第三十二話 ”悪”の過去①
前世で悪として生を謳歌したロス。——彼は幼き日に運命を分ける出会いをしていた。
かつては『■■■■』という名であった少年が覚えている最初の記憶。それは目の前で燃え盛る村と、見たこともない男性の姿。
少年は草の上で座り込んだまま、視界に映った情報を元に疑問を抱く。——ここはどこで、自分は誰なんだろう。目の前の人は誰なのだろう。何故あの村は燃えているんだろう。何故自分はあの燃えているものが村だと理解しているのだろう? 少年が疑問をいくら抱いてこれまでの記憶を思い出そうとしても思い出せない。まるで少年はたった今ここで生まれたかのように。
『……ぼくは、だれ?』
『――君はロス。そして私は、君の父親だ』
『……お父様?』
何も分からず混乱する少年が最初に発した言葉は自身の正体。それを男性——ロイは手を差し伸べ少年の疑問に答えた。そこで少年『■■■■』はロスという悪の生を受けた。
ロイは続けてロスの疑問に答えていった。
何故自分は何も覚えていないのか――悲惨な出来事にショックを受け記憶を失ってしまったから。
何故自分はここで座り込んでいたのか――燃える村から君を救ってここに座らせたから。
何故あの村は燃えているのか――あの村にいる者が正気を失い、次々と家に火をつけていったから。
何故自分はあそこが村だと理解出来たのか――燃えていても、あそこはかつて君が過ごしていた場所。理解出来るのはなんら可笑しくはない。
疑問の答えを貰ったロスは何か違うのではないか? と違和感を抱いた。しかしどこが違うのか、何が違うのか、それを明確に言語化できずロイの答えにこくりと頷くしかなかった。そしてロイはロスを抱え「家に帰ろう」と言った。何かおかしい――父親の発言にロスはそう不信感を抱いた。
おかしい。それだけは分かっているのに、何がおかしいのか分からない。何とも言えないもやもやとした不安がロスの心を覆う。
『ロス? どうかしたか?』
『……ううん、なんでも……ない』
記憶がないというのはなんと心苦しいものか。ロスは父親に対し不安を抱いてしまい逃げ出してしまいたい気分になる。しかし過去の自分を知っている人である為、自分を知る為にも今逃げる訳にはいかなかった。
『……ほんとうに、お父様なの?』
何も聞かない方がいい。今は父親の言葉だけを聞けばいい。そう理解していながらもロスは疑問を口にした。すると一瞬ロイはぴくりと動きを乱したあと穏やかな笑みを浮かべ首を傾げた。
『どうして、そう思ったんだ?』
『かお、にてないから』
『————私は君の父親だと言ったが、正確には義父なんだ』
少し間を置いたあとロイは自身とロスの関係性を父親から義父であると修正した。その言葉に嘘はないと思ったロスは素直に彼の言葉を受け入れた。
こうして幼き少年の運命は”悪”へと傾いてしまった。




