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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire

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Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 18

「やぁああああッッ!!!!!」


イムノは肩と腰を大きく回転させながら、機体内部をなぎ払う勢いで剣を振るう。

艶やかな銀染めの巨大な刃が、咆哮して下段から斜め上へと疾り、

その剣閃は、機内の壁板や操縦装置、そして鋼鉄のフレームさえも、紙のように断ち切っていった。


――ああ、気高い魂に導かれながら、あくまで純粋な暴威として振る舞われるこの一撃よ!


「――ッッ!!」

特大の攻撃をつまらぬ細杖で受けるしかなかったシャカゾンビは、壁ごと刃の暴風に巻き込まれ、骸骨の顔を軋ませながら操縦席の壁面に激突する。


跳ね返った体は計器群を巻き込んでさらに破壊し、2度目の衝突でさらに遠くへと弾かれる。それでも体勢を立て直し、額に汗を滲ませつつ、狂気じみた笑みを浮かべた。


「オールラウンダーのガキごときに――この吾輩が、負けるものかッ!」


だが、イムノの剣筋は苛烈さを増す一方だった、金属の気配が刃先へと新たに集約され、

さらにガンブレードが肥大する。彼女はそれを、自分自身制御しきれないほどの重剣へと膨張していくのをひしひしと感じながら構わず肩に担いでいく。足裏にただならぬ力を込めて、たった1歩だけ踏み出すと――破裂音が機内を満たして床板が盛大に陥没する。


規格外の大剣が、

「終わりだ、受け取れ……!」

コクピットごと両断せんと、全力で振り下ろされる。


その刹那――


「……これはッ、"アデュー"だな――!!」

それは、常に宿敵を抱えながら、紀元前5世紀から2040年代の今日までという

途方もない年月を生き抜いてきた魔人の嗅覚が、最もいかんなく発揮された瞬間と言えるかもしれない。

シャカゾンビは、前言を撤回してたちまち勝負を見切った。


踵を返し、肘でガラスを叩き割り、風圧をまといながら外へと身体を放り出す。

破片とともに機外へ押し出された彼の体は、空中へと跳躍し――


その瞬間、雷鳴のような声が空に響き渡った。

「――待てよ、私のために『What A Wonderful World』を歌ってくれる約束はどうなったんだ!?」


――ズゴォォォォォォ!!


空気を熱する轟音とともに、斜め上から駆け下りてくる1筋の炎。

その先端を成した炎の少女の飛び蹴りが、


キィンッ!


シャカゾンビの体を鮮やかに貫いたのだ。


「ぐはッ――!!」

男の胴体は真っ二つに引き裂かれ、鎧の隙間からは一瞬、赤熱した肋骨と髄が露わになる。

ホットショットが振り向きざま、容赦なくエネルギー弾を1発撃ち込むと、

爆発が断面をさらにえぐり、赤熱する骨片はゆっくりと――それでも抗うことなく、青く広がる海面に、

信じられないほど鮮烈な光彩をきらめかせながら落ちていく。


引き起こされた飛沫の、粒状になった先端と綿密に触れ合う一瞬を経て、

白いモウセンゴケの繊細な抱擁を余すところなく受け入れたシャカゾンビの残骸は、そのまま音もなく、冷たい水底へと沈んでいった。


*


甲板に残る爆炎の揺らめきと、風に煽られて広がる煙。

シャカゾンビの最期を見届けるためか、世界の騒がしい音は、その瞬間だけ、潮の引くように遠ざかっていく。


さっきまで荒れ狂っていた海上には、かすかな波音と、空に広がる元来の淡い光だけが、

ただそこに、すべての喧噪を越えて佇んでいた。


戦いの余熱がことごとく天の清浄な領域へと召されていく中で、煙の不確かな切れ端もやがて、蒼の無窮の中に溶け込んでいく。

ほんのひととき――静かで、ゆたかで、愛と威厳に満ちた日の本の海原が、誰のものでもない安らぎとしてそこに取り戻された。


……金網が敷き詰められた床は、わずかに冷気を孕んで足元に湿り気を伝えてくる。無骨な照明が頭上でくぐもった白色光を落とし、影は金属の壁に淡く溶ける。


中央には、鋼管の手すりに囲まれ、上部モニターで半ば視界を分断された、

角ばった潜望鏡のブースが鎮座していた。座り心地など考慮されていない艶消しグレーの椅子、壁の2面に渡って張り巡らされた計器群。そのどれもが黙々と冷徹に、この艦の神経を織り成している……。


そんな制御室の片隅で、ミーティスは慌ただしく無線機を掴み取った。心臓の鼓動が、冷たい機械のざらついた感触に打ち消される。

「そっちはど?こっちはいま制圧が終わったよ!」

彼女の声が、鉄とオゾンの香りの中に小さく響く。

「うん、私たちもシャカゾンビを……倒せたよ!」

イムノの、頼もしくもどこか煤けた声が応じる。


「えっ本当に!?……はちる、やったって!」

ミーティスは半ば叫ぶように背後へ振り返り、コンソールパネルに両手を預けたスヌープキャットも、

一報を聞くや顔を明るくして振り向いた。

「よかった!やっぱり持つべきはおせちとアシュリーだね!」

だが、艦内の静けさをよそに、スピーカー越しにわずかに伝わる戦場の轟音――爆発の余韻と、甲高い金属音。

それは遠いようでいて、なお今この場所にも流れ込んでいた。


「でも艦隊同士の戦闘は終わってない。何ひとつね――」

シャカゾンビの機内、焦げや戦いの跡生々しいコクピットで、イムノは無線に耳を当てながら物思いに沈む。


どこか決意に充ちた背中、その輪郭が、雲間から急に照り付けた陽光によって、一瞬、白く孤独に縁どられる。

「えっ?……じゃあ、すぐそっちに戻る!」

ミーティスの声には急いた不安がにじんでいた。


「いや、そこでいいよ――」

イムノは、静かに言い足した。

「――じきに、どっちの艦隊にも増援が来るはず。もしかすると、その後は本土からのミサイル合戦にもなるかもしれない。


きっかけはシャカゾンビのやったことだったとしても、戦いが始まっちゃった以上、

もうあとはエスカレーションしていくしかないんだよ。


……残念だけど。……でね?そんな状況でね、

私たちにできるのは今ある兵器をできるだけ壊すことだと思う。


せめて母さんが北の将軍を送り届ける間、どっちの国も、物理的に戦争ができないような状態にする。

……ひとつだけいい案があるんだ。誰の命も奪わずにそれが出来る方法がある」


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