぜ、あなたがここに……!?」
「……そんなことは、どうでもいいでしょう」
ヴァンの問に、彼女は答えなかった。その代わりに、彼女はヴァンの方を鋭い目で睨んで、ヴァンに問いかける。
「それよりも、私の生徒に何をしているんですか?ヴァン団長」
現れたのは、徹也の教師である檜前刀夜であった。この事実に、ヴァンは徹也の方を見る。それに気付いた徹也は、口角を上げたままこう言った。
「悪いな……。タレン王国騎士団団長、ヴァン・ルーカス……。ここまで全て、対策済みだ」
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