第六話
(うーーーん、なんでだっけなァ……? 思い出せねェ。んーー?????)
何故悪役にならねばならないのか、何故善を嫌うのか。一度考えてしまえば気にせざるを得ない。思考を巡らせ思い込むようになった理由を探すが、思い出すことは出来ず心当たりもない。気味の悪い感覚にアンリーナは段々不機嫌になっていく。
「わっ!?」
「っ!? きゃぁ!!?」
自身の感情に意識を向けていたせいで、注意散漫となっていたアンリーナは、曲がり角から現れた人に気づくことが出来ずぶつかってしまった。衝撃でアンリーナは床に尻餅をついた。痛みに思わず瞼を閉じたが、自分ではない誰かの悲鳴が聞こえ恐る恐る瞼を開き、ぶつかった人を見た。そこにはアンリーナの青い髪とは対称的に桃色の髪を持つ少女が倒れていた。「いったぁ……」彼女も尻餅をついたようで目尻に涙を溜め痛みに呻く姿に、アンリーナは慌てた様子を見せ彼女に声をかける。
「大丈夫!?」
「うぅ~~~だい、じょうぶ。貴方こそ、だいじょう……ぶ……」
心配そうな表情をしていた女子生徒はアンリーナを視界に入れると突如目を見開きはくはくと口を開閉させた。おかしな様子にアンリーナは首を傾げつつまずは立ち上がらせよう。と彼女に手を差し伸べる。
(なんだァ?)
「だ、大丈夫?」
「あ、んりーな?」
「…………え?」
初対面であるはずの女子生徒から発された自分の名。差し伸べていたアンリーナの手がびくりと震え、口をあんぐりとさせた。「どうしてこの名を知っている?」思考を巡らせ過去を、幼年期の出来事を掘り返す。だが、何度記憶を遡っても自分と彼女が知り合いであったという記憶は何処にも存在しない。きっと彼女の名を聞いてもアンリーナは変わらず「誰?」のまま疑問を抱くだけ。
(こいつは何者だ)
警戒心を抱き、アンリーナはゆっくり手を引っ込めていく。そして女子生徒に「何故私の名を知ってるの?」と問いかけようと声を出そうとした瞬間、女子生徒が勢いよく立ち上がり、へらへらと笑みを浮かべた。
「あ、ああううん何でもないよ! ごめんねぇ怪我してない? あ~うん大丈夫そうだね、じゃああたしもう行くね急いでて!!」
「は? っちょっと待って!!」
誤魔化し女子生徒は速足でアンリーナの目の前から去っていく。慌ててアンリーナは女子生徒を引き留めようと手を伸ばしたが、彼女は足を止めることなく、振り返ることなくアンリーナの視界から姿を消した。行き場のない手は自分の指先に触れるのみ。呆然とした顔でアンリーナは女子生徒が去って行った方角を見つめる。
「……貴方は一体」
(マジで誰ェ!!! ……駒になるか、害になるか調べねェとなァ……調べねェともやもやしたままだし)
不安げな表情をしてアンリーナはぽつりと呟いた。そして段々と感じ始める視線の圧。周囲を見ると生徒の一部がアンリーナを横目で見ていた。どうやら今の出来事は先程の暗示の件より目立っていたらしい。アンリーナは視線を落とし落ちていた鞄を拾い上げそそくさとその場から離れた。
(は~~~~視線がうざってェ~~~~)
突き刺さる視線に不快感を抱きながらも顔には出さずアンリーナは心の中でため息をついた。
同時期。
「アンリーナ、アンリーナだよね、アレ。だって白狐いたし髪が青かった。あれが……アタシが入るはずだった『このゲームの主人公』……」
人気のない場所で誰かがそんなことを呟いた。




