第三十三話
「はぁっ、はぁっ、はぁ……」
シロコに連れられ会場から離れたアンリーナは、何度も深呼吸を行い恐怖を意識から消し去ろうとしていた。しかし何度深呼吸を繰り返そうとも、恐怖がアンリーナの傍から消えることはなく、顔をくしゃりと歪ませ嫌悪感と苛立ちを顕わにする。
(クソッ、クソックソックソ!!! 落ち着かねェ。本当に嫌だ。なんであの人がこの世界にいるんだよ。しかもなんで堕天使の名を名乗ってんだよ……!!!)
恐怖は消えていないが、思考は正常に動くようになったのでアンリーナは先程の会場の様子を思い出し怒り抱いた。フィーリアとの関係性、召喚獣になってルシファーを名乗っている訳。フィーリア関連で疑問を浮かばせるが、フィーリア側の事情を知らないのでアンリーナは推測をたてようにも情報が足りず、何も分からない現状に嫌気をさす。
(てか、こことあそこは何の関係もないはずだろ。————)
かつてこの世界の魔法と前世の魔法の構造が似ていることに気づいた際、アンリーナは前世とこの世界は何かしら関係性があるのではないか。と調査を行った。結果、この世界と前世の繋がりは一つもなくただ似ているだけ——という結論となった。歴史に乗っている情報が一つも前世の歴史と被っていなかったからだ。
それ以外で義父がこの世界にいる訳はなんなのか――そう考えて、アンリーナはあることを思い出し、シロコに声をかける。
「シロコ……招かねざる死者って、何」
あること。それは先程恐怖でパニックを起こしたアンリーナをシロコが救う際、ルシファーに向けて放った言葉。その言葉は義父がこの世界にいる訳に深く関わっているはずだ。――誰が考えてもそう結論つくその発言について、アンリーナはシロコに回答を求めた。問いにシロコはすぐには何も答えず、彼女を一旦地面へ降ろしたあと首を横に降った。
「ご主人様がそれを知る必要はありませんよ〜これはこちら側の問題ですので〜」
「――」
(なんだよそれ)
けらっと笑顔を浮かべ語るシロコの姿は、彼が今何を考えているそう答えたのか、本心が全く分からなかった。彼の発言は言い換えれば「貴方は部外者だから関わるな」と言っていた。彼からすればその発言は心配ゆえの言葉だったのだろう。だがアンリーナにはその言葉が、その発言が、自身を酷く拒絶したと感じてしまった。――シロコは無意識にアンリーナの心に傷口を作ってしまったのだ。
未だ恐怖に支配されている中、当事者であるから。義父がここにいるのは自分のせいだと本能がそう訴えかけていたから。アンリーナは知ろうと、理解してシロコと手を借り対処法を考えようとしたのに。なのに、だというのに――――
拒絶された。
「――ふざけんな!!!! 何が知る必要はないだ!!! 何がそっちの問題だ!! 俺も、俺は当事者だろう!!!!?」
「ぐっ……!? ごしゅ、なにをっ……!?」
拒絶された恐怖が怒りへと変わり、シロコの胸ぐらを掴み、壁へと押し倒す。アンリーナの突然の行動にシロコは困惑する。そしてそんなことは知ったこっちゃないとアンリーナは詰めかける。
「俺は役立たずか!? 俺は無能か!!!? 俺がアレをなんとかしようとする行為は愚かか!!!?」
「ちょっと、まって、なにいって」
「俺は悪だ!! 自らの起こした責任を取るに決まってるだろ!!!? だから、だからあの時も!!! ザックにわざと殺されたんだからさぁ!! 俺が、僕が!!! 大切なあの場所を燃やしたから!!!」
支離滅裂。対話不可。アンリーナは心のままに怒りをシロコへぶつけた。そして胸ぐらを掴むのをやめた。
「お前なんて、君なんて知らない! 勝手にしろ!!」
そう言い放ちアンリーナは義父がいるであろう会場へ走っていった。――自らが起こしたであろう責任を取りに行く為。
シロコは去っていったアンリーナを追いかけず壁にもたれかかったまま、くしゃりと前髪を手で握った。そして苦しげな表情を浮かべポツリと呟くのだ。
「根本がお人好しな悪役キャラクターを、関わらせるわけないでしょう……!!?」




