第三十六話 狐の回想
アンリーナが穴の中に連れ込まれた後のこと。
シロコはアンリーナを追うことも、会場に向かうこともせずただ地面に座って過去の記憶を思い出していた。己が召喚獣としてこの世界に召喚される前のことを。
元のシロコは、「反逆の理想郷二作目に出てくる主人公、アンリーナの召喚獣白狐」ではなく、何処にでもいる神獣の一体であった。
彼は特定の場所に固執せず、自由に生き、自由に神生を謳歌する存在であった。本来であれば誰かの下につくことなんてしない。そんな彼がアンリーナの召喚獣となったのは、十割リダーのせいであった。
シロコとリダーは顔馴染みであり、そこそこな友好関係であった。再会時は必ずどこかで食事をとり談話する程仲の良い一人と一匹。最近はどうなのか、悩んでいることはないか? おすすめしたいことがあって……。こんな出会いがあった——そんなことを再会度に行っていた。そしてある日、リダーと再会した時、ロス強制転生の話が話題にあがった。
『理想郷シリーズってキミが好きなやつじゃん。そこに転生させたの? 一作目の中ボスを』
『ついカッとなって……気づいたらやっちゃってました!!』
『アホ?』
『ドシンプルな罵倒!!!』
『せめて同性で転生させてあげなよ。中ボスは男でしょ?』
反逆の理想郷シリーズというゲームを、シロコはあまりよく知らなかった。ゲームをやったこともなければ調べたこともない。理想郷熱狂的ファンのリダー経由で少し知っているだけの認識。
この時点ではまだシロコはそのゲームに巻き込まれる羽目になるだなんて全く思ってもいなかったし、手を貸す相手がまさか一作目に出てくる中ボス「ロス」であることも想像していなかった。
『中ボス呼びやめません????』
『中ボスの名前覚えてない。アレ確か名前二つあったでしょ』
ロスのことを聞いたのは随分昔のことすぎて、シロコはいくら思い出してもロスの名を思い出すことが出来ない。そこでシロコはかろうじて残っている記憶を頼りにロスの名をリダーに聞いた。瞬間リダーは嬉しそうに声色を高め、早口でロスのことを語り始める。
『喪失者ロスと、純粋な少年フォルスですね!! ロスは転生のアレで嫌いになったのでどうでもいいとして……フォルスは好き!! 好きなのですが……隠しキャラなのが悔しい……あんないいキャラが隠しだなんて……』
『へ~隠しキャラなんだ』
『ですです。主人公の名前をデフォルトネーム「ザック」にして、ステータスを変えないと出会うことが出来ないんです。だから隠しキャラなんです!!!』
ペラペラと嬉しそうにロスと名付けられる前のキャラクターを語るリダーを「熱中させちゃったな~~」と薄っすら思いながらシロコは聞いていた。そしてシロコは水分を取ろうとコップに入った水に口を付けた飲んだ瞬間。
『——で、シロコさんに頼みたいことがあるんですが。転生したロスのサポートをしてくれませんか???』
『ブフォッ!!!? げほっ、ごほっ、ェ? 何? うぇっ、喉いた、は? なに????』
飲んでいた水を勢いよく吹き出し、むせながらリダーに今の発言についての回答を求めた。
『実は同時期に一作目のラスボスが転生してしまったんです。事故で。絶対ろくなことにはならないので、シロコさんにロスのサポートをしてほしいんです』
『他の神獣に頼んだら??? 白狐なんてボク以外にもいるでしょ~?』
『シロコさんは他人に興味ないじゃないですか。適任です』
言い方ってものあるでしょ。という言葉を呑み込みシロコは「まぁ暇だしいっか~」とリダーの提案を呑んだ。それからシロコはリダーによって理想郷シリーズの予習を行い、理解度を深め、アンリーナの元に行くのであった。
『コーン』
「……?」
『コーン』
「……これが、私の召喚獣……?」
(そうだよ~。よろしくね嘘で塗り固められた可哀想なキャラクター)




