第十八話
夢から覚めたアンリーナは震える瞼を開き長く息を吐いた。
(……なっつかしい夢だなァ……なんで今更あんな夢を見たんだァ?)
普段は見ない前世最期の記憶。”悪役”として振る舞い続けザックに殺されるように仕向けた秘密の作戦。——ザックがその事実を知ることは二度とないであろう。
目を開いてすぐに映った見たことのない天井。アンリーナは視線を部屋の中へと向けた。周囲はカーテンで覆われ、簡素なベッドの上でアンリーナは寝かされていた。腕には大怪我でもないのに何故か包帯が巻かれていた。
(——医務室か? …………あぁ~~……クソ……痛みには慣れてたはずなのに、なんで俺は気絶した? 魔法が使われた感じはなかったけど……なぁんかあの爪に透明な……ヤベェ代物でも塗られてたかァ? ……いや流石にないか)
気絶した原因を考察しながら上半身を起こし、くるくると包帯を解いていると扉が開く音がアンリーナの耳に入った。続けて近づいてくる足音がしたと思えばカーテンが開かれた。
「……ノエル?」
「! リーナ、起きていたのか。無事でよかった。具合は?」
(……なんだ? その大袈裟な反応は……?)
医務室に入ってカーテンを開けたのはアルノエルだった。彼は目覚めたアンリーナを視界に入れると少し驚いた様子を見せ胸を撫で下ろした。その様子がアンリーナはとても気になってしまった。
「ええ、何もないわ。ねぇノエル、もしかして貴方が私をここまで運んでくれたの? でも爪を立てられただけで気絶するなんて、私ってば疲れていたのかしら?」
「……気づいていなかったのか?」
「?」
軽口を叩くようにアルノエルに無事を伝えれば、彼は少し視線を反らしたあと、面と向かってアンリーナにあることを口にする。
「君の腕に毒魔法が付与されていた」
――あと少しで君の命は尽きていたかもしれない。
(――――は)
発された理解出来ない言葉。否理解は出来る。だがまさか『毒』というワードを彼が口にすると思わずアンリーナの思考は停止してしまっていた。動揺していた。だがすぐに停止していた思考を稼働させ先程アルノエルが口にした言葉をもう一度頭の中で反響させた。もう少しでアンリーナという第二の人生が終わっていたかもしれない。毒魔法を付与されていた。――アルノエルが来なければ、あの場で死んでいた。ゾッと顔が真っ青に変化した。
「ちょっ、と、待って、毒? 何よそれ、そんなの私、知らないわ!」
(どういうことだよ、毒って、なんでこんな場所で? は? あれ、覚えるの大変なんだぞ!? い、いや問題はそこじゃねェ!! 魔法なら気づくはずだろ!!? 転生特典で!!)
動揺を顕にするアンリーナの様子を見て、アルノエルは言いにくそうに視線を右往左往させ、コホンとアンリーナが気絶したあとのことを説明する。
女子生徒達曰く。電気魔法の応用であった。毒魔法とは知らなかった。少し痺れさせるだけとしか聞いてない。爪に付与して、あとは相手に触れさせればいいだけと聞いた。殺すつもりなんてなかった――と。
(はぁ!? なんだよそれ!?)
アルノエルから語られた情報にアンリーナはバッと包帯を解き爪が刺さっていた傷口を見た、触れた。――魔法が付与された痕跡が残っているかと。
毒魔法が付与された痕跡があるかと凝視したが、おかしなことにどこにも痕跡はなかった。何かを取り除いたであろう除去魔法の痕跡しかなかった。
アンリーナが知っている情報として、魔法が使用されれば数日かあるいは数ヶ月は魔法の痕跡が残る。魔法使いであろうとも数日は痕跡が残ってしまう。だからこそ毒魔法の痕跡が一つとして見つからないのはおかしい。転生特典があるのに関わらず分からないのはおかしい。
「ただ一つ不思議なのが、彼女達は皆”魔法を教えてくれた人の顔が思い出せない”と言っていた。……おかしいだろう?」
つらつらと不思議そうな顔で語るアルノエルの言葉がアンリーナの脳に上手く入ってこない。『毒魔法』が付与された、痕跡がないことに酷く心が乱されてしまったから。
(わ、からない、なにも、わかんねぇ……何が起きたんだよ、これ)
「リーナ、大丈夫か? 除去魔法をかけたからもう大丈夫だと思うのだが……」
「…………え、ええ、大丈夫、少し、驚いただけ…………」
動揺のままアンリーナは弱々しくアルノエルの言葉に受け答え続けた。脳内では変わらず『毒魔法』のワードがちらつき、消えない。
(シロコに聞かねぇと……)
自分の召喚獣ならば何か知っているだろうとアンリーナは思い至った。その後アンリーナは毒が完全に除去できているか一度検査を受けたあと、アルノエルに付き添ってもらい寮へと戻ったのだった。




