第二十七話
フィーリアの一件があっても決闘祭は終わることなく続いていく。アンリーナ、アルノエル、フィーリアの三人は決闘で一度も敗北することなく連勝を続けていた。
連勝を続けるアンリーナに観客席にいる生徒達はアンリーナの連勝に様々な解釈や話をしていた。曰く、対戦相手に負けるよう賄賂を渡しているのではないか、対戦相手の弱みを握っているのではないか。何故あそこまで召喚獣と連携できるのか、あの召喚獣は何なのか。落ちこぼれのEの癖に何故すぐに魔力がなくならないのか――等の不愉快に感じる解釈や話ばかり。その話をアルノエル経由で知ったアンリーナは不愉快に思うどころかむしろ歓喜で心を震わせていた。
(フゥゥゥ!! これだよこれェ!! 直接聞けねェのが残念だが、こういう低能な奴らの話は何度聞いても飽きねェもんだなァ。てか俺なんかの話で時間を潰すなんて無意味な行為してんなァ。他のことに力を注げばいいものを)
噂話をしているであろう生徒達を哀れみを含みながら貶し、それから生徒達の悔しがる姿を妄想しくすっと笑う。
「リーナ、嬉しそうだな」
「……う、嬉しそうに見えたかしら?」
「ああ、とても。嬉しそうに笑っている君はとても可愛らしいな」
「————え?」
(…………???? え、今、俺口説かれた?????? は??)
悔しがる姿に愉悦を感じて笑ったアンリーナに対してアルノエルは微笑ましいものを見るかのように優しい目を向け、突然口説き文句を発した。口説かれるような前兆は一切感じず、あまりにも突然すぎた発言だった為アンリーナは数秒思考が停止し大量の疑問符を思考に纏う。それから思考が正常に動き出し言葉の意味を理解した途端、アンリーナの顔色は一瞬にして真っ赤に染まった。
(なんっっ、だよいきなり!!!! いきなり褒めるなよ!! こっちは慣れてねェんだぞそういう悪意のない純粋な賞賛にさァ!!! ああああ、あと、やっぱ、これって、こいつ俺に恋、してる、よな)
視線をアルノエルから逸らし、アンリーナは彼の様子に以前予想していた「恋心を向けられている」という推測が当たっているのではないかと考える。むしろそれではなければアルノエルの行為に説明がつかない。
(ああクソ、顔が、熱い)
アルノエルの言葉が脳から離れず、真っ赤に染まった顔色は一向に戻ることがない。前世が男だったから男に口説かれても嫌悪感しか抱かない――そのはずなのにいつまで経っても嫌悪感は湧き出ない、むしろ逆に嬉しく、喜ばしいと心が訴えかけてきた。男として違う、違うと言い聞かせても、女としての自分が嬉しい、もっと欲しいと欲張ってしまう。前世の自分と今世の自分、性別による抱く感情の違いにアンリーナの脳は混乱し、何度も思考が停止してしまう。
「リーナ。何故目をそらすんだ? こっちを見てくれ」
「ちょっ、ちょっと……今は……だめ……そ、それに、ほら、みんな見てる……」
「見てない」
「う゛……」
(本当に今は駄目だ!! ぜってェ顔赤くなってる!!! 俺は男! 俺は! おーとーこ!!)
視線を逸らしたアンリーナに、アルノエルは不満そうに顔を見るように訴えかけた。だがアンリーナはその要求に応えることはなく顔を伏せ、真っ赤に染まった顔色を両手で隠してしまった。
周囲の人間は皆一様に二人を見ないように視線を逸らしていた。アルノエルの纏う空気に圧を感じ取り、無意識に危機感を抱いた故の行動であった。危機感を抱いていない人間は周囲の人間によって別の方向を見るようにされていた。つまり、こうして顔を真っ赤に染め、傍から見れば困ってるように見えてしまうアンリーナに手を差し伸べる存在は誰もいないのである。
アルノエル以外が気まずい気分になっている中、司会の声が観客席に響き渡る。
「次!! 59番!!」
「っ! 59、わ、私だ。い、行ってくるわ! ではノエル、また!」
「あ。……行ってらっしゃい」
アンリーナはアルノエルに顔を合わせず早足で会場へと向かった。その顔は未だ冷めることなく赤く染まっていた。
(こんなこと、ありえない、ありえていいわけがない!!!)




