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JC異世界冒険譚 〜魔王とわたしと暗殺者〜   作者: ぽん之助
第一部 わたしと異世界の人々
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平穏の終わりと始まりの声

挿絵(By みてみん)


 ――わたしは、背が低い。


 歳は14、もう中学2年だ。だと言うのに、知らない人からは小学4年生くらいに見られる程度には背が低い。

 となると当然クラスの中でもぶっちぎりで背が低いと言う事になる。いや、恐らく同じ中学校の全校生徒の中でも一番小さいだろう。

 だけどそれも仕方が無い。だって身長135センチなのだから。ちなみにこれは9歳くらいの女の子の平均的な身長なのだそうで。

 そのおかげで、知ってる人も知らない人も、いつでも誰からも子供扱いされるのだけど、鏡に写った自分の姿を見ればそうなる事も当然と認めざるを得ない。



 ――わたしは、身体が弱い。


 身長は9歳程度だけど、体力の無さは9歳児にも劣る。小さな頃から虚弱体質で、ちょっと調子に乗ってはしゃぎ過ぎたり動き過ぎたりすると、翌日には熱を出して寝込んでしまうのである。

 何か珍しい病気なのではないかと、心配する両親に連れられていくつかの病院へ行ったりしたけれど、特に目立った異常は見付からなかった。

 違うお医者さんから、同じ様な言葉が返ってくる。何度か繰り返した頃には、そう言う体質なのだと自分を納得させるしかなくなった。



 ――わたしは、要領が悪い。


 手先は不器用で、頭も自慢出来る程に良い訳でもない。

 考えるより先に行動したくなるタイプなのに、肝心の身体がついてこない。いつも考え無しで突っ走って、見事に失敗して寝込むのである。



 ――わたしは、こんなわたしが嫌いだ。


 いつも誰かに見下されて、一人じゃ何一つ満足に出来ない自分が嫌いだ。色んな人に迷惑や心配をかけてしまう自分が嫌いだ。

 色んな事をやってみたいと思っても、身体がついてこない。そのうち外に出る事さえ億劫になり、学校以外は引きこもりがちになった。

 心配した両親が外に連れ出してくれても、また熱が出て寝込んでしまうのではないかと思うと心から楽しむ事すら難しくなる。



 ――それでも、わたしはこの世界が好きだ。


 大好きな両親、大切な友達、彼氏はまだ居ないけれど、やりたい事も、欲しい物だって沢山ある。もちろん嫌な事だってあるし、大量のコンプレックスに悩んだりもする。

 それでも普通の日々を、平穏無事に過ごせればそれで良いと思う。



 ――だから、せめて笑っていよう。




 ……()()()()()()()()()()()()()


 そんなわたしの求める平穏な暮らしは、その日突然に崩れ去った。

 今、わたしは見たこともないような草木が茂る大自然の中に一人で立ち尽くしている。ここは何処? どうしてこうなった?



 事の発端は数時間前に遡る。わたしが居たのは日本の東京、都心からは離れている為にまだ草木などの自然も少しは残っている普通の街だった。

 いつも通り学校へ行き、適当に勉強して友達とお喋りなんかもして、下校時刻に帰路に就く。全く平凡な一日を過ごしていた。


 ……筈だった。


 大自然の中で立ち尽くしていたわたしは、足元に広がる草むらに腰を落として、落ち着いてゆっくりと何があったのかを思い出してみる。



 吹き抜ける風が髪を揺らす。その風も随分と暖かくなってきた四月の下旬の午後。わたしは学校を出て、自宅へ続く道をゆっくりと歩いていた。

 わたしの名前は佐々木天音(あまね)、14歳の中学2年生女子。

 小学生と間違われるくらい低い身長と誰もが驚く体力の無さを除けば、どこにでも居るような普通の中学生である。多分。


 通学路を挟む様にそびえ立つマンションや雑居ビルが空を狭める。その間を駆け抜ける様に吹き付ける強い風が、わたしの制服のスカートの裾とツインテールの髪を揺らす。

 この髪型がわたしの見た目の幼さをより一層引き立たせているような気がする。いや、間違い無いだろう。


 だけど、わたしも好きでこの髪型にしている訳ではではないのだ。犯人は子煩悩で娘大好きな親馬鹿である父。

 その父親の熱いリクエストに嫌々応じた結果であり、決してわたしの意向では無い。

 もし拒否しようものから父はきっと泣くだろう。正直ウザい。それを止めに入らない母親も、実はこの髪型を気に入っているに違いないので、母も父の共犯者である。


 自宅まで残り半分くらいの所まで歩いた時だった。不意にわたしの足元がふらつく。今日は朝から少し身体の調子が悪かったのだけれど、突然、それも急激に悪化し始めた。思い返してみれぱこの時から異変が始まったのだ。


 最初は特に慌てる必要も無いと思った。こんな状態になるのは割とよくある事なのだ。こういう時は無理をして動かず、でも出来るだけ早く家に帰って休まなければならない。それでも数日は熱を出して寝込む事になるのだけど。



 こんな弱い身体なものだから、小さい頃から両親には何かと迷惑や心配をかけてばかりだった。突然熱を出してしまい、看病の為に仕事を休ませた事も数え切れない。

 だがしかし、わたしだって好きでこんな虚弱な身体になった訳じゃない。生まれつき虚弱だったのだ。だからわたしはあんまり悪くない筈である。



 ……ただでさえ少ない体力を使わない様に、歩くペースを落としてゆっくりと歩を進める。だけどそんな努力もお構いなしに身体の力が抜け、悪寒のような感覚も覚え始めた。これはマズい。一分一秒の間にどんどん体調が悪化しているのが分かる。額から汗が流れ滴り落ちた。


「と、とりあえず日影で休も…」


 ぼんやりし始めた頭を動かして日影を探す。わたしが立っている場所から一番近いのは道路の横に建っている雑居ビルの隙間だった。考えている余裕も無いので、取り敢えず重い足取りでふらふらとビルの間に入り込む。


 陽射しを遮り、少しだけ微温い風が頬を掠めて火照った体を冷やす。いつもは見上げる空を狭くする邪魔者でしかないビルだけど、今はその大きさが有り難い。

 

 取り敢えずここである程度体力を回復してから、近くのコンビニに寄ってスポーツドリンクを買って水分補給しよう。それからゆっくりと慎重に家を目指せば大丈夫なはず……


 帰宅までの計画を練りながら辺りを見回して、何か椅子の代わりになりそうな物を探す。日陰で涼しいとは言え、既に立ってるのさえ辛いくらいまで状態が悪化しているのだ。

 だから取り敢えず座りたい。座らないと体力回復どころではない。まるでスリップダメージのように体力がどんどん減っているのが分かる。


 すると、まるで椅子の代わりに使ってと言わんばかりに、瓶ビールのケースがひっくり返された状態で置いてあるのを見つけた。実際に誰かが椅子代わりに使っていたのかも知れない。とにかく有り難く使わせて頂く事にして、ゆっくりと腰掛ける。


 元々座る為の物でも無いから、表面がデコボコしていて少し座り心地が悪い。それでも立っているのとは比べ物にならないくらい楽なので、少しだけ落ち着く事が出来た。


 ふぅ、と小さくため息を吐く。さて、これからどうしようか。もしこのまま体力が回復しないようなら、お父さんかお母さんに迎えに来てもらうしかないかな?

 左手を肩掛け鞄に突っ込んでスマホを取り出し、画面に表示された時間を確認してみる。



 午後四時半か……この時間だと両親は確実に仕事中だ。いきなり連絡して「体調悪いから迎えに来て」なんて言うのも気が引ける。

 ただでさえこの虚弱体質で、定期的に仕事の邪魔をして、更に心配させているのだ。

 出来ればこれ以上両親の負担になりたくないので、何とか自力で帰宅する方向性を模索する。頑張れわたし。アンタはやればできる子だ! 多分ね!


 太陽が建物の向こうに隠れて影が長く伸びてきた。微温かった風も少し冷たくなってきたし、そろそろ午後五時を過ぎた頃だろうか。


 少し休めば多少は楽になるかな、と軽く考えていたものの、どうやらそう上手くはいかないようだ。時間の経過と共に、体調は悪化の一途を辿っている。


 身体の中の熱っぽさがどんどん大きくなって、吐息まで非常に熱くなっている錯覚を覚える。

 全身に力が入らなくなり、手足は小刻みに震えている。これじゃ椅子代わりの箱から立ち上がることさえ出来そうもない。


 一体何故こうなったのか、原因が分からない。こんな症状は今まで経験したことが無かった。これはもう自力で帰宅する事など無理だ。我慢しないで迎えに来てもらうしかない。この時間なら両親のどちらかは仕事が終わっているかも知れない。


 そう決めて、鞄の中のスマホを取り出そうとする。しかし、小刻みに震えて力の入らない左手では上手く掴めず、鞄ごとスマホを地面に落としてしまった。


「しまった……」


 手だけでなく、足にも力が入らないので、落としたスマホを拾う事が出来そうにない。無理して拾おうとしたら、そのまま地面に倒れ込んでしまうだろう。そうなったらもう立ち上がる事さえ困難になる。

 迂闊に動く事が出来ない。スマホを拾う事も出来ぬまま体調はどんどん悪化して、ついには目を開けていることさえ出来なくなった。


 そっと目を閉じた。心臓がとんでもない早さで脈を打っているのが分かる。全身を汗が流れるのを感じるが、もう暑いのか寒いのかも分からない。

 もしかしたらこのまま意識を失って死んじゃうのかも……と、最悪の結末が脳裏に浮かんた瞬間、真暗だった瞼の裏が一気に明るくなった。

 


 ――()()()()()()()()()()()()()()()


 突然の異変にわたしは驚いて両目を開く。



 目を開いてもやはり、眩しい。おびただしい光の渦がわたしの周りを包み、そこにあった景色を塗り潰して、消していく。何が起こっているのか分からない。分からないけど、これは普通では無い。


「え、何これ……」


 口から出した言葉さえも、光の渦に掻き消されてしまうようでだんだん怖くなってきた。恐る恐る周囲を確認するように、ゆっくりと視界を動かす。

 まるで白いペンキで上塗りされるように、雑居ビルも青かった空もコンクリートで固められた地面も白く塗りつぶされていく。


 ここに居たらいけない、そんな危機感を覚えたわたしは慌ててその場を離れようと考え、立ち上がろうとした。

 その瞬間、力を込めた足を支える地面と、座っていたはずのビールケースの感覚が一気に無くなり、わたしはあっという間に光の底へ落ちていった。

 



 ――落下する。


 ただただ眩しくて、真っ白になってしまった世界。空も地面も無くなって、わたしは一人、ただゆっくりと落ちていく。

 落ちる速度がやたらと遅く感じるのは、わたしの感覚がおかしくなっているのだろうか? 或いは重力さえも消され始めているからだろうか? 何かに掴まろうと手を動かしても、この手に触れる物は何も無かった。



 ――声が聞こえる……?


 ……遠くから? 近くから? まるで囁くような声がいくつも聞こえる。

 幾重もの声が何を伝えようとしているのか、わたしには聞き取る事が出来ない。聞き取ろうと耳を澄ませると、まるで悪戯のように声は遠くへ行ってしまう。

 もしこの耳で捉える事が出来たとしても、きっとわたしには理解出来ない。そう感じてしまうくらいに、とても不思議な声。


 それでもわたしはその声を聞きたくて、手足を動かすのをやめて、一生懸命に集中して耳を澄ませる。

 遠くの声を手繰り寄せるように、その声をせめて音として感じられるように。


 突然、不思議な言語が頭の中で響き渡った。

 わたしの知らない、きっと遠い国の言葉、でも何処か懐かしいような言葉。



 ただ一言



  ■■■■■■■■(さあ、帰ろうか) 




 ――どこまでも落ちていく。


 一つ、また一つと声は消え、いつの間にか何も聞こえなくなっていた。わたしは音すら無くなった真白な世界を一人でゆっくりと落ちていく。

 まるで終わりの無いような、深く白い暗闇へと……落ちて……



 落ちて……



「あ痛"ぁっ!」



 ドスン! と派手にお尻から地面に着地する。終わる事の無いかのように思えた長い落下は、それはもう突然に終わりを告げたのだ。


 ……何の予告も無く始まった異変は取り敢えず落ち着いた。だけどここから更にとんでもない不思議体験が始まる。


 


 突然の異世界転移から始まる物語。

 主人公の天音は少し人見知りで引きこもりがちですが、根はアグレッシブで追い詰められると何をするか分からない結構面倒くさい奴です。

 10/16追記:雑に表紙を作ってみた

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