Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 17
その、純粋な閃光が戦場の空を支配した時――海原を疾駆するイムノのボートはちょうど、へし折れた空母の甲板を目前にしていた。
「よし、ここだ!」
ボートは水飛沫を高くあげて突入し、艦体をジャンプ台代わりに大きく跳ね上げる。
イムノはその反動を利用して、2段ジャンプの要領で、
「ソイルっ……!」
雷のソイルを発動。彼女の身体は、たった一撃の雷光とともに、ボートの座席を踏み切ってはるか上空へと舞い上がる。
戦場の風と光がすべて遠ざかり、制服の剣士の視界の中では、バランスを崩したシャカゾンビ機の腹部が、不規則に揺れる影として目前に現れる。
空中で体勢を整えた彼女は、両腕でガンブレードをしっかりと逆手に握り、鋭く絞った全身の力で、
――カッ!
その剣先を機体の装甲へと突き立てた。
刹那、金属の装甲を叩く高音が空に響き、電子的な波紋が機体全体に電撃のように走る。
光学迷彩はその瞬間、ガラス細工が砕けるように崩壊し、シャカゾンビの機体は無防備な姿を露わにした。
コックピットの内部では、まだまだ目の奥にこびりつく残光に、眼窩の骨を細めながらやっとモニターを見つめられたシャカゾンビが、どこか夢を見ているかのような虚ろな声でつぶやく。
「なんだ……なにかが、起こったか……!」
機内に不気味な静寂が訪れる。だが、その間隙を切り裂くように、扉の向こうで金属が無残に歪み、
鈍い破砕音と軋みが連打される。
シャカゾンビが目を見開く間もなく、爆発が扉を蹴破った。吹き出す黒煙と火花、その合間をぬって、煤まみれのイムノが煙の尾を引きながら飛び込んできた。彼女は鋭く息を吐き、ガンブレードを肩越しに振りかぶる。
「ようやく……会えたね!!」
「――まさかっ!!!」
咄嗟に操縦席を飛び出したシャカゾンビが床を滑る。彼は怒号を上げ、杖を強引に振り抜いて牽制する。航空機の内部は広大で、2人の戦士が本気で暴れても空間にはなお余裕がある。
「……ちぃっっ!」
瞬間の鍔迫り合いは激しく、衝撃波の生まれるに合わせ、両者は同じ距離を後ずさった。
一方は宙で後転し、もう一方は衝突の反動に思わず姿勢を低くしたのだ。
学生服の剣士の踏み込みが、初動の勢いそのままに再度炸裂すると、ローブと甲冑の魔術師もまた、
杖を閃かせて豪胆にそれを迎え撃つ。
ヤギの骨でできた杖の先端がイムノの側頭部を狙うが、イムノはガンブレードの刃を巧みに滑らせて受け流し、そのまま宙で身をひねるようにして、穿弓腿を、西洋鎧の胴に激しく叩き込んだ。シャカゾンビが踏ん張る床は軽く陥没し、計器のガラスが音を立てて細かく割れていく。
「やるな、だが――吾輩の要塞の中、貴様1人で何ができる!」
天井に仕込まれていたセンサーが鮮やかに点灯し、防衛システムが作動する。
幾重にも折れ曲がった細い管がすみやかに降下し、先端の微細な穴から、管の直径をはるかに超えるレーザーを水平に激しく迸らせる。
その閃光がイムノの肩を正確に叩き、
「っく!」
という短い呻きとともに、彼女の身体を壁へと叩きつけた。
シャカゾンビは間髪を入れず、杖の先端に蒼白い電気を集約し、稲妻の大魔法を準備した。
「終わりだ、雷霆よ、粉砕せよ――!」
「……やれるもんならやってみろ!ソイルッ、我が力!」
イムノは瞬時に「こんにゃく味」のソイルを装填し、ガンブレードのトリガーに指をかける。巨大なシリンダーが段をひとつ跳ね上げ、空砲の炸裂とともに、銀白の光がその場に爆ぜる。
高圧な水飛沫のように、体を打ち付けていく光の粒子に、イムノは苦しげに背を反らし、指先まで力をこめて堪えた。
やがて、押し寄せる波の強引さに情けなく地色を明け渡す砂浜のように、彼女の肌は手先から少しずつ銀色へと染まりはじめる。
その変身の過程は奇妙で、風船に空気のみなぎる勢いがありながら、元ある彼女の輪郭にだけはつとめて手を加えなかった。
体のすべてを銀の膜が包んでいく間にも、くせ毛1本の跳ね方まで、かつての姿を忠実に残したのだ。
体を銀に染めながら、イムノは地を蹴り、脇構えで敵に走り込んだ。
だがいまの彼女に、踏み込みの1歩1歩を飛行同然にするほどの、あの身軽さはない。
体全体に鉛の重みを帯びたせいで、疾走もまた、武器を携えた普通の人間の全力のそれと変わらなくなった。
最初、荒い研磨にすぎなかった肉体には、勇敢な突進の最中にも「完成」を目指して注がれる力の中で独特の光沢や陰影が次第に波及していく。
しかし真に驚くべき変化は、常にその傍らの空間で起きていた。ガンブレードの刃渡りまでが、本体の、金属としての洗練と足並みを揃えた成長を続け、見る間に、元の数倍にまで伸びていくのである。
だがその直後。シャカゾンビが判決の宣言のように大上段から振り下ろした杖が、唸りを上げて幾筋もの稲妻をほとばしらせ、イムノの全身を容赦なく貫く。
「――!!」
しかし、彼女の勢いは衰えない。その動きにも、闘志にも……!
すでに金属へと変じた体表はすべての雷撃を受け流し、衝撃もまた、赤熱した鋼の肉体が余すことなく呑み込んでいったのだ。
「なんだッッッ!!何をしたっ……?効いていないのかッッ……!!?」
「残念!こうなった私はもう無敵!これが、君の術への答えだ!」
蒸発した白い煙が、熱を帯びた身体の――しだいに小さくなる赤い焦点から、ゆるやかに立ちのぼる。
刹那、ふたりの間にあった間合いは消え失せた。




