第十七話
「君達、そこで何をしている!? ——リーナ!!?」
悲鳴を聞きつけたアルノエルが騒動の元になっている場所まで向かい、騒動の中心になったであろうものを視界に入れ絶句した。女子生徒がアンリーナの腕を掴んでいる光景と何故か脂汗をにじませぐったりと目を閉じているアンリーナの姿。慌てふためく二人の女子生徒。女子生徒達はアルノエルの到来に焦った様子を見せ「あ、アルノエル様っ!?」と声をうわづらせる。焦りと微かな怒りを抱いてアルノエルは女子生徒達に問いかける。
「君達、彼女に何をしたんだ!?」
「わ、私は何もしてない! 何もしてない!!」
「そ、そうよ!! その子は何もしてないわ! 私達はただあの女とお話しようと思ってただけなのに、急にあの女が騒ぎ出して!!」
「私達は何も悪くないのに!!」
女子生徒達は一様に自分達は悪くないと涙を流しアルノエルの情に訴えかけた。だがアルノエルの視点ではどう見ても彼女達(の一人)がアンリーナに対しなんらかのアクションを行っている。しかもアンリーナの掴まれた腕からたらりと血が流れているのを目撃してしまう。さらに「あの子嫌がってたじゃない……」「騒ぎ出して……???」「そこで嘘つくのは無理があるでしょう……」と周囲の目撃者達が口々に話す言葉が耳に入り、アルノエルは彼女達がアンリーナを傷つけたんだ。と判断した。——そしてアルノエルはあることに気づいてしまう。
未だに自分達は悪くないと嘘を重ね続ける女子生徒達。アルノエルはアンリーナの腕を掴んでいる女子生徒に近づく。女子生徒は何を勘違いしたのかぽっと顔を赤らめ安堵した様子を見せる。
「あ、アルノエル様ぁ……わ、私ぃ……」
「彼女から手を離せ」
「……え? あ、ああごめんなさいっ!! ち、違うんです! 私はただ気絶? しちゃったこの子が倒れないように支えてただけで――」
「”支えてただけ”か――なら血が出る程力強く掴む必要はないだろう。嘘をつくならもう少しマシな嘘にすべきだな」
「血? え、ぁ……ち、ちがっ」
「彼女を医務室に運ぶ、手を離せ」
「ひっ……!?」
媚びた声で嘘を重ねる女子生徒に向かって、アルノエルはアンリーナの血が滴り落ちている部分を指差した。血が出ているとは思っていなかった女子生徒はアンリーナの腕に目を向け血を目撃すると青ざめた表情をした。
言い訳をしようと女子生徒は口を開いたが、アルノエルはもう彼女の言い分を聞く気はなく乱暴気味に女子生徒からアンリーナを奪い取った。その表情と声色は普段の彼が使う社交用の面ではなくアルノエル個人としての面であった。いつもは優しそうな瞳が今回は冷たく、凍ってしまいそうな程の瞳が女子生徒を貫いた。
慣れた様子でアンリーナを姫抱きし、女子生徒を睨みつける。
「あ、アルノエル様、わ、私は、私達は――」
「君達の話は後でじっくりと聞かせてもらう」
アルノエルは気絶したアンリーナを連れその場から離れた。後に残されたのは騒動の中心となった女子生徒達と、ざわつく周囲の野次馬達。ヒソヒソと自分達に向けられる影口。
「わ、私は、私達は悪くない!!」
「そうよ、あの女が、あの女が悪いのに!!」
「アルノエル様、どうして、あんな奴を……」
いたたまれなくなった女子生徒達は口々に文句を口にし、駆け足でその場から去って行った。
「なんで、あんな『偽物』なんかに手を貸すの……!!?」
今回の騒動を遠くから見ていたフィーリアはぎりっと歯軋りをし、服がシワになるほど握りしめた。最初の頃とは比べ物にならない深い闇を纏わせた目が、アルノエルが去って行った方向を睨みつけ、口から恨みを溢した。
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『お前のせいで、お前のせいで! みんな、みんな死んだんだ!!!!!』
アンリーナは夢を見ていた。懐かしい過去の夢を。死で幕を降りた終わりを。
仲間を引き連れた勇者が叫んでいた。怒りを纏わせ目の前の男に殺意を向けていた。それを”悪役”は嘲笑い見下す。
『はははははは!!!! 俺のせい? いーや! 俺は悪くないね、雑魚共が抵抗したのが悪かったのさ! 弱い癖に抵抗なんてしてさァ、つい虫みたいに殺しちまった! そ・れ・にさぁ、お前ってばバカだよなァ! 敵討ちが仲間の振りしてお前のすぐそばにいたのに、テメェは気づかなかった!! っはははははは!! 勇者様が聞いて呆れる~!』
『お前、おまええええ!!!!!』
手の甲を叩き大笑いする”悪役”に勇者の怒りは限界を迎え今すぐにでも殺せるように剣に手をかけていた。それを彼の仲間達が必死に制止していた。感情的になっている勇者を制止する仲間。制止しているが仇が目の前にいるならやらせてあげるべきでは? と支持に傾きかける仲間。二つの反する意見をたった一人の”悪役”は隙だからの彼らに攻撃せず、ただ待っていた。笑みを浮かべさも余裕があるかのように振る舞っていた。
男は暗殺部隊の大幹部であった。全世界を支配しようと目論む魔王と呼ばれる人間の側近であった。——魔王に拾われたから。
男は勇者の殺意を高める為だけに五年間勇者の仲間になっていた。——面白そうだから。
仲間として振る舞っていた男は、魔王が本格的に全世界の支配を起こそうとした際にネタ晴らしをした。——自分が勇者の村を焼いた。”悪役”自身の■■と、村人を殺したと。
『はぁ、はぁ……みんなごめん、復讐が駄目なのは分かってる。だけど、俺はこいつを殺さなきゃ皆に顔向けできないんだ!!』
仲間に落ち着くように言われ、説得された勇者は仲間に向かって高らかに声をあげた。その姿に”悪役”はただただ笑顔を浮かべるだけ。
『ああそうだ!! それでいい!! ほら、俺はここだ!! お前の仇はここだァ!!!!』
(最高の舞台は今完成した!!! これで俺は殺される!! さァ! 早く、俺を殺せ、”殺してよ”!!!)
少し落ち着きを取り戻した勇者に向かって”悪役”は両手を開き嘲笑った。”悪役”の本心を知るはずもない勇者はまんまと”悪役”の罠にハマってしまい――
『ッロス――――!!!!』
『こいよ、返り討ちにしてやる!! ザック!!』
”悪役”は笑い。
勇者は仇に怒りをぶつけた。
「……ごめん、なさい――」
過去の夢を見て、アンリーナは涙を流し謝罪した。




