第十九話
自室に戻りアルノエルと別れたアンリーナは身を隠しているであろう己の召喚獣の名を呼ぶ。
「シロコ。いるか」
「……はーいご主人様~呼びましたか~?」
名を呼んでから数秒の間を開け、目の前の何もない場所に突如として煙が発生しそこからシロコが姿を現した。いつも通り笑顔を浮かべるシロコに、アンリーナは自身の腕をシロコへ突き出す。
「この腕。何か気づかねェか」
「騒動の際に付与された毒魔法の痕跡と、除去魔法ですね~」
「へぇ。一目で分かるのか」
毒魔法が付与されていたであろう箇所を見せつければシロコはすらすらと腕に付与されていた魔法が何かをすぐに当てた。迷うことなく答えたシロコにアンリーナは感心した。――が。
「それは勿論! ご主人様の召喚獣ですから! いや~~~大変でしたね~ご主人様~」
「ア? 何が大変だったって?」
「あ」
シロコのまるで近くで現場を見ていたかのような発言にアンリーナのシロコへ向ける感心は跡形もなく消え去った。
自分の発言が失言と気づいたシロコはバッと片手で自身の口を塞いだ。普段の内心が読むことが出来ない状態とは違って視線をアンリーナに合わせず、目に見えて動揺するシロコ。じとぉ……と穴が開くほどに不審な視線をシロコへ向け続けるアンリーナ。
「……え、えぇと……そ、そのぉ」
「シロコ。テメェ今日一日どこにいた?」
「……ず、ずっとそばにいました〜……あ、はは〜……」
女性が出す声色にしてはドスが効いた声色でシロコを脅せば、視線をそらした状態で唇を引きつらせ弱々しく返事をした。
「ハア? じゃあテメェは俺が毒付与されてる時黙って見てたわけか?」
「ち、違います! これには深い訳があるのですよ!!!」
「深い訳ねェ? あと少しで俺は死んでたかもしれないのに?」
怒りをあらわにシロコに詰め寄っていく。執事服を身に着けた子供の状態になっているシロコの胸ぐらを掴み自身の腕に強化魔法を付与しシロコを持ち上げる。
「あーっ! あーっ!! ご主人様と似た気配がして、あの時はそばにいなかったんです!!!!」
「……あ? どういうことだ?」
ぷらりと持ち上げられ、宙に浮いた状態でシロコは深い訳を口にした。シロコの言葉にアンリーナが訝しげな表情をすれば、シロコはすぐさまつらつらと説明する。
曰く。アンリーナの魔力に似た気配を感じ、一時的にアンリーナから離れていたこと。そして戻った時にはすでにアンリーナと女子生徒達の騒動が起きてしまっていたこと。騒動を止めようとしたタイミングでアルノエルが来たことを。
「俺の魔力に似た気配って言ったな。そんなに似てんのか?」
「ええまぁはい。ご主人様の魔力って言ってもおかしくないほどそっくりでしたよ。……説明したので、おろしてくれますか……?」
「あ゛?」
「ナンデモアリマセーン……」
「それで? 俺の魔力に似た気配のやつは見つけたのか?」
アンリーナの問いかけにシロコは言葉が詰まっているのか「えーっと、あのーそのー」と意味のない言葉を繰り返す。もし自身に似た魔力を持つ存在を見つけていたならばすぐに答える。だがシロコは答えることなく言葉を詰まらせている。――こいつ、見つけてないな。とアンリーナは察し怒りを通り越して呆れてしまった。
ぱっ。シロコの胸倉を持ち上げていた手を離せば、シロコは少し体制を崩しながらも床に足をつけふぅと息を吐いた。
(俺と似た魔力ね、そんなやついるなら会ってみてェな。俺の魔力なんざそうそういないしな。いるとすれば――……いると、すれば)
はぁぁぁ。深区息をつき、アンリーナはその場に座り込み考え込んだ。自身に似た魔力。かつて前世で自分は珍しい魔力を持っていると言われた。もし今世でも同じならば珍しい魔力持ちが同じ学園に二人もいることになる。そこまで考え、ふとアンリーナはあることに思い至った――気づいてしまった。
(……もし、そうなら……)
脳裏によぎったことに、だらっと冷や汗がアンリーナの背中を伝った。表情は怒り・呆れから恐怖・怯えへと変動していきカタカタと体が震え始める。
「ご主人様? どうされたんですか?? ご主人様……?」
(そんな、奴は)
アンリーナの異変に気づいたシロコが肩を揺さぶり声をかけた。アンリーナは何も答えない。答えられる状況じゃなかった。
脳裏によぎったこと。それは前世の生まれて初めて目した光景。燃え盛る村をぼんやりと見つめていた独りぼっちの自分自身。自分が何者なのか、何故目の前の景色が赤く燃えているのか、記憶全てが真っ白な生まれたばかりの少年には分からなかった。そんな中少年に手を差し伸べた男性。
『……ぼくは、だれ?』
『――君はロス。そして私は、君の父親だ』
『……お父様?』
少年と似た珍しい魔力――『闇』の魔力を持つ存在がアンリーナの脳裏にこびりついて離れない。
(なんで、父さんは、ここには、いないはず、なのに)
――逃げられない? そうアンリーナは思った。何故父親に対してそんなことを思ったのか、アンリーナは分からなかった。理解出来なかった。




