第三十三話
そして、時は戻り魔物狩りの日。あの後、徹也達は他の生徒達と合流し、王都に帰還していた。
王都に入る門の前には、共に行かなかった騎士団の騎士と生徒達が待っていた。その中には、教会に配属された優愛の姿もあった。
そんな優愛の姿が見えた舞は、優愛の方を指さして徹也に話しかける。
「あ、あれ、優愛ちゃんじゃない?」
「……そうだな。そうだと思うぞ」
徹也は舞の問にそう答えた。徹也も舞に言われて見て、優愛がいることに気付いたのである。
徹也達がそこまで着くと、ある一人の騎士がヴァンに話しかけた。
「おかえりなさいませ団長。何も問題などは起こりませんでしたか?」
「……ああ。大きな問題は何もなかった」
「そう、ですか。それは何よりです」
ヴァンとその騎士は徹也達の方をチラリと見てそう話していた。それに気付いた徹也は、ヴァンとその騎士に気付かれないようにすぐに目線を逸した。
(……あの騎士、ルーカス派だな。やっぱり、最初から狙われていたのか……)
徹也がそんなことを思っていると、優愛が徹也達の近くまでやってきた。そして、心配そうな顔をしながら、徹也達に安否を問う。
「み、皆!大丈夫だった!?」
「……ああ。大丈夫だ。大した怪我もないしな」
徹也は優愛の問いに対してそう答えた。だが、優愛は徹也の反応に対して目を細め、ジロリと徹也の足を見る。
「……本当に?足、痛めてたり、切れてたりしない?」
「お、おう……。大丈夫だって」
疑う優愛に、徹也は吃りながらそう返した。しかし、優愛の目は更に細まった。徹也は絶対に怪我をしていると、優愛は確信していたのである。
優愛は徹也の足元にしゃがみ込み、徹也の右足を触る。すると徹也は顔を歪めて痛がった。
「っ……!」
「……やっぱり、痛めてる。すぐに治すから」
優愛はそう言うと、徹也の右足に手をかざし、目を瞑った。そして、魔法の名を唱える。
「……《セル・ヒール》」
優愛がそう言うと、優愛の手から光が出て徹也の右足を包む。すると、痛みがあった徹也の右足から、その痛みが引いていく。
「……どう?」
徹也の右足の痛みが完全に引いた時、優愛は徹也にそう聞いた。徹也は優愛の問に対して、右足の感触を確かめながら優愛に答えを返す。
「……ああ。問題ない。ありがとう光浦」
「……そっか。良かった。でも、隠さなくてほしかったかな?」
「っ……!悪い……」
優愛のそんな言葉に、徹也は顔を顰めてそう返した。更に目線は、優愛から逸している。にも関わらず、優愛は徹也の手を取り、徹也の顔を下から覗き込んで、徹也に訴えかけた。
「……才無佐君に、無理をしてほしくないの。お願いだから……」
「……分かってる。今度からは、何かあったらちゃんと言うよ」
「うん……。約束だよ?」
「……ああ」
優愛の真剣な願いに、徹也は肯定の意を示した。優愛に心配させてしまったことを悔やんでのことである。
だが、優愛と話している間、後ろで黙って聞いていた者達がいた。治伽に舞に刀夜である。
「ねえ?どういうことかしら?徹也君?怪我、してないって言っていたわよね?」
「そうだよね?言ってたよね治伽ちゃん?どういうことなのかな?徹也君?」
徹也は治伽と舞のその声を聞いて、優愛の方に向けていた顔を二人の方に向ける。すると、治伽と舞はジト目で徹也を見ていた。徹也はそんな治伽と舞の顔に恐怖を感じ、顔をすぐに刀夜の方へと向ける。
「……はあ。これはあなたが悪いわ。才無佐君」
だが、刀夜は無情にも徹也にそう告げた。頼みの綱をなくした徹也は、少し呆然としたが、治伽と舞によってすぐに現実へと引き戻される。
「なんで、言ってくれなかったの?私、聞いたわよね?」
「す、すまない……。心配をかけたくなくて……」
「……言ってくれないほうが、嫌だよ。ねえ徹也君?私達は、そんなに信用できないのかな……?」
「そ、そんなわけない!……分かってるから。次からは、すぐに言う」
舞の悲しそうに発した言葉に、徹也はすぐに否定した。そして、治伽と舞にそう伝えた。
それを聞いた治伽と舞は、少し笑みを浮かべて徹也にこう返した。
「……うん。約束だよ?」
「ええ。約束」
「……ああ。約束だ」
徹也は治伽と舞から約束を求められ、それを承諾した。元々、これからは伝えていくつもりなのだ。今回は心配をさせたくないというちっぽけな理由で見栄を張ってしまったが……。
(っていうか、ここで約束はできないとか言えないだろ……。マジで怖かったもんさっきの二人)
徹也はこう思っていたが、また新たな恐怖がすぐ近くにいることなど、徹也はまだ気付いていなかった。
「才無佐君?治伽ちゃん?舞ちゃん?どうして、治伽ちゃんと舞ちゃんが才無佐君のことを名前で呼んでるの?」
(……あ。や、やばい……)
優愛のその声のトーンから、徹也の体が震えた。それほどの恐怖を、徹也は感じたのである。
そして、それは治伽と舞も同様だった。治伽と舞には優愛の顔も見えていたので、よけいだったのだろう。
そんな治伽と舞の顔を見た徹也は、更に恐怖が増す。徹也は優愛の方に振り返りたくなかったが、優愛に肩を掴まれて振り返らざるを得なかった。
「ど、どうした……?光浦……?」
「どうした?じゃないよ才無佐君?なんでなの、って聞いてるの」
優愛のその言葉を聞いた徹也は、本当にものすごい恐怖を感じた。優愛の顔、雰囲気など全て相まってである。
(こ、怖い……。怖いって光浦……。こんな光浦初めて見た……)
「そ、それは、流れで……だな……」
「……ふーん。なら、私も呼んでくれるよね?私も才無佐君のこと名前で呼ぶから」
優愛はそう徹也に問うた。徹也は瞬時に理解した。この問に対する答えは、一つしかないことを。
「……あ、ああ。分かった……。ゆ、優愛……」
「……うん。徹也君」
徹也の答えに、優愛は満足そうに頷いた。そして、徹也を名前で呼んだ後の優愛は、とても嬉しそうだった。
(ふう……。どうにか乗り切ったな……)
一方徹也は、心の中でとても安堵していた。優愛の不機嫌が治まったからである。
そんな徹也達に、近づく三人組があった。将希に洋助、忠克の三人だ。
「お疲れ。光浦は久しぶりだな」
「あ、うん。久しぶりだね。お疲れ様」
徹也達のすぐ側まで来た将希は、優愛に声をかけた。優愛もそんな将希に、機嫌を良くしたままそう返す。
将希は優愛のその機嫌を少し疑問に思ったが、皆と会えて嬉しいのだろうという結論を出した。そしてまた、優愛に話しかける。
「光浦。そっちは大丈夫か?」
「うん。順調だよ。傷も直せるようになったんだ。さっきも、徹也君の怪我を直したんだ」
「て、徹也君……だって……?」
(あー……。また、面倒くさいことになりそうだ……)
優愛と将希の話を聞いていた徹也はそう思い、あまり話に入らないようにした。そんな徹也だったが、話から逃げられなかった。忠克が話しかけてきたからである。
「お、おい才無佐!怪我って、大丈夫だったのか!?」
「……ああ。大丈夫だ。もう直してもらったし……」
ここで優愛と呼ぶ程、徹也は馬鹿ではない。それをしてしまうと、将希が何か言ってくることが目に見えているからだ。
だが、徹也がそんなことを気をつけても、将希はすでに徹也を睨んでいた。それに気付いた徹也はため息を吐いた。
「そ、そうか。なら、いいんだけどよ……」
「……それより、早く門の中に入りましょう。もう皆、中に入っていっているわよ」
忠克が徹也の言葉を受けてそう答えた後、治伽が王都の中に入ろうと徹也達全員に伝えた。この空気から抜け出す為である。
徹也としても、早くここから逃げたかったことに間違いない。なので徹也は、すぐに治伽の話に乗っかった。
「そうだな。そうしよう」
徹也は治伽と共に門に向かって歩き出した。その後を、舞と優愛と忠克が追う。だが、将希と洋助はすぐには追わなかった。
(……また、誰かに睨まれてるな。それも、複数人に……)
それに気付いた徹也は、また大きなため息を吐いた。誰から睨まれているのかは分からないが、全て自分にきていることだけは間違いない。そう思った徹也は、気を引き締め直した。
これで終わりではないことを、徹也は察したからである。将希だけではないということは、ヴァンなどのルーカス派の騎士だろう。だからこそ、まだ終わっていないのだ。
そんなことを思いながら、徹也は治伽に舞、優愛に忠克と共に王都の中に入っていった。
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