Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 19
「……なに?」
ミーティスが、思わず小さく息を呑む。その傍らで、スヌープキャットはイムノの真意を即座に理解し、すばやくタッチパネルに手を伸ばして弾道ミサイルの諸元一覧を呼び出した。
「その船に積まれてる核ミサイルを高高度に設定して発射するんだよ。そうすれば爆風じゃなくて、『電磁パルス』っていう電子機器を破壊する強力な電磁波だけが地上にまき散らされる」
「……積んでるの、一部はEMP特化の弾頭みたい。これが使えるよ!」
スヌープキャットは、『クムガン(金剛/금강산)』と記されたミサイルの制式番号をちらりと目で追いながら、部屋の隅に倒れている司令官の制服を素早くまさぐった。
胸ポケットに手を入れると、冷たいランチキーの重みが指先に伝わり、
その片側をミーティスの手にしっかりと握らせた。
「でもそれは……こわいよ」
鍵を包んだ手を胸の前に押し当て、ミーティスは声を震わせて応じた。頼るもののない空間のなか、
コンソールのパネルに反射した自分の顔が揺れて見える。彼女は、懇願するような目で無線の向こうのイムノを見た。
それは彼女にとって、自死の道を選ぶこと、あるいは誰かを殺すことと同じくらい怖い決断だった。
超能力がどれだけあっても、15歳の普通の少女の心は――その選択の重さに、迷いなく応じることなどできなかった。
「……さな、こわいよね。私も、ホントはすごく怖い。でも――このまま何もしなかったら、
もっと、もっとたくさん、多くの人が傷つく。下手すれば、それは世界規模の話になるかもしれない。
それを、ただ見ているだけなんて、きっともっと怖いことだと思う――」
イムノは、胸の奥に溜めていた思いをゆっくり言葉にし始めた。
静かな制御室の片隅、かすかな振動と金属のきしみが、少女たちの呼吸に混じって響く。
「――だから、4人でやろう!さなだけじゃない。みんなの意志だよ。これは、もともと私たちが始めたことだ。だから最後まで、私たちでやりきろう。……大丈夫、どんな時も一緒でしょ?――ずっと。……でしょ?」
その真摯な声が、心の殻を1枚ずつ剥いていく。イムノの言葉を聞くうち、ミーティスの目にはじわりと涙が浮かぶ。
「――みんなで約束したじゃない?母さんにも。私たちは、できるかぎりのことをやるって。
それを守るには、いま、ここで勇気を出すしかないんだよ。
私だってさなにはちるにアシュリーががいなきゃ、絶対できない。みんな一緒じゃなきゃ、誰にも無理なんだよ」
その時、スヌープキャットが何も言わず、毛の温もりを伝える獣の手でミーティスのか細い手をそっと包んだ。機械油の匂いが残るこの艦内に、優しいぬくもりがほのかに灯った。
「ふたり同時にひねるんだよ、さな」
すでに覚悟を決めていたスヌープキャットが、優しく促す。
「おいお前ら、ちゃんと私たちの分の気持ちまで乗せるんだぞ。じゃないと、多分動かないからな」
普段ならここは茶化しに出るはずのホットショットが、ただのぶっきらぼうな優しさで無線越しに背中を押してくれる。
それが最後の力となって、全員の気持ちがひとつに重なった。
「……わかった」
ミーティスはぐずりながらも、ついにこの先へ進む覚悟を小さな声で告げた。
「……私、みんなと一緒にやる。ひとりじゃ、できないから。でも、みんなとなら……がんばれる。いこ、はちる!」
「うん!」
瞳に凛とした決意を宿して、ミーティスとスヌープキャットはそれぞれ1本ずつ鍵を選び、セレクトスイッチに静かに差し込む。
呼吸を合わせ、2ヶ所のスイッチをゆっくりと――まるで新しい夜明けを迎えるように――同時にひねった。




