issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 01 03
その見え透いた反応に、テラリアキングは口角を満足げに吊り上げ、あからさまな笑みを浮かべる。
「――というわけで、こいつが今回の依頼品だ。本人評価額は強気に出てみて……そうだな、『1000億ドル』ってとこかな。いや、もちろん他の基軸通貨で払ってくれてもいいぞ?」
「いっっっっ、せっ……!!!!!」
カーディBの脳裏に、雷鳴のような衝撃が奔る。
その叫びは、笑うしかないほどの驚愕そのものだった。
――シャカゾンビの身柄の引き渡しに、まさかの天文学的な代価が突きつけられた!
テラースクワッドの暫定当主は、はたしてこの事態にどう動くのか……?
「……待て、せめて先に頭だけは返してくれ!」
気が遠くなるような額に弱り果て、カーディBはせめてもの要求として、そう懇願する。
「あん?」
「魔法の台座に乗せさせてくれ!それでボスは喋れるはずなんだ!」
「ああ、そういうことか。――いいだろう」
テラリアキングは、洗ってもいない野菜のように太く無骨な五指で、青白い骸骨を敬意のかけらもなくわしづかみにした。
それを投げ渡されたプロディジーは、ハヴォックがちょうど持参してきた"魔法の台座"へと向かう。
その台座は瑠璃と金の粒をびっしりと敷き詰められ、サマルカンドの壁面装飾さながらに仕立て上げられた精緻な一枚皿で、プロディジーは、まるでプランターに土をやさしくかけるような両手づかみで、丁寧に頭蓋を据え置いた。
その瞬間、骸骨の瞳窩がぎょろりと怪しく光った。
「ボス、お帰りなさい!」
カーディBが、主人の帰還をひとまずは喜んでみせる。
「ああ、カーディBか。よくぞ吾輩を、あの海溝の底より見つけ出したな。大儀であったぞ」
「いえっ、あの……めちゃくちゃ言いにくいことなんですけど、
大儀なのはオレじゃなくて……テラリアキングです。あなたの体は、ヤツが回収しました!」
「……なんだと?」
シャカゾンビの表情が、にわかに険しくなる。
「それで、その……あなたの体と引き換えに、金を要求してまして……」
「……いくらだ」
表面張力で限界まで満たされた水面に、さらに1滴を注ぐような不安を胸に、彼はおそるおそる問い返す。
「……1000億ドルです!」
「いっっっっ、せっ……!!!!!」
瞬間、シャカゾンビまでもが声を裏返し、絶叫した。
「そんなもの……!ここにある資産すべて差し押さえたとしても到底足りんわ!」
怒号とともにシャカゾンビの頭は、台座の上で跳ね回る。
その様子を見ていたカーディBは、肩を大きく落とし、羽根をだらりと垂らしていたが、ふと何かに気づき、顔つきを強ばらせる。
「えっ……差し押さえ?まさかその勘定に、俺の鳥籠も含まれてたりしませんか?」
勘のいいカラスの問いに、シャカゾンビの頭蓋骨はぴたりと動きを止め、やけに素直な様子で頷いた。
「ん?そうだな。その通りだが……?」
「そんなぁ!こんなことなら……いっそ帰ってこなくてもよかったのに!」
カーディBは絶望的な顔で頭を抱え、バタバタと羽を鳴らしながら地面を踏み鳴らす。
だが、その嘆きを逃さなかったシャカゾンビが、じろりと鋭い眼差しを向ける。
「……何か言ったか?」
「いえっ、なにも!」
カーディBはびくりと身を強張らせ、即座に背筋を伸ばした。
その場に残ったのは、ひどく妙な静けさと、山を越えて吹き抜ける風の音だけだった。
「内輪もめは交渉の後にしてもらおうか……」
テラリアキングが、低くドスの効いた声でそう言った。
「久しぶりだな、テラリアキング……。お前の行為には……まあ、恩義は感じている。だが、なあ、その――なんとかなりはせんか?」
シャカゾンビが、珍しくも事の明文化を避けながら、譲歩の色を帯びた口調で訴えた。
それを聞いたテラリアキングは、肩をすくめ、ふてぶてしい笑みを浮かべる。
「“なんとか”ってのは……もういっぺん海に投げ込んでほしい、って意味か?」
「いや、違う、違う!もちろん体を返してほしいに決まってるだろう。だが、ほら……金額が金額だ。せめて、もう少し融通を――」
「まさか値引き交渉か?まったく地上ってところは、どいつもこいつも住んでる内に頭がふやけてくらしいな――なぁ、シャカゾンビ。地下の、あの気持ちい~い空気を吸ってシャキっとすれば、そんなふざけた提案、俺が乗るわけないってすぐわかるはずだぜ」
「待て待て、額面を値切る気はない。だが、せめて……1年だけ、猶予をくれぬか!」
「――『1ヶ月』だ!」
テラリアキングは、食い気味に遮る。
「お前が好き勝手に体を乗り換えられるのは知ってる。だから先に釘を刺しておく。
今回請求するのはボディの引き渡しじゃなくて、“レッカー代”だってな」
そう言って、彼は分厚い手首に巻かれたデジタル端末――もはや腕時計というより腹帯のように見える代物――のボタンを淡々と押した。
ディスプレイが点灯し、数字が切り替わる。「29:23:59:59」。
日数まで巻き込んだ巨大なカウントダウンが、無慈悲に、淡々と進行を始めたのだった。
「……お前の頭には、爆弾をバッチリ仕込んである。起爆までは、このタイマー1つで自動で管理だ。
爆弾のグレードも、お前みたいな“特権階級のアンデッド”に恥ずかしくない最高級品を選んでやった。安心して身につけてくれよ?――」
テラリアキングは、涼しい顔のまま言葉を継ぐ。
「――外そうとしたら爆発。電波の送受信が一定時間切れても爆発。
そして――いつものように、別の死体に逃げ込もうとして、霊力が規定値を下回った瞬間も“ボン!”ってわけだ。火力もな、このサイズにしちゃ笑えるほど高い。せいぜい、粉々に吹っ飛ばされる準備でもしておけよ」
「な、なんだと!?……た、頼む!1000億ドルだぞ?」
シャカゾンビの声には、先ほどにも増して懇願の色がにじんでいた。
だが、テラリアキングはどこ吹く風。
ツールバッグからバーボン入りのスキットルを無造作に取り出すと、豪快に喉を鳴らして飲み干し、
清々しい音を立てながら、唇からそれを引き抜いてみせた。
「よく聞け。俺はな――金払いの悪い奴と、嘘つきだけは心の底から嫌いだ――」
そう言って、腰のショットガンに指をかけながら、蛇蝎山全体をゆっくりと見渡す。
「――もしお前が、その“両方”を兼ね備えたクソ野郎に成り下がったとしたら……」
その声音は次第に低く、地鳴りのような重みを帯びていく。
「……地下帝国の全戦力を総動員して、この山ごと森を地表から吹っ飛ばす。
お前の財宝も、胡散臭ぇ呪物も、影も形も残さねぇ。……覚えておけ、“口の利けるしゃれこうべ”」
「……わ、わかった。そこまで言うのなら、何としても用意するとも。必ず――」
「期限を過ぎれば、契約も恩義もすべてご破算だ。……1ヶ月。それが俺の“恩情”ってやつだ」
テラリアキングの低く広間を転がる声に、シャカゾンビは舌打ち混じりに苛立ちを吐き出す。
「チッ……!ハヴォック、プロディジー、今すぐ財産目録を洗い出せ!
だが――すべての兵器を今ここで明け渡すわけにはいかん。実働戦力まで失っては意味がない。……それから、貴様らの給料も一時カットだ!」
「ええーっ!? なんで俺たちまで……!」
巻き添えを食らったふたりの獣人は、あからさまにショックを受けて抗議の声を上げる。
だがその声に、ほんの少しばかり主人の焦りが乗って聞こえたせいか、ようやく彼らも事態の深刻さを肌で感じたようだった。




