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JC異世界冒険譚 〜魔王とわたしと暗殺者〜   作者: ぽん之助
第一部 わたしと異世界の人々
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落ちた先にて


 一体何が起こったのか分からないけど、どうやらわたしの平穏な日々が終わった事だけは間違いなさそうだ。


 取り敢えず地面に倒れ込んだ身体の上体を起こして、手足に異常が無いか確認して見る。多少の痛みはあるけど、幸いどこも怪我などしていないようだ。

 しかし随分と長い間落下してた割には衝撃が小さかった。視界が真っ白になったり、ゆっくり長時間落ち続けたりと、何一つ理解出来ない不思議現象の連続に遭遇して、まだ頭の中は大混乱の真っ只中。

 生まれて初めての不思議体験がこんなに派手な物になるとは。人生何が起こるか分からないものである。とにかく、怪我も無く無事生きてるから良しとしておこう。お尻はとても痛かったけど。



 それより何ですかね、何の前触れもなく突然現れたこの地面は。おかげでお尻を強打したじゃないですか。

 筋違いだとは思いつつ、僅かな恨みを込めながら、睨み付けるように辺りを見回す。足元には芝の様な短い草が生えていて、少し離れた所には立派な木々がそびえ立っている。テレビでしか見た事のないような緑の大地が広がっていた。


 だがしかし、こんな緑あふれる大地に落ちてきたのはどういった訳なのだろうか。先程まで視界の中に広がっていたアスファルトやコンクリートで固められた地面、それに影を落としていた雑居ビルや座っていたビール箱はどこへ?



「ええ……こんな不思議体験いらないんですけど……」


 ぶつぶつと文句を吐きながらその場で立ち上がり、スカートに付いた土や草の葉を払い落とす。特に制服が破れたりしていないようなので、乱れた所を整えてから改めて周辺を見回す。


 と、身体が何の問題も無く動いた事で、先程までの体調の悪さが嘘みたいに無くなっている事に気付いた。あの体調の悪さもこの不可思議な現象に関係があったのだろうか?



「えーと、ここ…どこ…?」


 体調は良くなったものの、困った事に現在地が分からない。だってわたしは日本は東京の片隅に居たはずなのだ。

 でも今立っているのは、木々が覆い茂る森の中の少し開けた草地じゃありませんか。聴こえるのは鳥の囀りと風が木々の葉を揺らす音。人の声どころか自動車が走る音も電車が走る音も聴こえない。そんな馬鹿な。



 暫く呆然と立ち尽くしていた。少しの間を置いて、どうしてこうなったのか考える。体調の異変からここに落ちてくるまでを思い返して見るものの、原因らしき物は何も引っ掛からない。


「うーん、東京にこんな大自然が残っている場所なんてあったかな……?」


 わたしは少し首を傾げて呟く。ここが東京だと言うのは、自分でもちょっと無理があるかなぁ、とは思う。そう思うんだけどしょうがない。

 だってほんの少し前までわたしの周辺には雑居ビルや道路や椅子代わりの瓶ビールのケースがあって、日影で休憩してたんだから。


 なのにご覧くださいよ、この文句無し百点満点の大自然! 視界の端から端まで木と森と山! なんだこりゃ!?

 空を見上げれば澄みきった青空! 大気汚染も何のその! そりゃ訳分かんなくて混乱するっての!


 取り敢えず大きく深呼吸して混乱した頭を落ち着かせ、冷静になる努力を試みる。

 東京の排ガスとか色々混じった空気と違って澄み切ったきれいな空気だ。空気が美味しいってこんな感じなのかな? いやいや、今はそんな感想を述べている場合ではない。



「随分と長い間落ちてたから、地下世界とか?」



 そう呟いて上空を見上げる。広がる青空に白い雲。さんさんと輝く太陽もある。その風景からは、ここが地下の世界だとはとても思えなかった。


 「うーん。地下世界でも東京でもなさそうだし、もしかして瞬間移動しちゃったとか……?」


 もちろんこのわたし、佐々木天音が瞬間移動なんて超能力なぞ持ち合わせている訳が無い。しかしながら、そうでも言わないと説明が出来ないこの現状。

 でも、万が一この瞬間移動説が正解だったとしよう。それではここは何処なのか。全然見覚えも無いし、まるで見当がつかない。それに目眩ってレベルじゃないあの真っ白な現象も全くもって謎のままである。


 認めたくはないけれど、ここは東京じゃないと思う。でも日本には自然豊かな場所だって沢山ある筈だ。だけど今立っているこの場所はテレビや写真で見た日本の自然と何か違う気がする。

 例えば少し離れた所にそびえ立つ大きな樹木。大空へ向かって真っ直ぐに伸びている針葉樹なのは分かる。けれど、その大きさがハンパないのだ。

 見たところどれも樹齢何百年かと思われる程高く伸びた大きな木である。あんな大樹の森が日本に存在してるなんて聞いた事がない。もしも存在しているなら世界遺産レベルの絶景だ。もしかしたら外国にはあるのかも知れないけれど、それならここは日本ではないと言う事になってしまう。

 

 現実から目を逸らす様に視線を別の方向へ向ける。何時までもここに居る訳にはいかない。わたしが行方不明になったと警察に捜索願が出されたとしても、こんな場所に救助が来てくれるとは思えない。

 広がる大空を飛んでいるのは鳥だけで、飛行機も飛行機雲も見えない。それどころか全方位見渡しても、1つとして人工物らしき物が見えない。仮にここが日本の何処かだったとしても、ただ救助が来るのをじっと待っていたら餓死してしまいそうだ。



「と、とにかく川を探そう。出来れば村とか人が見つかると良いけど……」


 身体が小さくて弱いからあまり外で遊べなかったが為に、インドア派で引き篭もりがちな生活をしていたわたし。頭の片隅で埃を被っている実に乏しいサバイバル知識の中から、使えそうな物を記憶の彼方から引き摺り出す。


 まず川か池を探そう。何より最初に水を確保しないと干からびてしまう。それに川沿いには文明が発展するはずだ。メソポタミア文明とかそういうアレ!


 ……いやそこまで壮大な文明じゃなくていいけどね。兎にも角にも、最初の目標は水を確保しつつ人の存在を確認出来るような物を見つける事に決めた。


 特に人が住んでいる場所は見付けたい。それが出来ればここが何処なのか聞けるだろうし、食べ物や水を分けて貰えるかも知れない。

 とにかく情報と食料を得られなければならない。そうでなければ間違い無く遭難してしまう。

 見渡す限りのこの大自然、少し離れた所には森林も見えるし熊とか猪みたいな獣に遭遇してしまう可能性もある。是が非でもそんな事態だけは避けたい。熊や猪の撃退方法なんて学校で教わるような事ではないのだ。わたしに出来る訳が無い。



「あ、そういえばスマホ使えないのかな? それにお菓子が少しくらいあったような………」


 出発前にまずは所持品の確認だ。通学用の鞄にはスマホ以外サバイバルに使えそうな物なんて入れて無かった気がするけど、お菓子とか多少の食べ物くらいはあったはず……



 ……



 ……無い。




 ()()()()()()()()()()()()



 え……じゃあ何? 鞄は元の場所に残してわたしだけこんな大自然のど真ん中に落ちてきたの? そんな馬鹿な。

 スマホはきっと圏外で使えないだろうけど、時間を確認したり暗くなった時の照明替わりに使ったり出来ると思っていたら、まさか紛失していたとは……



「川は……あっちかな……?」


 無いものは無いと諦めて、周囲をぐるりと見回して地形を確認する。森林や背の高い草が少ない比較的通りやすそうな場所を選び、何の根拠もない勘を頼りに歩き出す。

 今はゆっくり考えている時間が無いのだ。現在の装備品と言ったら中学校の制服一式のみ、所持品何にも無し。日が暮れて暗くなってしまったらもう何も出来ない。

 夜になる前に何か見付けなくてはいけないこの状況。よくある異世界転生系の物語だったとしても、すでに詰んでるような状態である。迷ってる暇なんてないのだ。


 ん……? 異世界転生……? もしかしてここって地球ですら無い可能性がある……とか……?


 いやいやいや、それは無いわ。無いと思いたい。そんな事よりわたしは早く家に帰ってゲームしたり、漫画読みながらゴロゴロしたり、飼い猫のぽん吉をモフモフしたいのだ。


 そもそも、わたしが異世界転生……この場合異世界転移かな? とにかくわたしがそんな物語の主人公なんて無理に決まってる。

 外に出て直射日光にさらされ風に吹かれているだけでHPがゴリゴリ減っていくような軟弱者が主人公ポジションになれる訳がない。余計な事を考えずに今は取り敢えず歩こう。


 



「まいったなぁ……」


 暫く歩き続けたわたしは立ち止まって呟いた。適当に木や草が少ない方向を選んで歩いて来たけど、ついに行き止まりに辿り着いてしまった。空に向かって長く伸びた草はわたしの背丈を軽く超える程の大きさである。

 そんな草が密集していて、まるで壁の様にわたしの前に立ちふさがる。


「……まあ、仕方無いよね」


 草の隙間から薄っすらと光りが透けて見える、恐らく一番距離が短そうな方向を選ぶと、思いの外堅い草を両手で掻き分けながら少しずつ前に進む。何か変な虫とか居たらどうしよう。

 そんな事を心配するわたしを待ち受けていたのは、それどころでは無い物だった。


「……なっ!?」


 何とか草の壁を抜けたわたしの視界に飛び込んで来たのは、何かの動物を捕食している狼の様な動物だった。血塗れの口をそのままに、こちらを見ている。


「し、失礼しました……」


 こう言う時は確か目を逸らさずゆっくりと後退して距離を取るんだっけ……? うろ覚えの知識だけど今は信じるしかない。なるべく音を立てないようにゆっくり後退する。そして草の壁の中に戻り、狼の視界から離脱する事に成功したのであった。

 ……でも日本に狼なんて生息してたっけ? 危機を脱したわたしは、首を傾げながらまた別の方向へ歩き続けた。




 …………それから随分歩いた。ような気がする。真上にあった太陽の位置も随分低くなった。しかし今の所、何一つとして見つけた物は無い。何処まで行っても木と草しかない。歩くのが遅いから実際には大した距離じゃないのかも知れないけど。

 それに加えて、勾配の厳しい坂とか背の高い草が茂っている場所を避けてひたすら楽そうな方向へ進んで来たから尚更駄目だったのかも知れない。でもせめて川の流れる音とか聴こえても良いんじゃないですかね!?


「このまま遭難して死んじゃうとか嫌だなぁ……」


 疲れた身体を休ませる為に立ち止まる。辺りは代わり映えしない木と草ばかりで、もしかしたら知らない間に同じ場所を何度も通っているのかも知れない。

 そんな不安と共に、頭に浮かんだ弱音が言葉になって口から出てきてしまった。途端に寂しさと心細さが心を満たして少し泣きそうになってしまう。


「そんな事ない、絶対家に帰る!」


 強気な言葉を吐いて、自分を奮い立たせる。立ち止まろうとしていた両足を全力で動かす。

 きっと今頃お母さんもお父さんも心配してるはずだ。そう簡単に諦める訳にはいかないんだから。頑張れわたし。諦めたらそこで試合終了なのだ!


 ふん! と気合を入れ直したわたしは、再び力強く歩き始めた。



 ………



 ………………



 よし、もう駄目だ諦めよう。


 太陽が背の高い木々に隠れて見えなくなるまでひたすら歩き続けた。なのに人の気配どころか、川も池も水溜りさえも見付けられなかった。


 この辺り一帯が水源の少ない土地なのか、それともわたしが奇跡的にそれらを避けるような、とんでもないレベルの方向音痴なのか。

 もしかしたらここは無人島で、そもそも人が住んでいないのかも知れない。


 夕暮れ時を過ぎた空は夜の訪れを告げるように星が輝き始め、いつの間にか月も出ている。

すっかり冷たくなった風はわたしの体力と気力を奪い、ひたすら慣れない山道を歩いた両足は酷く痛んで棒のように動かない。


 すっかり心折れたわたしは目の前にそびえる大きな木の下へ歩き、ヘタリと座り込んだ。


「ごめんね、お母さん、お父さん」


 震える小さな呟きと同時に、涙が溢れ出す。こんな訳の分からない事で死ぬかも知れないなんて、本当に納得がいかない。

 嫌な事も辛い事もあったけど、楽しい事もそれなりにあった。人並みにやりたい事だってあった。それなのに…


 悔しさや悲しさ、理不尽に対する怒り、もっとやりたい事をしておけば良かったという後悔。

 少しの間色んな感情で頭の中がいっぱいになっていたけれど、それらを包み込むように睡魔が襲ってきた。


「喉乾いたなぁ……お腹空いたなぁ……」


 一日何も飲まず何も食べず歩いただけでこの有様。情けないけど、もう立ち上がる事も出来そうもない。

 もっと丈夫な体だったらなぁ、と呟こうとしたけれど声が掠れてしまってまともに言えなかった。

 


 座り込んだままで、どれくらいの時間が過ぎただろうか。もう諦めて寝てしまおうと思った瞬間、遠くから草を掻き分けるようなガサガサという音がわたしの耳に飛び込んで来た。


「……!」


 人が通り掛かったと思い、助けを求めようと声を出そうとするが、カラカラに乾いた喉が上手く声を出してくれない。

 いや、そもそも人じゃない可能性もある。先程の狼のような、危険な動物の類かも知れない。

 もう力の入らない身体を少しだけ動かして、音の聴こえた方向を注意深く見つめる。だけどすっかり暗くなってしまった森の中では草むらの中の様子は全く見えない。そのうちに、またガサガサと先程と同じ音が聴こえた。少しずつこちらへ近付いているようで徐々に音が大きくなっている。


 やっぱり何か居る……!


 そして確実にこちらへ近付いている。怖いけど身を隠す余裕なんて無い。近付いてくる音の方向を睨みつけるの事で精一杯。日が落ちて、風が吹けば少し寒いくらいなのにじんわりと汗が背中を濡らす。

 恐怖で心臓は暴れるように脈打ち、手足は小刻みに震える。

 そして僅かな月明かりに照らされた草むらがまた揺れる。かなりこちらに近付いているのか、草の揺れも、その音も最初より大きくなっている。


 音の主がガサガサと最後の草を掻き分けて、ついにその姿を現した。


「……?」


 ……それは人間だった。


 恐怖と緊張が和らいだ為か、何だか意識が朦朧としてきた。そのうえ暗くて良く見えない。何とか目を凝らして見てみると、どうやらその人は白髪のおじいさんのようだった。


 こちらに気付いたおじいさんは、少し驚いた表情で足を止めてわたしを見る。そしてゆっくりと、こっちに向かって歩いて来た。


「………?」


 わたしの前まで来て立ち止まったおじいさんが、何か言ったのが聞こえた。けれど既に意識朦朧のわたしにはそれを上手く聞き取る事が出来なかった。

 人に見付けてもらえて安心してしまったのだろうか。心身共に疲れ果てていたわたしの意識はあっという間に薄れて、深い眠りに閉ざされてしまった。

 


 異世界転移して速攻で遭難する系主人公。残念ながらチート能力はありません。

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