第二十五話
アルノエルと女子生徒の決闘後、生徒達の様子は一変した。決闘前は召喚獣と連携が取れていない生徒ばかりであったが、決闘後は連携を取ろうとしている様子が様々な決闘で観測出来た。一変した決闘の様子にアンリーナは思う「俺じゃなくて、あいつの真似をするんだなァ」と。優秀な存在の影響力がこれほど周囲に影響するのだと、無価値な存在の影響力は全く周囲に影響されないのだと――アンリーナは実感した。
会場ではアルノエルに影響された生徒達が召喚獣と連携を行おうとしている様子が何度も確認出来た。だが八割がお粗末な連携であった。理由は簡単、作戦変更が遅すぎる。決闘祭中に作戦を変えてすぐに息の合った連携が取れる訳がないし、そもそも意思疎通できる程仲が深まりきっていない状態で即興で連携なんて不可能——片方が邪魔になる。八割の生徒と召喚獣がそういうことをしていた為、アンリーナは連携せずに当初の作戦でやればいいだろと呆れ果てた。
「リーナ。見つけた」
「ん? ……ノエル?」
なんか前よりつまんねェなと呆れながら決闘をぼーっと見ていると、アルノエルが名を呼びながら、アンリーナの傍まで寄ってきた。そして周囲に開いている席はあるというのに何故かアンリーナの真隣の席に腰を下ろした。
(他に開いてる席あるんだけど???)
「ノエル、近いわ」
「そんな悲しいことを言わないでくれ。俺は君と話したいことがあるんだ」
(じゃあ真隣に座らなくてもよくねェか?)
遠回しに離れろと口にしたが、アルノエルはそこから離れることも動くこともなくにこにこと笑顔を浮かべながら突然アンリーナの手を優しく握った。
(は?)
突拍子もない行動を起こしたアルノエルにアンリーナは目を丸くさせ、「は? え?」と握られた手とアルノエルを交互に見た。
(?????)
「いきなりどうしたの?」
「リーナ、俺の決闘は……どうだった?」
(は?)
「え? なんでいきなりそんなこと……というかあの、なんで私の手を――」
「リーナ。答えてくれ」
アルノエルの行動に困惑した様子を見せ、アンリーナは彼にこの行為は何か? と説明を求めたが聞く耳持たず。だというのに表情は変わらず笑顔で、アンリーナはほんの少し恐怖を抱く。
(いやいやいやいやいや答えろじゃねェ~~~~んだわ!!! コワッ!! 何、俺なんかしたか?? 何もしてねェけど?????? というかいつまで手ェ握って…………あ? うわっ、なんっ、力つっよ!? 離れねェ!!)
何かした覚えはなくそこを問い詰めてやろうかとアンリーナは一瞬思ったが、様子の可笑しいアルノエルと会話出来る状況が見えてこず、一旦自分から距離を置こうとアンリーナは腕を軽く引っ張りアルノエルの手をはねのけようとした――のだが、突然アルノエルの手を握る力が強くなりはねのけることが出来なくなった。アンリーナが離れようとしたのを感じ取ってしまったようだ。アンリーナは思考を巡らせる。
(落ち着け、落ち着けロス。考えろ。何かあるはずだ。こいつが可笑しくなった原因が。じゃなきゃこいつがこんな意味の分からないことをする訳ねェ。何をした? 俺は、こいつに何をした?)
何故突然手を握る真似なぞしたのか、何が目的なのか、質問の意図はなんなのか。いつから様子が可笑しくなったのか——そこでアンリーナは気づく。アルノエルが可笑しくなったのは決闘祭が始まってからだということに。だが肝心の可笑しくなってしまった原因が思いつかない。
(……まさか)
アルノエルの様子の変化にこれと言った確信は持てないが、アンリーナはもしかしたら……と一つの予想が脳に浮かびあがった。「恋心を向けられている」そんな、信憑性に欠けるものが。
(ない、よな。流石に)
心は男だし……とアンリーナは心の中で呟き、それからアルノエルの顔に視線を向け気づいてしまう。彼の目が酷く熱を帯びていることに――
(うそ、だろ)
「リーナ」
(やばい、これ、絶対)
脳に浮かんだ一つの予想が、信憑性が全くないはずのものが、まるで正解ですと言わんばかりにアルノエルは突然アンリーナの名を優しく呼び、頬を撫でふんわりと花が綻ぶような顔をした。その顔を見た瞬間アンリーナの思考がまるで時が止まったように停止し、同時にドキリと胸が高鳴った。
「答えてくれ」
「ぁ、あ、あとで、あとで言うから、まずは決闘を見ましょ? そ、それに、ほら。ここじゃ人目につく」
「……それもそうだな」
顔を真っ赤に染めアンリーナがたどたどしく発音でアルノエルの質問を回避した。アルノエルはアンリーナの発言に特に不満を抱くような顔をせずにただただ笑顔を浮かべそれから会場の方に視線を向けた。
(うそだ。俺、今、こいつがかっこよく見えて……嘘だろ、お、俺は男だぞ!!!? そ、そっちの気はない!!)
今すぐにでも頭を抱えてしまいたい欲がアンリーナの心に浮かびあがってきた。体は女とは言え中身は男だし、前世で男に惚れそうになったことや好ましいと思ったことはない。だというのに今アンリーナはアルノエルの花が綻ぶような顔に対し好意を抱いてしまった。
(お、おかしいだろ、こ、こんなこと)
自身の異変とアルノエルの異変に対しすぐに受け入れることが出来ず、アンリーナの脳は混乱しぐるぐるとまとまらない思考が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。
「これよりA組フィーリア・コルネと、C組――――の決闘を開始する! 3——2——」
(っ、あの、女の決闘、こ、こっちは忘れて今はあっちだ……!!)
会場から聞こえた司会の声にアンリーナの意識はアルノエルから会場へフィーリアへと向けた。視線を会場に向け、決闘の様子をアンリーナは見た。
アンリーナは知らない。アルノエルという人間についてを。
アンリーナは知らない。自身に害をなす存在がアルノエルの手によって排除(強制退学)されていたことを。
アンリーナは知らない。初めて会話を行ったあの時、身分を気にせず話しかけてくれたアンリーナに、アルノエルは一目惚れしたことを。
アンリーナは知らない。"反逆の理想郷シリーズ2作目"に登場するアルノエルという男は、恋した相手に対して一途であり、重い愛をぶつけるキャラクターであるということを――
今のアンリーナはそれらの真実に気づくことは出来ず。
「――1――始め!!!!」
決闘の合図がなった。




