issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 01 01
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Issue 02 元ネタ・命名由来リスト
■サブタイトル 『UNDERTALE』
[元ネタ] :トビー・フォックスによるインディーゲーム「Undertale」
[備考] :地底世界を舞台にした冒険譚という本話の内容から採用。
■キャラクター・用語命名由来
【カルテット・マジコ (Quarteto Magico)】
[元ネタ] :2006年W杯ドイツ大会におけるブラジル代表の4トップ(ロナウジーニョ、アドリアーノ、ロナウド、カカ)の総称。
【地底帝国テラリア】
[元ネタ] :Re-Logicが開発したPC用のサンドボックスゲーム『Terraria』。
【カーディB】
[元ネタ] :ラッパー「Cardi B」
【ヨルシカ】
[元ネタ] :音楽ユニット「ヨルシカ」
【マクロブランク】
[元ネタ] :ミュージシャン「Macroblank」(Barber Beats / Vaporwave)
【イーター・オブ・ワールド】
[元ネタ] :ゲーム「Terraria」のボスキャラクター「Eater of Worlds」
【アシュリーヨシハマエクスペリエンス】
[元ネタ] :ロックバンド「The Jimi Hendrix Experience」
【アシュリーのボウイノルマ】
「Life on Mars?」
The Most Magically Chaotic Quartet on Earth!
Quarteto Magico
issue02 UNDERTALE
CHAPTER 1
この日、主を失った蛇蠍山とその周辺――どこまでも続く針葉樹の樹海を包んでいたのは、けしてただの闃寂な暗がりではなかった。
たしかにある時点までは、そこにはなお、氷雨の日にも似た冷気と、地上に定着した雲海とでも呼ぶべき、霧の混沌が広がっていた。
樹々の梢は静けさのなかでかすかに揺れ、苔むした地面には幾重にも積もる朽葉と露、そして虫たちのか細い呼吸が重なり合い、平野の空気はひときわ重く沈んでいる。
幾千万もの針葉の先端は、眠りこけた空気にそっと寄り添い、その底知れぬ感覚は、しばしば、この地に“この世ならぬもの”さえ引き寄せてきた。
そんな、薄暗くとも大らかな秩序の支配が――莫大な力によって、唐突に、しかも容赦なく引き裂かれることとなったのである。
森の一角を貫いたのは、世界そのものさえ震撼させる崩落の音だった。
直径数100mにも及ぶ範囲の地表が、遠くから寄せる重たい波のように膨れ上がり、岩盤には網目状の亀裂が走った。
土は湿った苔ごとむしり取られ、木の根が苦しげにねじれ、その土台となる赤茶けた地層がむき出しになっていく。
やがて断裂したそれぞれの大地は粉々に砕け、轟きを伴って激しく回転しながら宙へと突き上がった。
砕かれた大地は、見る者に地球の深奥との直結を直感させるほどの暗い大穴に、抵抗らしい抵抗もほとんど見せないまま呑み込まれていく。
土砂と岩屑と絡まり合った巨木の濁流が、きめ細かな砂の斜面を途切れなく滑降していけば、
一帯には地響きがたえず起こり、大いなる樹海の輪郭すらさかんに揺らいで見える。
すると次の瞬間、森という森が、長いあいだ没頭していた眠りから――いっせいに覚醒したかのような、劇的な光景が立ち現れた。
茶褐色の粉塵が、噴火めいた激しさで天空へと舞い上がり、砂嵐となって森の全域を覆い尽くしたのだ。
その、たえず揺れ動いて空の青ささえ侵さんとする不定形な幕の向こうでは、輪郭もおぼろな影たちが、
黒々と盛り上がり、崩壊する針葉樹の海原を切り裂いて、次々とその姿を現していく――。
……数100台にも及ぶ「メタルスラッグ」が、それぞれに固有の砂煙を棚引かせて地上を進攻する。
『スターウォーズ』のタスケン・レイダーや、『ボーダーランズ』のバンディットを思わせる蛮夷の仮面と防砂用のローブ――その上から、金属片を雑多に貼り付け、スクラップ片を継いで銃の形に設えたような、見たこともない様式のブラスターライフルを手にした兵士たちが、地底性の巨大ナメクジを改造した有機的な戦車にまたがっているのだ。
その機械部品を埋め込まれた軟体動物たちの両腰には大型の2連レーザー砲が装着され、臀部には高出力エネルギーシールドのジェネレーターが取り付けられ、動き出した砲口は一斉に森の奥を眈々と狙う。
さらには、赤々としたマグマを孕んだ溶岩石を積み上げて作られたかのような、全長40mに及ぶ人型の巨人たちが現れる。
その姿はつま先から頭頂まで常に荒削りかつ、信じがたい剛力と共にあり、2体が1組になって横並びに闊歩すれば、ただそれだけのことで大地自体がどよめいた。
彼らの両手には、地球の奥底の熱で直接鋳造された極太の鎖がそれぞれ1本ずつ握られ、その鎖の先には不自然に溶接された砲塔や、いびつな装甲板をつぎはぎにして造られた陸生の軍艦――全長200mはあるだろうか――が連なっている。
鉄と溶岩が混ざり合う不規則な質感の塊が、指のない扁平な足で砂利を擦りながら進み、
赤熱したひび割れからは仄かな光が滲み出して、砂嵐に包まれた進軍の壮大な軌跡に、縦長の幽かな影を刻む。
そうした怪物と、艦艇の出現が3度と繰り返されたのち、
その後方からは、過積載の武装を抱えたドリルタンクや、タカアシガニを思わせる巨大戦闘プラットフォームが、荒々しく砂煙を巻き上げながら列をなし、無数の鉄の脚と履帯が大地を刻む音だけが、次第に森の静けさを飲み込んでいった。
極めつけは、地表そのものを豪快に削り取る勢いで進撃する、全長1200m・体幅90mのメタリック・モンゴリアンデスワームだ。
その長大な姿は鈍い金属光沢に覆われ、うねりながら進むたび、ワームの大きすぎる身体に引きずられるように地面も渦を巻き、螺旋状に盛り上がっていく。草木や岩は、そのねじれる土壌ごと巻き込まれ、続々と地下に呑み込まれていった。
ワームの肩にあたるわずかな膨らみからは、装甲化された触手が10本以上も伸びている。
それらは普段、身にきつく巻き付いたまま本体と連動し、細かな岩盤や土壌を絶え間なく掘削していた。
その体表には、無数の傷痕や凹凸が刻み込まれ、進軍のたびに日光を断続的に反射しながら、遠目にも異様な光彩を放つ。
やがてワームが頭部を高々ともたげると、鋼の皮膚を持つ10数の触手が曲線を描きつつ、一斉にほどけて砂嵐の中へと伸びていく。
ややあって、その至大なる肉体がたとえようもなく雄大な滞空の跳躍を敢行する。
全周から鋭い歯が放射状に迫り出す彼の特異な口蓋が、大地を打ち据えたその瞬間、
すさまじい規模の砂の波濤が軍勢の背後に轟然と立ち上がり、周囲の空気までも激しく揺り動かした。
触手が追うように地中へと突入し、獲物を探るかのごとく慎重な動きで砂塵をかき分けていく。
その先端からは、ときおりほのかな電光が閃き、渦巻く砂煙のなかで一瞬だけ青白い光が点滅した。
……すなわち、この怪物の進撃――ひとつの巨いなる虫が、地球そのものを舞台にして行う蠕動こそが、連鎖する崩壊を地表に呼び起こし、森という森を粉塵の嵐で塗り潰していく、終わりなき破壊の中核にほかならなかった。
軍勢の、すべての兵器群がこぞって奏でる直管排気の爆音は、金属の胴体に反響して彼ら自身の耳膜を激しく打ちつける。
その音は、まるでこの軍勢そのものが上げる笑い声のように、周囲の空間を圧倒していた。
灰色の煙が靉靆と空に揺らめき、太陽の光は濃密な粒子によって汚染され、昼間の視界を乳白色に曇らせていた。湿気を含んだ空気は排気の油と混ざり合い、肺の奥底まで苦く沈み込んでくる。
混沌と轟音、そして抗いがたい圧迫感が、蛇蠍山の麓一帯を強引に呑み込んでいく。
死者の行進よりもなお不気味で、おぞましさに満ちたこの進軍は、世界の一隅が根こそぎ異質なものへと塗り替えられていく、その只中の光景だった。
機械化された蛮族たちのパレードは、濁りを帯びた明るさのなかに、どこか白昼夢めいた非現実の手触りを残している。だが、あまりに激しい騒音と砂煙の暑苦しさ、そして排気煙の暴力的な密度が、この場面に幻想の美しさや安らぎを差し挟む余地を一切与えはしないのだ。




