Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 11
ボートのエンジン音が唸り、白い飛沫が弧を描く。無情な海面の色、昼の光をうっすらとしか透かさぬ遠くの空。そうした風景を基盤とする彼女の視界を賑やかすのは、いたるところで戦いを続ける傷ついた艦影の群れだった。
イムノの乗るボートは、ミサイル護衛艦が林立する、海上の「ビル街」を縫うように疾走していく。
今まさに彼女が抜けようとしていたのは、2隻の同型艦がほとんど間隔を空けずに並んだところだ。
巨大な艦影が両脇に迫って、幅は20mか30mほどしかないこんな縦長の水路にも、爆煙と白波が次々と立ち上がり、弾ける壁となって小舟の行く手を遮る。
そうした難所を、半ばまで踏破したその瞬間、北朝鮮側から発射されたミサイルがついに左側の護衛艦を直撃した。
炎煙が斜めに吹き上がった反動で、巨大な艦体が轟音とともに軋みながらバランスを崩していく。
傾きはじわじわと進み、艦橋の上部からデッキ全体が海面側へ倒れ込み始めた。
「あわっ――」
海面が大きくうねる。
「………!!!」
ひとつの巨大構造が転覆していく壮観な光景の中、あたりの海面はうねりと渦で劇的に姿を変える。
ボートは一瞬、波に呑まれそうになるが、イムノは、飛沫をさらに高く上げて加速する最中必死にハンドルを手繰り、揺れにあらがって航路を立て直した。
そんな時、高らかな音に引き寄せられてふと見上げた頭上では、
燃えさかる空を突き抜けてシングルローター型のヘリが逃走を図っていた。
直後ろには敵の戦闘機が、ひとつの視野に入りきるほどの至近距離まで肉薄し、
ゼロ距離からミサイルを発射する。ヘリのパイロットが海に身を投げ出して緊急脱出した瞬間、
機体は爆発の閃光に包まれ、くの字に折れ曲がりながら海面へと吹き飛んでいった。
そうこうしているうちに、
「……2個洩らした!おせち!ミサイルが来るぞ!」
上空にホットショットの痛烈な叫びが響き渡る。
数秒もしないうちに、予告どおり2発のミサイルが音速で海面へ突き刺さり、右、左の順で起こった特大の爆発が相次いで水柱を上げた。
だがイムノのボートは、ハンドルを絶妙に切り返し、大胆な蛇行運転でこの難所もぎりぎりのところで突き抜ける。
だが安堵も束の間、今度は北の巡視艇が横合いに迫っていた。
向こうの乗組員が驚愕の顔を見せるや否や、少女のことを敵と判断したのか、ライフルや機銃が一斉に構えられた。
「……もう!!次からつぎへと来るんだから!」
休む暇もなく、イムノは片手でガンブレードを構え、撃ち込まれた弾丸を巧みに弾き返す。
リロードの隙間を縫うようにして、狙い澄ました1発を撃ち返せば、それが艇に積まれていた機雷を直撃。爆発が船尾を吹き飛ばすと、乗員たちは慌てて海へ飛び込む。巡視艇全体が轟音とともに爆炎に包まれて四散した。
……時おり、マグネターの起動にあわせて姿を現すシャカゾンビの機を追いかけつつ、
イムノはこの、容赦なき混戦地帯をひたすら突き進んでいく。
動く船も、朽ち果てた船も、区別なくミサイルが降り注ぎ、
左右の視界には炎と煙の“頭でっかち”な柱がひっきりなしに立ち上る。
海面は一面、白波と黒煙に覆われていた。
遠くの空では新たなミサイルの編隊が空を切り裂き、
対する日本の艦隊からも、複数の弾頭が煙の放物線を引き連れてかわるがわる立ち上る。
どれだけ視線を巡らせても、爆発、応射、煙、灰色の角ばった軍艦の輪郭――
そのどれひとつとして、視界から5秒以上のあいだ消えることはなかった。
ひとりの少女を取り巻く世界は今、混沌の極みに達していた。




