第三十五話
先の見えない暗い穴に連れ込まれたアンリーナは、いつ地面に激突してもいいように受け身をとろうと構えようとした瞬間。
(い゛ッ!!?)
ベチャッと顔から地面に激突した。明かりがなく地面が見えないせいで分からなかったが、穴の先はそれほど深くなかったらしい。そしてこれも見えないせいで分からなかったが穴の中は水で満たされていた。アンリーナは地面から身を起こし舌打ちし、顔についた水滴を袖で拭う。
(危ねェ……ここ水あんのかよ。溺れるかと思った)
きょろきょろと辺りを見渡し目視でロイの姿を確認出来るかどうかを試す。ロイの姿はルシファーのように12枚の翼を背中から生やしている程目立つ為、いくら自分の足元も見えない程暗かろうが翼程度は目視で確認できるだろうと、アンリーナは高を括っていたがロイの姿も翼も見つかることはなかった。——ここに引きずり込んでからそれ程時間は立っていないのにもう自分の前から姿を消したんだな、と不審に思う。
(光魔法、持ってねェんだよなァ……)
困ったように項を押さえ、アンリーナは一度上を見上げる。本来ならばあったはずの穴が見えずアンリーナは地上に戻れない完全に閉じ込められたのだと察す。地上に戻ることも、光源も光魔法を学ばせてもらえなかった過去があり使えず、アンリーナは灯りなしで暗闇の中を進むしか選択肢はなかった。
足首まである水の中をバッシャバッシャと音を立てながら暗闇の中を進む。これだけ音を立てて進むのだから、向こうは自分が何処にいるのか分かっているかもな。とアンリーナは想像する。居場所がバレるなら音を立てず進めばいい話なのだが、水に妙な粘り気があり前に進むには音を立てて進むしか方法がなかった。
(何処にいる? いや、そもそもここは何だ? 学園に地下なんてねェだろ?)
暗闇の中を歩みながらアンリーナは光はなく、粘り気のある水で満たされたこの異質な空間について疑問に思う。ここで過ごしてきてから、アンリーナは今の今までこの場所を知らなかった。この場所が何に使われる場所なのかも分からない――そもそも、ここが学園の地下である可能性なんてないのだが。
穴に引きずり込まれたタイミングでアンリーナは学園から何処か別の場所に移動させられた可能性があった。アンリーナはロイと魔力の性質がとても似ている。例の毒魔法付与騒動の際に他人からの魔力経由とは言え感知出来なかったのだから、なおさら今回の本人が使用した魔法を感知できるわけがない。気づかない内に何処かに転移されていたとしても全く可笑しくないのだ。
(クソッ……あの野郎、何処にいやがる。見つけ出して今度こそ殺してやる……二度目の生もあいつに操られる人生なんて御免だ)
怒りで自身を満たしロイへの殺意を燃え上がらせた。そしてどうやってロイを見つけだそうかと悩んだ。ここで闇雲に探し続けても意味がない。しかしアンリーナは光源のように使うことが出来る光魔法を覚えていない。どうすべきかとアンリーナは考え思いつく。炎魔法を代用に使えばいい――と。
全体を照らすことが出来る光魔法と違い、炎魔法は一部分しか照らすことしか出来ない。だが明かりのないこの空間では一部分でも光があれば捜索は楽になる。そうと決まればやることは決定する。アンリーナは炎魔法を唱え、火の球を自身の周囲を回るように出現させる。
「うわ……」
周囲が少し見えるようになってアンリーナは粘り気のある水を見ようと視線を地面に向け、そこで目にしたモノにアンリーナは思わず嫌悪感を顕わにした声色を出した。水だと思っていたものは、黒くどろどろとした何か。アンリーナはここに降りた際地面に顔をぶつけたこと、得体のしれない何かに顔を突っ込んだことを思い出しぞっと顔を青ざめた。
(早くあいつを見つけてこんな場所から抜け出してやる……)
得体のしれない何かに触れてしまったことを更なる怒りの燃料とし、アンリーナは殺意を更に燃え上がらせ足を一歩前に踏み出し——
「——はっ?」
(うそだろ、ここ穴開いてんのかよ!!!?)
踏み出した先に地面がなく、アンリーナはバランスを崩し水の中に落ちてしまった。
(不味い、溺れる!!)
水の中は今までの粘り気より更に強くなっており、身動きが全くとることが出来なかった。そのことに気づいたアンリーナはこのままだと溺れると察知し、両手両足どちらも動かし水の中から体を、せめて顔だけでも出さなくてはともがく。しかしいくらもがいても水から這い上がれることは出来ず、むしろ更に水の底へと体は落ちていく。
(クソックソックソッ!!! ふざけるな、ふざけんじゃねェ!! 俺はまだ死ぬつもりはない!!!)
嘆いても、怒りを抱いても、現状を打破することは出来ず息苦しさに段々と意識が白く染まっていく。
(なんで、こういうことは上手くいかないんだ)
悲痛な思いを抱いたままアンリーナは意識を闇へと落としていくのだった。




