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第五話

「1の……E。無価値……」


 000の数値が出たあと、アンリーナは自身の召喚獣と共に審査員達の行動を眺めていたが、「魔力測定機を調べるのに邪魔」と部屋から追い出された。追い出される直前に用紙を渡され、書かれている文面を見てアンリーナは片手で顔を覆った。

 用紙に書かれているのは魔力量によって決まるクラス一覧表。999〜1の数値とS〜Eのクラスが書かれており、アンリーナは99〜1の魔力量を持つEクラスに赤丸がつけられていた。

 Eクラス――最底辺の魔力量。無価値。


(最底辺か、最底辺。よォし、下克上……するっきゃねェなァ!!)

『……コーン』


 表では誰が見ても落ち込んでいるように見せつつ、心の中ではこれから自身が巻き起こす下克上に期待に胸を踊らしていると、アンリーナと共に追い出された獣が何かを言いたげに一声鳴いた。

 先程の部屋で様々な出来事が起こってしまい、獣の存在を忘れかけていたアンリーナ。鳴き声に視線を獣に向け、柔らかい口調で獣に声をかける。


「ねぇ……貴方、一体何者なの?」

『コーーーン』


 獣に問いかけた。アンリーナの問いに何か応えているのかそれともただ鳴いただけなのか、獣は出会った時と変わらない声を発し、獣の言葉が分からないアンリーナは両眉を下げ困った様子を見せる。


(こういう時こそ言語理解魔法の出番だろ。えーっとかけ方なんだっけなァ。あんま使わねェから覚えてねェや。手帳に書いてっか?)


 困った時こそ魔法の出番だ。アンリーナは鞄の中から『魔法覚書手帳』を取り出そうとして――手をピタリと停止させた。


「こんなの可笑しいです!! もう一度やり直してください!!」

「なんでこんな醜いのが私の召喚獣なの!? こんなの間違いよ!!」

「そいつ壊れてんだよ!! 間違ってる、俺は、俺はこんなもんじゃねぇ!!」

「……」

(一度離れるか)


 抗議する生徒達の声がアンリーナの耳に入った。視線を生徒達の方へ向けるとそこにあるは阿鼻叫喚。ある者は泣き、またある者は騒ぎ、ある者は暴れ出そうとする。アンリーナは暫し考え込む素振りを見せたあと、もしものこと(面倒事)を考え、手帳を取り出さず鞄を持ち直し今の場所から離れることにした。

 背後では未だに抗議する生徒達の声が聞こえる。皆話の内容に必ずと言っていいほど『間違い』と発しており、アンリーナは笑ってしまいそうになる。

 

(耐えろォ、耐えろォ。傲慢してた奴らの哀れな結末に笑っちまったらこれからの”イイコちゃんアンリーナの評判”が落ちちまう。いやっ……でもさぁ……ふふっ、これ、やばい肩震えそう)


 口元を覆い顔を少し伏せ、まるで召喚の結果に悲しんでいるような状態で歩を進めた。進む度に、声が聞こえる度に嘲笑ってしまう感情が段々増していく。ついにはニタァと唇の端があがる。このままでは大笑いしてしまう――アンリーナは背後にいる生徒達から気を逸らすためにある暗示を始める。


(私はアンリーナ。私はアンリーナ。優しくて可愛くて頼れるアンリーナ。私は善人。私はいい人。私はアンリーナ。アンリーナ・イルヴィア)


 例えお遊びでも、最初に決めたルールは破らない。アンリーナは演技の面が剥がれてしまわないよう何度も、何度も暗示をかけ続けた。

 自身が『誰にでも優しい困っている人を助ける善人』であると。自分自身に言い聞かせ続けた。

 

(私はアンリーナ。私は善人――……ハァ、あぶねェ。あとちょっとでこんなところで笑っちまうところだった)


 時間としては3分程度が経過しようやくアンリーナは自身の感情を治めることができ、口元の手を離し深呼吸をした。2、3回程度深呼吸し、不安げな表情に仕草をして視線を周囲へと巡らせた。不審に思われていないだろうか? そう思ったが周囲はアンリーナには目もくれず自身を優先していた。ほっと安堵の息を吐きアンリーナは止まってしまった足を動かした。——何故か激しく頭痛がする。

 すれ違う人々の表情を見てアンリーナは思う。


(皆、大丈夫かな。心配だなぁ……。……?)


 先程まで嘲笑っていた生徒達に対し、アンリーナはこの瞬間心から彼らを心配した。あれ? と自分自身の感情に違和感を抱きアンリーナは目を瞬かせ、ゾッと体を震わせた。


(違う。俺はこんなこと思わねェ。”思っちゃいけねェ”! なんで、こんなこと……まさか暗示のやり過ぎか?? ”いつも通り”のことしかしてねェぞ……!?)


 いつも通り。心が乱れればする行為。感情は変わらない。ただ心を落ち着かせるだけの行為――だというのに、今回は感情までもが変わっていた。彼が創り上げた『誰にでも優しい困っている人を助ける善人』という『アンリーナ』に。

 アンリーナは心の中で頭を激しく横に振り変わりかけた感情を無理やりふるい落とした。


(俺は『悪役』だ。そんな善な感情は必要ねェ)

『……』


 はぁ。ため息をつきアンリーナは先へと進んだ。その様子を彼女の召喚獣はじっと、何も言わず彼女を見つめていた。


(……そういえば)


 おかしな出来事に憂鬱を感じているアンリーナはふと、とある疑問を抱いた。


(なんで――――俺は『悪役』にならなきゃいけないんだっけ?)

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