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あれだけあった料理はその全てが魔女たちの胃袋に収まった。
多分、100人前はあったと思うのだが、その全てが、だ。驚異的である。
リリィを初めとする魔女勢(ルドベキアを含む)は、食べた食べたと満足げだったが、ラピスたち一般人はまあまあ引いていた。作ったものを美味しく食べてくれるのは嬉しいが、一定のラインを超えるとそれさえも感じなくなってしまうらしい。
しかもこのあとにはデザートも控えている。そして当然のように甘いものは別腹。魔女たちはまだまだ食べられるのだ。
デザートが出てくるまでの時間を、ベロニカが持ってきたコーヒーを飲みながら過ごす。ウィーアには悪いが、このカフェで出されるコーヒーより美味しかった。
「──…あ、そおだ」
リリィの脚の間に座って、彼女に身体を預けていたラピスが思い出したように言った。
リリィは愛する妻の頭を撫でながら応じる。もちろん、周りには人の目がある。しかし二人は気にしない! バカップル度が上がっていた。
「どおしたの? なんか気になることでもあった?」
「うん。今更だけど、皆の関係性を知っておきたいの」
「関係性?」
「えっと……年齢とか?」
なぜか疑問系。ラピス自身、具体的な関係性を訊きたいわけではないのだ。
ただなんとなく、アイリスが敬語を使う相手と使わない相手がいたので、気になっただけである。
「年齢ねェ……。あたしも正確には憶えてないのよね。師匠が最年長なのと、ルピナスが最年少なのくらいしか知らないわ」
「上から2番目はリリィだよね」
「いいえ。カンナよ」
「え!?」
びっくりしてラピスは反射的にカンナを見てしまう。タイミング悪く、彼女はマジックバッグからワインを取り出してサクラに怒られているところだった。最早ミステリアスの面影すらない。
酒の匂いだけで酔ってしまうラピスへの配慮なのだろうが、離れて呑んでくれればだいじょうぶだよ、とラピスはハンドサインでサクラに伝えた。カンナからも目礼を貰ったが、それには手を振ることで返事とした。
「……カンナさん、歳上だったんだ……」
「まァね。あたしより4つ上。誤差みたいなもんね」
「でもリリィはカンナさんに敬語使わないよね。カンナさんは誰にでも敬語だけど」
「あたしたちくらいになると年齢なんて気にしないからね。あとちなみに、あたしとカンナは姉弟子妹弟子の関係なのよ」
「また初耳! カンナさんも桜さんの弟子だったんだ……」
今度はサクラを見る。コーヒーにどばどば牛乳を入れて砂糖もたっぷり入れていた。お子さまだ。
……あ、そんなに入れるなら飲むなってベロニカに怒られてる。ベロニカさんも怒るんだ……とラピスは場違いな感想を抱いた。
「あとは本当にわからないわね。悪いんだけど自分で訊いてくれる?」
「直接年齢訊くのって、失礼になったりしない?」
「しないわよ。さっきもゆったけど、あたしたちくらいになると年齢なんて気にしないからね」
「ん、わかった。訊いてみる」
ラピスは立ち上がろうとして、リリィに抱きすくめられているので失敗した。
「リリィ?」
「ごめんなさいね。でももうちょっとだけ♡」
「……もう。リリィってば、わたしのこと好きすぎだよね♡」
別に今すぐ訊きたいわけでもないし、なんなら知らなくてもいいことだ。大好きなリリィとのスキンシップと比べれば、殆どのことは優先順位が落ちる。
ラピスはしっかりと体重を預けて、背中でリリィの胸の感触を楽しむ。左手は自分を抱いているリリィの手に重ね、右手は彼女の太ももを撫でる。完全無欠にイチャイチャしていた。
見ている者たちは一部を除き、唾液が蜂蜜に変わったかのような錯覚に苛まれた。
リリィはラピスのおへその下あたりで手を組み、上半身を押しつけるように抱きしめる。更には彼女の肩にちょこんと顎を乗せ、その可愛らしいほっぺたに目一杯頬擦りした。
見ている者たちは一部を除き、あまりの甘さに空気が粘度を持ったかのような錯覚に苛まれた。
「──…ふゥ。ラピス成分補充完了よ。これが足りなくなると動けなくなるのよね」
「リリィ燃費悪いよね。10日も離れられないんじゃない?」
「それはラピスだって一緒でしょ? あたしと10日も離ればなれ、耐えられる?」
「ごめん、無理」
ラピスはあっさり音を上げる。想像しただけで悲しい気持ちになる。
もう彼女の中でリリィの存在は、半身のようなものになっていた。
「あーもう可愛いわね♡ キスしていい?」
「え? ダ、ダメだよ。……皆見てるよ」
見られている自覚があってあんなにイチャイチャしていたのか!? と、一同は驚きを禁じ得なかった。
「あたしは気にしないわ♡」
「…………うぅ……恥ずかしいのに……」
ラピスは身体を90度回転させ、リリィに身体を支えてもらう。ちょうど、お姫さま抱っこのような姿勢だ。
ラピスは目を瞑って唇を突き出す。誰のものかわからないが、ゴクリと唾を飲む音が妙に大きく響いた。
「……ラピス♡」
「……リリィ♡」
金の美女と銀の美少女は互いの名を呼び合って、熱く、甘く、幸せな口づけを交わした。
観客の誰もが、言葉もなくその光景を見守っていた。




