父・後編
「竹中冬治と言います」
青年はそう言うとお辞儀をしてきた。いい人そうだなー
こっちも礼儀正しく答える。
「娘が世話になってます、どうぞお座り下さい」
「あなた、握りしめてるグラスを置いて」
おおっといけない…つい殴りそうになってしまった。冬治は椅子に座った。
「あらあら久しぶりね冬治君、そんな格好で来なくてもいいのに~」
「お母さん、お久しぶりです」
妻と冬治が笑いながら話している。え?何?母さんと面識あるの?
「ごほんっ」
「あ、すみません…」
軽く咳払いすると冬治は静かになった。
「娘とはいつ知りあったんですか?」
あらかじめ質問を考えていたのですらすら出てきた。まあ考えなくても知りたいし。
「8年前です」
「あなた、落ち着いて今持ってるリモコンで何するきなの?」
おっといけない。これじゃあ余り痛くないからな。何?10歳?え?お父さん知らないよ?
「図書館で亜紀ち…さんと出会いました。」
そういえば、亜紀はよく図書館に行ってたな……出掛けるときやけに嬉しそうだったな。
「冬治君は私に勉強を教えてくれたの、頼れるお兄さんとして見ていたの」
亜紀は照れながら話してくれた。お兄さん止まりじゃだめなのか‥‥
どうしよう‥‥娘の幸せそうな顔を見ていたら反対出来ないんだよなあ…
「お義父さん大丈夫ですか?」
「誰がお義父さんって呼んでいいって言ったボケ」
冬治からの思いがけない呼び名に反射的に声がでてしまった。ボケは駄目だよ、おたんこなす、ハゲ!!
いけない……これは彼氏に悪イメージだったか?
「おもしろい方だ……」
目が輝いていた。ずれてるの?
「おい、無理しなくていいんだぞ?俺は少し反省している、少しな」
反省はしないよ、小学生の項から。
「いえいえ素直な方は尊敬しますよ!」
演技ではない事が彼の瞳が語っていた。
その後も彼と話し、何故か意気投合した。
その日の夜、私は酒を飲みながらアルバムを見ていた。ページを捲る度に過去を思い出していく。
産まれた時、とても泣いたっけ…
初めて亜紀を抱っこした写真だ、とても小さくて首もすわってなくて焦った。
あ、これは初めて歩いた時だ。ソファーに掴まりながらも頑張って立ってたなぁ、ひやひやしながらもカメラを構えたのを今でも覚えている。
これは、初めての誕生日ケーキ。3歳の時だ……あの頬を膨らませてろうそくの火を消している姿、笑ったなぁ………
「大きくなったな………」
つい最近まであんなに小さいと思っていたのに時の流れは早いものだ………私も年をとった…
やはり時というのは儚く、すぐに去ってしまう。だが……
「お父さん……今日の事嫌だった?」
娘はずっと存在する。
「最初はびっくりしたよ。でも正直嬉しかったよ」
自分の子どもに好きな人ができて喜ばない親なんていない。
「昔はお父さんと結婚するとか言ってたのになぁ……」
しかし、寂しいものがある。めっちゃ寂しいっ!!
「あはは、そんな事も言ったよね」
亜紀は母に似た笑みを浮かべ、腕を後ろで組み、口を開いた。
「……今でも大好きだよ!」
──父の役目がもうじき終わりを迎える。そう感じた。




