第二十二話
あの後、昼食を取った徹也達は、午後から各々が選んだ武器を使って訓練をしていた。徹也は治伽と舞と共に剣を振り、その出来を確認している。
「……てつ、才無佐君。割と様になってるわね」
治伽が徹也にそう声をかけた。今は舞もいるので、名前呼びはしていないのだろうと、徹也は思う。徹也もまた、他の人の前でわざわざ名前呼びをする必要はないと考えていたので、治伽に名字呼びで言葉を返す。
「……そうか?剣なんて、触ったこともなかったけどな。望月は感覚的にはどうだ?」
「……まあ、木刀と竹刀なら触ったことがあるけど……。少しだけしか触ってないし、その時と感覚がまるで違うから……。正直、役に立たないわね……。だから、そこまでいいとは言えないわ」
「……そうか。小早川は?」
「うーん……。私はよく分かんないかな……。正直に言うと、戦える気がしないよ……」
舞のそのような不安な声に、徹也と治伽は顔を顰める。徹也は、舞を戦わせたくはない。だが、一回はまず間違いなく戦うことになるだろうと思っていた。
なぜなら、騎士団を抜ける口実がないからだ。口実を手に入れるまでには、一度は戦わなければならないと、徹也は考えていた。
しかし、舞に無理をさせたくはない。できるなら、自分がなんとかしてやりたい。そう思った徹也は、舞に話しかける。
「……俺が守る、なんて、大層なことは言えない。でも、力になることぐらいは、多分できる。戦いの時、一人にはしない。俺がいるから」
「……うん。ありがとう。才無佐君……」
舞は頬を少し赤く染め、笑って徹也にそう答えた。その笑顔は、とても魅力的で、徹也は照れて舞から視線を逸らす。
「ふふっ……。舞?私もいるからね?」
「ふえっ!?う、うん!ありがとう治伽ちゃん!」
治伽の言葉に、舞は驚きながらそう返した。舞は徹也のことしか見えておらず、一瞬治伽を忘れていたのだ。
それほど、先程の徹也の言葉は、舞にとって嬉しく、そしてカッコいいものだった。舞にとっては惚れ直した、といったところだろうか。
「皆、少し聞いてくれ!」
徹也と舞、それに治伽が話し終えると同時に、ヴァンが全体に向かって話し始めた。その声に、生徒達が反応し、全員がヴァンの方を向いて、ヴァンの話を聞く。
「少しは武器に慣れてきた頃だと思う。それで、急で悪いが約一ヶ月後、次の月の初めに魔物狩りを行う」
魔物狩り。その言葉を聞いた徹也は、やはりきたかと思った。つまり、戦闘を行うということだ。
舞はヴァンの言葉で、少し体を震わせる。だが、舞は徹也をチラリと見てから息を吐き、落ち着きを取り戻した。
治伽もまた、笑顔を収めて真剣な顔でヴァンの話を聞いている。更に徹也の方にも視線を向けた。徹也がこの先、どう動くのかが気になったからである。
しかし、その魔物狩りに異を唱える者がいた。生徒達の教師である、刀夜だ。
「待ってください!それは、生徒の安全が保証されていないのではないのですか!?」
刀夜の言葉はもっともである。狩り、戦うことはすなわち、危険が迫ることを意味している。それで、生徒の安全が保証されているかというと、答えは否である。
だが、騎士団、及び国は何が何でもやるつもりだろうと、徹也は考えた。そうしなければ、折角の機会を見逃すことになるし、訓練も先に進めない。
徹也がそんなことを考えているとは思いもしないヴァンは、異を唱えた刀夜に語りかけた。
「安心してくれ刀夜殿。弱い魔物しか存在しないところに向かうし、我々騎士団が必ず守る」
(……嘘つけよ。本当は俺と治伽、それに小早川を始末するつもりだろ……。それに、戦闘において必ずとか、あるはずないのに……)
徹也はそう思い、睨むようにヴァンの方を見る。そのように思ったのは、刀夜も同様だったようだ。
「……それでは、安全が保証されているとは言えません。なので、受け入れることができません」
刀夜はそうヴァンに伝え、拒否の姿勢を示す。当然だ。刀夜が騎士団と国に求めている生徒の安全は、全くもって果たされていない。
だが、ヴァンも引き下がるわけにはいかなかった。国の為に、そして王の為に。
「……ならば、ルートとそこに出現する魔物、そしてその対処法も指導しよう。これならば、どうだ?」
「……それでも、教師として生徒達を戦わせるわけにはいきません」
「……分かった。戦いたくない者は、戦わなくて構わない。だが、魔物の存在は見ておいてほしい。ここは譲れない」
「それなら、まあ……」
ヴァンのその言葉を聞いた刀夜はチラリと徹也の方を見る。そんな刀夜の視線に気付いた徹也は、刀夜に向けて小さい頷きを返す。大丈夫です、という意味をこめて。
この魔物狩りに行くのは仕方ないと、徹也は考えていた。問題は、この魔物狩りをどう乗り切るかである。間違いなく、狙ってくることだろう。まずは、どこに行くのか知る必要がある。そうしないと、対策ができない。
徹也がそのようなことを考えていると、ヴァンが生徒達に語りかけた。
「と、言うことだ。各々、そのつもりで訓練に励んでくれ」
ヴァンがそう言い終えると、生徒達は頷いて訓練を再開した。ヴァンの言葉に頷かなかった徹也だったが、訓練は再開する。
だが、再開した直後、舞が徹也に話しかけてきた。
「さ、才無佐君……。どうしよう……。私……」
不安そうな声でそう言った舞に、徹也は剣を振るのを止めて手を舞の肩に置いた。そして、周りには聞こえないような小さな声で、舞に答えを返す。
「……まだ、すぐじゃない。一ヶ月後だ。一ヶ月あるんだから、その期間を有効に使おう」
「……そうね。その間に、そのための対策をするということね」
「ああ。だから大丈夫だ。小早川。一緒に対策を考えて、乗り越えよう。俺に、望月に、先生だっている」
「……うん。頼りにしてるからね?才無佐君」
舞は徹也の言葉に頷き、小さな笑顔を見せた。徹也によって、不安が解消されたのである。舞は、徹也がいるだけで安心できるのだ。そんな徹也が舞に伝えた言葉は、舞を立ち直らせるのに十分なものだった。
「はあ……私もいるんだけど……。舞には才無佐君しか見えていないんでしょうね……」
治伽は、後半は誰にも聞こえないような声でそう呟いた。治伽の前半の声が聞こえた舞は、慌てて治伽に声をかける。
「ご、ごめん治伽ちゃん!もちろん治伽ちゃんも頼りにしてるよ!?」
「……ふふっ。分かってるわ。一緒に頑張りましょう。舞」
「うん!治伽ちゃん!」
治伽と舞はそう言い合い、笑いあった。徹也もまた、治伽と舞の笑顔を見て小さく微笑む。そして徹也は、治伽と舞に話しかけた。
「早速、今日から対策を始めよう。訓練が終わったら、すぐにでも」
「ええ」
「うん!」
治伽と舞は徹也の言葉に頷く。そして、徹也達は剣を握って訓練を再開した。
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