第二十六話
フィーリアの決闘が始まった。彼女の対戦相手は好戦的な様子を見せる女子生徒。
(さぁ見せろ、てめェの召喚獣を)
「ワタシは勝つ!! すぐにアナタを地に這いつくばらせてやるわ!」
「……」
女子生徒はフィーリアを指差し意気揚々と自身の勝利を宣告した。女子生徒の表情は自信に満ち溢れており虚勢を張っているようには見えない。そんな女子生徒の行いにフィーリアは何も言わず、興味なさげにふぁと欠伸を一つ行い、フィーリアの表情は女子生徒の発言に今すぐにでも「つまらない」と口走るかのような呆れた表情を見せつけた。
「挑発のつもり? ハッ残念だけどワタシはそんなことで心を乱さない。さぁ、覚悟しなさい!!」
高らかに威圧的に女子生徒はそう口にして、自らの召喚獣を呼ぼうと口を開く。
「来なさい、ワタシの――――」
「ふふ……」
(——笑ってる?)
観客席には絶対に届かないはずの微かな笑い声がアンリーナの耳に入った瞬間——バタリ。何かが地面に倒れた音がした。
(は?)
何か。それは先程まで威圧的な態度を自信に満ち溢れた表情をしていたフィーリアの対戦相手が地面に受け身も取らず倒れた音であった。
突然の出来事だった。直前まで女子生徒に異変はなかったし、フィーリアが何かをしたような素振りもなかった。アンリーナは会場で発生した出来事に思考がぴたりと時が止まったように停止した。
「え? なに……?」
「何したんだ……?」
会場で起きた出来事にアンリーナ以外の生徒達にも困惑していた、それもそうだ、彼らから見てもあの女子生徒には何一つとして不調を隠しているようには見えなかったのだから。目を凝らして会場をよく見ようとしても観客席からでは遠すぎて細部を見ることは出来ない。
「……ねえ、あの子倒れちゃったけど?」
観客席で困惑が広がっている状況の中、たった一人女子生徒の対戦相手であったフィーリアは淡々と司会に問いかけた。
「え? っあ、しょ、勝者、フィーリア・コルネ!!!!」
フィーリアの問いかけに司会は呆然としていたのか、疑問を持つような声を出したがその後声を裏返した状態でフィーリアの勝利を口にしたのだが、誰一人として会場にいるフィーリアに対して拍手や歓声は送らなかった。それもそうだ、誰も彼も目の前で起きた出来事をまだ呑み込めていないのだから。フィーリアはつまらなさそうに最初の時のようにふぁと欠伸をし、会場から去って行った。結果、会場には突然倒れた女子生徒だけが残されることとなった。
「今のは一体……」
隣からアルノエルの独り言が聞こえた。
(分かる~~今のなんなんだろうな? 召喚獣……けど透明化を解除した素振りはない。魔法を使った形跡もなしと来た)
言葉に出すことなく心の中でアンリーナはアルノエルの独り言に同感した。
今季の決闘が始まって初の異常事態。召喚獣を行使した様子も、魔法を使用した様子もなく一瞬のうちに決着。フィーリアが誰にも気づかれることなく魔法を使用した可能性はあるが、アンリーナの転生特典で見破られてしまう。故に誰にも気づかれることなく魔法を使用したという可能性は除外される。
会場ではフィーリアの対戦相手であった女子生徒が担架に乗せられ運ばれている光景が見えた。
「なん、か……すっげぇな…………」
「あの子、大丈夫かしら……」
「今年なんかやばくね?」
(ちょっと魔法使うか。あの女、ぜってェやべェことしてんだろ。さてさて~~何がわっかるかなァ)
「…………Un message du vent(風の知らせ)」
ようやく状況を読み込めてきたのかざわつきだした観客達を横目にアンリーナはアルノエルにも聞こえない程の声で魔法を使った。Un message du vent(風の知らせ)——情報収集によく使用している風+情報魔法を合わせた音声記録装置のようなもの。アンリ―ナはいつものように魔法がフィーリアの情報を奪って来るのを楽しみに待っていると――ぶつり。糸が切れたような音が耳に入ってきた。
(……は? 消された? バレた? ……今になって?)
魔法の効果が消された時に聞こえる糸が切れる音にアンリーナは動揺した。今までフィーリアに魔法の効果を消されたことがなかった為アンリーナは脳内に疑問符を飛ばしてしまう。それからすぐにアンリーナは魔法をフィーリアにつけようとしていたことがバレていたか否かを確認する為、もう一度同じ魔法をフィーリアに向けて飛ばすが、同じようにこれも消されてしまった。————バレている。
(嘘だろ。かんっぜんにバレてやがる。それにしてもなんでバレたんだ?? 今までバレたことなかったのにか?? なんか、気味悪いな)
異常事態の連続にアンリーナの背筋に悪寒が走った。フィーリアの様子、フィーリアの対戦相手、魔法が消される。連続で発生している出来事に不気味で仕方なく、同時に嫌な予感を抱いた。




