第三十一話
「……はい。あります」
「では、聞かせてもらおうか。一体君達に、何ができるのか」
徹也の肯定の言葉に対して、ヘンリーはそう聞き返した。ヘンリーのその言葉に、徹也は刀夜の方に手を向けてから答えた。刀夜はそんな徹也の行動に少し驚いたが、徹也が話し始めた為何も言えなかった。
「俺達の教師である檜前刀夜先生は、【刀】の才能を持っています。これは、これまでに類を見ない才能であり、武器です。それによる新しい戦闘スタイルとその強さで、敵を倒すことができます」
「新たな才能、【刀】か……。それは確かに興味深い。強いというのがどこまでなのかは分からないが、切り捨てる程ではないだろう」
徹也の説明に、ヘンリーは頷いた。戦えるということは、間違いなくタレン王国の役に立つと考えているからだ。
徹也は刀夜の方に向けていた手をその隣にいる治伽に移した。そしてまた、ヘンリーに話し始める。
「望月治伽は、【女王】の才能を持っています。ヘンリーさんなら、この意味が分かると思いますが……」
「ほう……!君が、【女王】の才能を持つ……!素晴らしい才能だ……!間違いなく、タレン王国にとって有益なものになる……!」
ヘンリーは目を見開いて驚き、歓喜をあらわにした。当たり前であろう。初代王、十代王以来の、三人目の【王】の才能を持つ者が現れたのだから。話は議会で聞いていたヘンリーであったが、改めて感激した。
この時代に、【王】と【勇者】が揃って現れる。なんと素晴らしいことだろうかと、ヘンリーは思う。【賢者】がいないことは残念だが、【王】と【勇者】がいるだけでも時代が動き出す。そう考えたヘンリーであったが、一つ障害となり得るものが思い出された。ルーカス派のことである。
「……だが、そうか。ルーカス派は黙っていないだろうな。なるほど。だから私の元に来たのか。賢明な判断だ」
「……いえ。私は、徹也君に連れられて来ただけなので……」
ヘンリーの言葉に、治伽はそう返した。治伽のその返しに、また少し驚いたヘンリーは、視線を徹也に戻し口を開く。
「ほう。どうやら、君は頭が切れるようだな」
「……そんなことはないですよ」
ヘンリーの褒め言葉に、徹也はそんな否定の言葉を返した。実際、徹也は自分が頭が切れるような者であると思っていない。徹也は、自分よりも賢くて頭が切れるような人などそこら中にいると思っている。
(例えば、真理とかな……)
徹也はそう思い、クラスメートであり幼馴染の少女を思い描いた。模試は常にA判定で、成績はいつもトップ。周りから、天才と呼ばれていた少女である。
そんな真理も、この異世界に召喚されている。徹也はその双子の妹である真未も合わせて心配であったが、才能があったので王国に狙われることはないだろう。
なにより、クラスメートは徹也と真理、真未が幼馴染であることを知らない。学校内ではほぼ話さなかったのだ。それで急に話しかけるのも気が引けるし、自分に迫る危険に巻き込みたくはない。
徹也はそう考えており、まだ話せていないのだ。落ち着けば、話に行こうとは思っているが。
「……そういうことにしておこう。さて、次は?」
徹也がそんなことを考えていると、ヘンリーが続きを促した。徹也は慌てて考えを中断し、舞の方に手を向けてから話し始める。
「小早川舞の才能は【踊り】です。戦うことはできませんが、この【踊り】の才能は経済を活性化できる可能性があります」
「……なに?それは本当か?」
徹也の言葉を聞いたヘンリーは舞の方を向いてその真偽を問うた。舞はそんなヘンリーの問に、答えることができない。
「ふえ!?そ、その、わ、分かりません……。て、徹也君。ど、どういうこと?」
「……この世界は、娯楽が少ないイメージがあります。舞の【踊り】は、その娯楽になれるんです」
「……なるほど。娯楽か。確かに君の指摘の通り、この国には娯楽が少ない。だがそれは、それほどまでに余裕がないということなのだ」
「逆です。娯楽がないと、経済の回りが停滞してしまいます。それによって、国力が下がるんです」
徹也の説明に、ヘンリーは少し顔を顰める。徹也の言うことは尤もなのだ。だが、それでも経済を回せないのが現状である。
なぜなら、富裕層と貧困層の差が激しすぎるのだ。王都に住んでいる国民はまだマシの方だが、地方に住む者はまともな暮らしができていない。逆に大臣などの富裕層は、それとは比べ物にならない程の贅沢な暮らしをしている。
ヘンリーはそれらを考慮し、否定の意を徹也に伝える。
「……その通りだろう。だが、それでは経済は回らない程、国民は貧困なのだ。この城に住んでいる私達と違ってな」
「……それも、想定内です」
「……何だと?」
徹也のその返しに、ヘンリーは目を見開いて驚いた。まさか、そこまで考えることができているとは、ヘンリーは思わなかったのだ。
だが、徹也にとってそれは容易に想像ができる事実であった。富裕層と貧困層に分かれていることは、割とよくあることだからだ。それに、この国に来て最初に聞いた説明でも、この国に多くの問題があると言っていたので、そこからでも想像ができる。
だからこそ徹也は、これに対する対策もすでに用意していたのである。
「簡単です。富裕層が得ている金を貧困層に与えるんですよ」
「……間違いなく、上から反対意見が出るだろうな。その点は?」
「……それに関しては、まだ確信を持って言えませんが、ルーカス派の弱みを握ることができれば十分可能な範囲だと考えています。その弱みも、すぐに手に入るかと。もちろん、協力していただければ、ですが」
「……ほう。私からすれば、ありがたいことだな」
ヘンリーは徹也の言葉に頷き、ニヤリと笑みを浮かべる。この国の再生を目指しているヘンリー達スカーレット派としては、保身ばかり気にするルーカス派は邪魔な存在だった。
故にヘンリーにとって、ルーカス派が衰退することは願ったり叶ったりなのだ。そこまで考えた上で、ヘンリーは徹也に言葉を続ける。
「……いいだろう。最後に、君の才能を教えてくれないか?」
徹也はヘンリーのこの質問に対し、一瞬眉をひそめた。一番きてほしくない質問だったからだ。
ヘンリーとしては、これだけのことを考えられるのならば、それ相応の才能があると考えての発言だった。ある種、徹也に期待しているのだ。
だが、徹也はその期待に答えることはできない。その理由は明確である。
「俺は、才能がありません。【無能】です」
「……なんだと?」
徹也のそんな返答に、ヘンリーは心底意味がわからないという顔を浮かべた。間違いなく、何らかの才能があるのだろうと思っていたからだ。
ヘンリーは議会で【無能】がいるとは聞いていたが、まさか徹也とは思いもしなかったのである。
「……そうか。ならば――」
「けど!」
ヘンリーの言葉を遮って、徹也は先程よりも声を大きくしてそう言った。ヘンリーは言いかけていた言葉を中断し、徹也の言葉の続きを徹也と向き合って待つ。
「役に立たない無能ではない」
徹也のその言葉に、周りにいた全ての人が徹也を見た。治伽も、舞も、刀夜も、クリスもである。ヘンリーもまた、黙って徹也を見ていた。そんな状況の中で、徹也は更に言葉を続ける。
「例え才能がない【無能】でも、俺は有能であると、無能ではないと、証明してみせます」
徹也はそう、ヘンリーに言い切った。徹也のその言葉に対して、聞いていた者が反応を示す。
治伽と刀夜とクリスは、小さい笑みを浮かべていた。これは至極真っ当な反応であろう。
だが、舞は徹也から顔をそらしてその顔を自らの両手で覆っていた。赤くなった顔を隠す為である。先程の徹也を見て、舞はカッコいいと思い惚れ直したのだ。
ヘンリーもまた、治伽達と同じように小さく笑みを浮かべ、徹也に声をかけた。
「……ああ。頑張りたまえ。尤も、私はすでに有能だと思っているがね」
「……え?」
ヘンリーのその言葉に、徹也は驚いた。そう簡単に認められるとは思ってもみなかったのだ。
「当然だろう?あれ程の意見をしっかりと言える君が、役に立たないとは考え辛い。例え才能がない【無能】であっても、役に立つのなら何の問題もない」
「……ありがとうございます」
徹也は頭を下げて、ヘンリーに礼をした。そんな徹也を見たヘンリーはフッと小さく笑った後、徹也に手を差し出した。
「我々スカーレット派は、君達と協力関係を結ぶ。……で、構わないな?」
「……はい。よろしくお願いします」
ヘンリーから差し出された手を、徹也はガッチリと掴んだ。これにより、徹也達とスカーレット派は協力関係となった。
そしてこれは、徹也の対策が大きく前進した瞬間でもあった。
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