Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 20
低く唸る機械音が艦内に響き渡る。ミサイルサイロの巨大な内蓋が、警告の赤を灯したままゆっくりと開かれ、その隙間からは炎と白煙が渦を巻き、夜の空へ向かって吹き上がっていく。
ごうごうと燃えさかる煙の中心で、銀色の弾頭がらせんを描きつつ射出され、瞬く間に空へと吸い上げられる。
紫の閃光が、空間に裂け目を穿つかのようにほとばしり、
続く爆風が、音すら飲み込んで成層圏の暗がりを呑み込んでいく。
やがて、地球そのものを威圧するような白い光が、天蓋の彼方に翼を広げていった。
弾頭が解き放つEMP――それはまるで浄化の光のように、
一瞬で日本海全域を塗り潰していく。波間に浮かぶ艦艇のブリッジ、高層ビルの窓、沿岸の町々、
軍港にて、急ピッチで出撃の準備を続ける両国の艦隊、中国や朝鮮半島の港町まで、電子の都市と兵器群すべてに、目には見えぬ白い波が走っていった。
都市の交差点では信号が一斉に消え、巨大なビルのエレベーターは途中で止まり、
アウトレットモールのエスカレーターも静止する。オフィス街のパソコンやモニター、自動販売機、
地下鉄の構内放送まで、すべての電子音と輝きが例外なく途絶えていく。
人工の光が消え失せた都市には、西日差す空のがらんどうな明るさだけが取り残された。
そして日本海の戦場では、艦の砲塔が枯れ花のように項垂れ、ミサイルは無力な鉄筒となって水面へ落下する。
ボートから海面へと手を伸ばす者、それを掴んで舷側にブーツの底を必死に引っかけ、水を滴らせながら這い上がるもの、別の艇には、制服が違ってもかまわず抱き合って、
目に見えるすべての景色からありありと感じられる終戦の気配を、喜ばしい虚脱感のもとに分かち合う兵士の姿もある。
動力を失って海面に受け止められるヘリや戦闘機、そこからペイルアウトしていく人影――しばらくの間、その数は絶えなかった。
静寂と、一定の間隔で揺動する波と、陽光の無欠に満ち溢れた、夢の末端のようにはかなげな世界で、
もう2度と動くことのない機械群だけが、戦いのおわりを、物言わぬまま雄弁に語っていた。
*
……日本海の底。
首から下を失ったシャカゾンビの頭――水の色が真っ黒になるほどの深度には、かえって馴染まぬ青い頭蓋骨が、砂に半ば埋もれながらギロリと眼窩を光らせている。
「……ふん、覚えておけよ、オールラウンダーの娘ども。貴様らの“勝ち”は一時の夢にすぎ――」
そう、負け惜しみを口にし始めた時、小魚がシャカゾンビの鼻の穴をちょん、とつついた。
「やめんか、コラ!貴様らごとき雑魚に構っている暇はない!次は――うわ、やめんか、歯はいかん!」
怪人の叫びをよそに、魚たちは一気に群れだしていく。
「この屈辱、奴らめ……必ずやリベンジしてやるぞ……ぐぬぬ……やめろ、やめんか、頬骨はやめろ!」
もぞもぞと開閉する顎であたりの砂を蹴立て、魚のいたずらを受けながら、彼はなおも次の悪だくみを考えはじめていた。
手下の誰かが自分の消息を掴むその日を、ひっそりと待ちながら――海中2000mの闇の中で。
あとがき、あるいはライナーノーツ
この話、サブタイトルは当初『Bone Thugs-N-Harmony』と『MEGALOVANIA』のどちらにするかで迷っていました。
前者は、同名のギャングスタ・ラップグループからの引用です。「Bone(骨)」と「Thug」という2語から、シャカゾンビというキャラクターが自然に想起されることからの選出でした。そして後者――『UNDERTALE』に登場するサンズのテーマ曲としても名高いこのタイトルには、「骨」、そして「誇大妄想(megalomania)」的な彼のふるまいがひと言で要約されているという点で、やはり魅力がありました。
けれど、ある日ふいに得たひらめきが、チャプター2以降の展開すべてを覆してしまったのです。しかもその閃きが訪れたのは、皮肉なことに旧チャプター2の文章をすべて書き終えた、まさに直後のことでした。なんとも因果な話というほかありません。
そして私は、書き直しの段階で、物語の展開と響き合う――より切実で、誠実な――サブタイトルを新たにこの物語へと与えることにしました。
「I Don't Want To Set The World On Fire ”世界に火を点けたいわけじゃない”」。
その言葉は、核ミサイルをみずからの手で撃たねばならなくなってしまったカルテット・マジコの、抗いがたい心情を表していると同時に、
作者である私自身の叫びでもあるのです。
余談ですがこの曲名はそのまま曲中の歌詞でもあり、続くフレーズはこうです。
“I just want to start a flame in your heart.”――「ただ、あなたの心に小さな火を灯したい」。
……まったく、とんでもない符合ですよね。
この1節が、カルテット・マジコがシャカゾンビに向けた敵意そのものとして読めてしまうなんて。
さて、2話の公開にはさっそく明日から取りかかっていくつもりです。
とはいえ、後半部分についてはまだ1行たりとも出来上がっていません。
それでも私は、物語を完成させてからまとめて出すより――すなわち、出来ている物を
意図的に秘蔵したままにしておくより、今この瞬間に続きを届けることのほうが、
読んでくださるあなたに対して、より誠実で、善意ある態度なのだと信じています。
拙くとも、自分にできる1番まっすぐなやり方で、今後とも物語を紡いでいきます。
それではまた、次の話でお会いしましょう。




