第三十四話
(あ゛あ゛もう!!! イライラする!!!!!)
「ロイ!!!」
一方的に言い放ちシロコを突き放したアンリーナは怒りを抑えることなく会場に入り義父に向かって彼の名を呼んだ。恐怖に屈するわけにはいかないと怒りの感情を更に高ぶらせ義父を見て、目の前で起きている光景にアンリーナは目を見開く。
「……ァ゛……」
「————何してるんだ」
「何って、見て分からないのか?」
目の前で起きている光景——義父が召喚主であるフィーリアの腹を彼がもっていた剣で突き刺していた。フィーリアは目を見開き口からたらりと血を流し「ぁ、れ」と困惑している。それから己の腹に突き刺さった剣を呆然と眺め一言「な、んで?」と呟いたと同時に剣が腹から引き抜かれ、フィーリアはどさりと地面にうつ伏せに倒れる。
「仲間のはずだろ」
「仲間? いつ私がコレの仲間だと言った? 私はただ彼女の遊戯に付き合っていただけだ」
ハッと冷笑しロイはフィーリアの背中を足で強く踏みしめた。小さく「ぅ゛ぐ」とフィーリアは呻き声をあげるが、ロイはフィーリアから足を退けずそれどころか先程より強く踏む。そんな二人の様子を見てアンリーナはぼんやり思う。この人はここでも人を裏切ることに躊躇がないのだと。アンリーナは地面に倒れ伏したフィーリアを助けることはせず一瞥だけを行ったあと、右手をロイに向かって伸ばし魔法を口ずさむ。
「『tonnerre』」
魔法を口にした途端雲も雨も降っていない上空から突如雷が発生しロイに向かって落ちていく。フィーリアの安全を考慮していないその雷魔法はフィーリア諸共ロイを消し炭にしようとした。
「『défense』」
(防御。それなら)
しかし、雷が二人に当たることはなかった。アンリーナの行動を予測していたのかロイが雷に当たる寸前で防御魔法を使い、アンリーナの魔法を弾いたのだ。魔法は弾かれてしまったが、一発で決まるとは思っていなかったアンリーナはすぐさま別の行動へと移る。
「『glace』、『flamme』」
氷魔法を使い、アンリーナは自身とロイの中間に氷の塊を生み出した。それから間を置かず氷の塊に向かって炎魔法を使用し塊を燃やした。ジュゥと燃える音と共に氷から煙が噴き出し、会場を覆い視界が悪くなり何も見えなくなる。その瞬間、アンリーナはロイがいたであろう場所に足音を、気配を出さず向かっていく。
(その首、貰った)
ロイに気づかれることなく彼の背後に回り込めたアンリーナは、迷う素振りを見せず先程氷の塊を生み出した際に生み出した小型の氷の塊を使い、彼の首を斬り落とそうと目論んだ。氷を持つ手に力を込め、鋭い部分を彼の首に向かって勢いよく振り下ろす。
(——ッ、手ごたえが、ない!!!)
氷の塊を振り下ろした直後アンリーナは気づく。何かを斬った感覚がない。そこでアンリーナは視界に映るロイが本物ではなく、偽物——幻影であることに気づく。瞬間、アンリーナは誰かに腕を掴まれ地面に向かって引きずられる。
視界に映った今までどこにも存在していなかった先の見えない暗闇。その中から誰かの手がアンリーナの腕を掴んで引っ張っていた。
(まずっ――!!)
引きずり込まれないように抵抗を行ったが、相手の方が力が強くアンリーナは呆気なく穴の中に引きずり込まれてしまった。




