Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 14
浮遊するキョンシーのごとき娘が、弾くようにして指先から解き放った呪符の群れは、
薄暗いグレーチングの通路を時速数10kmの速さで一気に吹き抜けていく。1枚1枚が独立した意志を持つかのように、
角に来れば鋭くその進路を曲げ、分かれ道があれば鮮やかにその数を分散させた。
「敵襲だッ!第3通路に侵入者!」
「何だ、この紙切れの山は……撃て!構わず撃ち落とせッ!」
という兵士たちの切迫した怒号が狭い艦内に反響する中、札はダクトの格子状の隙間や、ハッチのわずかな合わせ目、天井を這い回る配管の裏側まで、
水を得た魚のようにびらびらと身をくねらせながら船内の奥深くにまで浸透していく。
それらの飛翔は常に地形の要求を正確になぞり、廊下の直角の曲がり角に沿って鋭角に回り込み、
個室に置かれた椅子や棚の突き出しを、まるで撫でるような軌道で確実に回避しながら進行した。
「……扉を閉めろ!密閉しろ!」
「間に合いません!換気口から入ってきま……うわああッ!」
室内のあらゆる規矩に沿って規律よく身をくねらせ、空気を切り裂く微かな音を立てながら空間を駆け抜け、
すべてが共通の終着点、すなわち人間の生命力の源だけを目指した。
ブォオオオオン!!!
警報がけたたましく鳴り響き、赤い警戒灯が1秒おきに明滅を始めた狭い船内。
兵士たちは上官の「何をもたもたしている!銃を構えろ!」という罵声に従い、
肩にかけたライフルのスリングを乱暴に引き寄せ、銃床を脇に挟み込もうとした。
しかし、まさに指先が引き金にかかるその瞬間、ミーティスの札が大挙して彼らの口元へと踊りかかった。
――パシシシシィッ!
と乾いた音を立て、札が彼らの鼻から顎にかけてを同時に叩く。瞬時にして外気との接触が遮断され、
兵士たちは驚愕に両目を見開いた。
彼らは反射的にライフルを床へ放り出し、空いた両手で口元に張り付いた紙を剥がそうと、指を立て、爪を立てて必死にもがく。
「んんーッ!?んぐ、んぅッ!」
というくぐもった声が漏れ、首を左右に振り、背中を鉄の壁に強く打ちつけるようにして抗う。
しかし、紙はまるで吸盤のように皮膚へ密着し、逃げ場を塞ぐ力をさらに強めていく。
ミサイルの直撃さえ撥ね退けるその力場に、人間の指先が割り込む隙間など1mmも残されてはいなかった。
兵士たちは焦燥に駆られ、指の腹を無理やり紙の縁に食い込ませようとし、あるいは足元の金網に指先を突き立てるが、
指は滑らかな表面を空しく滑るばかりである。
一吸いの空気さえ許されぬ極限の感覚に肺を絞られ、兵士たちの顔面は真っ赤に膨れ上がっていく。
酸素を求める胸板がひしゃげた虚しく喘ぎ、膝から崩れ落ちると、冷たいグレーチングに指先を食い込ませ、
己の内に渦巻き始めた「死の予感」を振り払おうと必死にもがいた。
通路には、鉄板を爪でかきむしる不快な音と、
「んぐ、んぐぅッ!」という出口のないうめき声だけが澱みなく充満していく。
それはまさに、大勢の人が、見えざる縄で首を絞められ続けるような、不条理極まりない光景であった。
中には背骨が折れんばかりに身体をエビ反らせ、この世界に踏みとどまろうと白目を剥いて足掻く者もいたが、
やがて誰1人として例外なく、焦点の合わぬ両目を見開いたまま、その場に力なく突っ伏していった。
……ミーティスの呪符が放つ「強制的な生命力の注入」が、心停止の寸前で彼らの意識のみを強引にシャットダウンさせていた。
客観的に見れば、即効性の毒ガスを吸わされたのと寸分違わぬ、執拗かつ効率的な制圧劇が、薄暗い区画のあちこちで淡々と完遂されていく。
先ほどまでの怒号も引き金にかけた指の震えも、今や規則的な空調の音にかき消され、あとには数え切れないほどの「物言わぬ背中」の山が残された。
「……ごめんなさい!」
「本当にすみません、許してください!」
ミーティスとスヌープキャットは、気絶した相手の枕元で律義に立ち止まってはペコペコと頭を下げ、
それが終われば、弾かれたように次の犠牲者の方へと向かう――そんなことを繰り返しながら艦内の奥へと疾走していった。




