第二十三話
あれから、約一ヶ月が経った。この一ヶ月、徹也は治伽や舞達と協力し、魔物狩りへ向けての対策に明け暮れた。そして今、徹也達は騎士団に連れられて、王都から少し離れた森まで来ている。
「出たぞ!あれが魔物だ!」
ヴァンの言うように、徹也達が向かう先にウサギに似た生物が現れていた。それを見た生徒達は、ゴクリと生唾を飲み込む。
「大丈夫だ。心配するな。殺傷能力はかなり低い魔物だ。我々騎士団がサポートする。戦って見てくれ」
そのような状態の生徒達に、ヴァンはそう声をかける。すると、生徒が出る前に、刀夜が前に出た。
「……私が行きます」
刀夜はそう言って、腰にある刀を抜いた。一ヶ月あり、刀が完成したのである。刀夜は刀を構えて、ウサギモドキと向き合う。その刀夜の後ろに騎士団の騎士達が、更に後ろに生徒達がいた。
「……エンチャント」
刀夜がそう呟くと、刀夜が持つ刀に風が纏われる。エンチャントとは、魔法を武器に纏わせることの略称である。刀夜の魔法属性は風であるので、刀夜の刀には風が纏われている。
刀夜はウサギモドキに向かって駆け出した。そして、刀を突き出すと、瞬く間に風がウサギモドキを細切れにした。
「……《風突》」
刀夜はそう呟いてから、刀を鞘に納めた。《風突》とは、刀夜オリジナルの突き技である。魔法を武器に纏わせるのはこの世界で一般的なことではあるが、刀という武器がこの世界に存在しなかった為、必然的にオリジナルになるのだ。
そして刀夜は、細切れになったウサギモドキの方を見てから、ヴァンに話しかけた。
「……倒せ、ましたか?」
刀夜はそうヴァンに問うた。異世界の生物であるので、きちんと倒せたかどうか不安だったのだ。
ヴァンはそんな刀夜の言葉に、すぐに頷いて肯定の言葉を返した。
「ああ。間違いなくな。少々、切り過ぎな気もするが……」
「す、すいません……」
「い、いや。切りすぎる分には問題ない。だが、これで生徒達も分かっただろう。この辺りで出る魔物はそこまで強くない。故に、どんどん戦ってほしい。ほら、また出てきたぞ」
ヴァンの言う通り、徹也達の前にまたウサギモドキが現れる。しかも、その数は三匹だ。すると、将希に洋助、それに忠克が前に出て、各々武器を構える。
「「エンチャント」」
洋助と忠克がそう言うと、洋助の剣には火が、忠克の剣には電気が纏われる。また、将希は洋助と忠克から少し遅れて、その言葉を言う。どの属性にするか悩んでいたのだ。
「……エンチャント」
そう言った将希の剣には、風が纏われていた。先程の刀夜の剣を見て、風属性でいこうと思ったのだ。
まずは洋助が、一匹のウサギモドキに向かって駆け出した。そして切ると、ウサギモドキは炎に包まれて燃え尽きてしまった。
「……《フレイム・スラッシュ》」
洋助はそう言って、剣を鞘に収めた。こちらもまた、刀夜のときと同じく圧倒的だった。
《フレイム・スラッシュ》は、この世界で一般的な技である。火属性適正で剣を使う者は、大体がこの技を使う。それほど、基本的な技だ。
それから少し遅れて、忠克と将希も前にいるウサギモドキに向かう。忠克は電気を、将希は風を剣に纏ったまま、それぞれその剣で一匹ずつのウサギモドキを切る。
「《サンダー・スラッシュ》」
「《ウィンド・スラッシュ》」
すると、忠克が切ったウサギモドキは電気で黒焦げに、将希が切ったウサギモドキは風で細切れになった。
《サンダー・スラッシュ》と《ウィンド・スラッシュ》も《フレイム・スラッシュ》と同様に、この世界では基本的な技である。そんな基本的な技であっても、ウサギモドキは一撃で沈んだ。つまり、ウサギモドキはそれほどまでに弱いのだ。
この光景を見た生徒達は安堵した。訓練でも何度もしてきた技で、こうも簡単に倒せたのだから。生徒達は自分達でも倒すことができると思い始め、次々と前に出て魔物と戦い始める。もちろん、戦う生徒達の後ろには騎士達が万が一に備えて控えている。
だが、徹也に治伽、そして舞は戦いに出ることなく、騎士団副団長であるクリスの近くにいた。この場所が一番安全であると、徹也が判断したからである。
「……皆、戦ってるわね」
「……そうだな。治伽も行くか?」
治伽の言葉に、徹也が反応する。徹也的には、治伽は実力的にも戦って問題ないとは思っていたのだ。徹也は実力的に、舞は精神的に戦えないが。
「ふふっ。行かないほうがいいんでしょう?」
「……まあ、できるだけ側にいてもらいたいけどな……」
「なっ!?も、もう……」
徹也の言葉に、治伽は顔を赤らめて照れた。少し、告白のように聞こえてしまったからだ。
だが、徹也はなぜ治伽が顔を赤らめているのか全く分からなかった。なので、徹也は治伽にその理由を問う。
「……おい。大丈夫か?治伽?」
「え、ええ。大丈夫よ……」
「むー……!徹也君?」
徹也の問に答えた治伽だったが、そんな二人を見た舞が頬を膨らませて抗議した。徹也が治伽を照れさせたことと、治伽ばかりと喋っていたことに対してである。
だが、そんな嫉妬を舞がしているとは全く思わない徹也は、頬を膨らませている舞に戸惑いながら言葉を返す。
「な、なんだよ……。舞……」
徹也は舞を名前で呼んだ。この一ヶ月の間に、徹也が治伽とシャーロットを舞の前で名前で呼んだことで、舞とも名前で呼び合うことになったのだ。
このとき、徹也は恥ずかしがって渋り、舞は呼ばれてからとても嬉しそうだった。
そして今も、徹也に名前を呼ばれただけで、舞は嬉しそうに笑顔を浮かべる。先程まで頬を膨らませて不機嫌だったのにも関わらず、だ。
「ううん!何でもないよ!それより、治伽ちゃんはもう大丈夫そうだから、心配しなくていいんじゃないかな?」
「そ、そうか……?」
舞の言葉を聞いた徹也は、そう返事をして治伽に視線を向けた。治伽はそんな徹也の視線に気付き、慌てて徹也に声をかける。
「さ、最初から大丈夫だと言ってるでしょ……」
そう言った治伽の顔は、もう赤くなくなっていた。それを見た徹也は、本当に納得し追求することを止める。
すると、戦闘を終えた刀夜が、前から徹也達のところまで下がってきた。そして、徹也に声をかける。
「問題ないかしら」
「……先生。はい。こっちは大丈夫です。クリスさんもいますし……」
徹也は刀夜の言葉にそう返して、クリスの方を見た。クリスは徹也に名前を出されたので、それに返事をする。
「はい。今のところは、何もないですね」
「……そうですか。ここからは、私もなるべく近くにいます。……で、いいのよね?才無佐君?」
「……はい。すいません。お願いします」
徹也は刀夜にそう礼を言い、頭を下げた。これは、一ヶ月の間に決めたことである。徹也は、刀夜とクリスにも協力を仰いだのだ。徹也が協力を仰いだ相手はこれだけではないが、ここでは割愛しよう。
徹也は刀夜にあまり迷惑をかけたくはなかったが、今回は頼らざるを得ないと判断した。何より、周りに頼れる大人が他にいなかったのだ。徹也は刀夜に申し訳なかったが、刀夜は喜んで引き受けてくれた。
「……いいのよ。気にしないで」
刀夜はそう言って、徹也に笑顔を向けた。徹也が頭を上げて刀夜のその顔を見ると、徹也はまた頭を下げた。そんな風に言われると、余計に感謝の気持ちが出てきたのだ。
「もう、いいと言ってるのに――」
「少しいいか!」
刀夜がそう言い切る前に、ヴァンが声を上げた。そのヴァンの声に徹也達はヴァンの方を向く。
「少し、この場所から動こうと思う!切りがついたら集まってくれ!」
ヴァンのその言葉によって、戦闘を止めてヴァンの方に集まっていく。そして、それは徹也達も例外ではなく、ヴァンの元へと向かわなければならない。
「……来たわね」
「……はい。よろしくお願いします。先生。クリスさん」
「ええ。任せて頂戴」
「はい。任されました」
徹也の頼みに、刀夜とクリスが了承する。それを聞いて頷いた徹也は、今度は治伽と舞に声をかけた。
「……行くぞ。治伽。舞」
「……ええ。」
「……うん」
徹也の言葉に、それぞれそう返した治伽と舞は、徹也の後ろについた。そんな徹也の前には刀夜とクリスがいて、そのまま全員で歩幅を合わせて歩き出した。
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