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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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魔女による貸し切りが行われている頃、厨房では。


「──いやァ、アタシらも運がいいぜ。魔女が一堂に会するとこを見れるなんて、アタシらくらいじゃねェか?」

「ですねー。カフェやっててよかったですしー、ラピセラちゃんと仲よくてよかったですー」

「こないだ来た二人組はエリカさんとコスモスさんってゆうらしいぜ。さっき聞こえてきたんだぜ」

「……僥倖」

「滅多にやらない貸し切りをした甲斐がありますね」

「殆どやらない貸し切りに踏み切った甲斐がありますね」


などと和気藹々と話しながらスイーツ作りに着手している。時たまラピスかセラがご飯を取りにくるので手伝おうか? と打診してみたのだが、遠慮されてしまった。手伝うもなにも、自分たちはスタッフで彼女たちはお客さんなのにな、とウィーアは不思議な気持ちになる。

しかし、ラピスやセラが勝手に厨房に入ってきても、なにも思わないのも事実であった。


「それにしてもー、ファンクラブのことがバレたときはひやひやしましたねー」

「嫌な汗が出たんだぜ」

「……間一髪」

「ああ、危なかった。正直に話したらあの子たちの心労が増えちまうもんな」

「本当は5000人じゃ足りないってことですか?」

「本当は20000人に届きそうだってことですか?」

「それだ。……まァ結成したのはアタシだけどよ、あれよあれよと言ううちに巨大化したよな、ファンクラブ」


彼女たちの言う通り、ラピスのファンクラブは今では『オブシディアン一家ファンクラブ』と名前を変えて、大きな組織になっている。巨大化しすぎてウィーアの手を離れ──なんてことはなく、今でも実権を握っているのは彼女だ。


ちなみにだが、この組織は女性だけで構成されている。ラピスが男性恐怖症なのは有名な話なので、男であるというだけで入会の資格がないのだ。


「いやァ、嘘はついてないとはいえ、心苦しいぜ♪」

「全くそおは見えませんねー」

「本当のこともゆってないんだぜ」

「………」


トークを楽しんでいると、急にミイが人差し指を顔の前に立てた。静かに、のジェスチャーだ。

そのわずか数秒後、ラピスがご飯を取りにきた。


「何度もごめんね。またおかわりだって」

「いや、構わねェよ。その米だってラピスちゃんのだしな」

「あはは。まったく、魔女の胃袋にはびっくりだよね。あの細い身体のどこに入ってるんだろ?」

「アタシら料理人としては嬉しい限りだけどな。美味そうに食べてもらえるのはいいもんだ」

「うん、同感。──じゃ、これで最後にさせるから。デザートもあるしね」

「おう。タイミングを見て持っていくわ」


土鍋を抱えるように持って、ラピスは厨房を出ていく。その姿が完全に消えたのを見計らって、スタッフたちははァー、と息を吐き出した。


「あっぶねェ! ミイナイス!」

「……大袈裟」

「そんなことないですよー」

「助かったんだぜ」

「20000人がバレたら大変ですからね」

「嘘がバレたら怒られますからね」

「嘘じゃねェけどな」


もしラピスに本当のことがバレたらと思うと、気が気じゃない。しかし反対に、知ったらどんな反応をしてくれるのだろう、という好奇心も隠しきれない。

いずれ折りを見て話してみようかと、その場の全員で相談して決めた。


「さて、そんな話もいいが、ぼちぼちデザートだ。アイスの製作に取りかかるぜ」


このカフェには──というより世間一般の家庭には冷蔵庫がない。あるのは魔女の家だけである。

なのでアイスクリームや、生クリームといった熱に弱いスイーツは後回しにしていたのだ。


ウィーアは指示を出し、スタッフはてきぱきと応える。動きながらでも話をできるくらいには慣れた作業なので、ユアはウィーアに話しかけた。


「ウィーアさん。ファンクラブでイベントって開かないんですか?」

「開くぞ? 来月の頭に」

「え? それわたし知らないです!」

「確かに言ったんだけどな……まァいいや。ラピスちゃんの結婚式をした教会を借りきってカルトクイズだ。全30問。優勝者には豪華景品が授与されるぜ」

「豪華景品ってなんですか?」

「ラピスちゃん直筆のサインだ」

「! どおやって手に入れたんですか!?」

「頼んだら書いてくれた」

「素直!」

「客寄せに使っていいか訊いたら、なんのことかわかってない風に頷いてくれたからだいじょうぶだろ」

「不安しかないです」

「いいからいいから。その日は盛り上がるぜ♪」

「……まァいいですけどね。……あなたが楽しければ」


ユアはボソッと呟く。その声は小さすぎて、生クリームをかき混ぜるウィーアの耳には届かなかった。


その後もマイが騒いだり、アイが焚き付けたり、ユウが巻き込まれたり、ミイが上手く躱したり、楽しくデザートを作る。ふざけているように見えても、彼女たちはプロなのだ。


「──ウィーアさま。そろそろ食べ終わりますの」

「了解了解。すぐに持ってくぜ」


呼びにきたセラに軽い調子で応える。

魔女たちの宴は佳境に入っていた。

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