Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 09
「ちっ、エネルギーシールドのリチャージが追いつかん……ならばァ!」
シャカゾンビは舌打ちをしつつ機体を操縦し、横のタッチパネルを怒涛の勢いで操作する。「ベクトル・マグネター」――ミサイルの軌道を自在に操る、かの秘密兵器が、機内で淡い駆動音を響かせて起動した。
直後、機体後部の巨大なパラボラアンテナがギアの唸りと共に素早く回頭する。アンテナの表面には青白い光が帯状に走り、その照射は夜空を渡るサーチライトのごとく、広範囲の海面を舐めるように掃射した。見えない手で空間そのものが撫でられ、眼下の艦隊を瞬時に"標的"としてマーキングしていく。
その瞬間、戦場の空を飛び交っていた複数のミサイルが、不自然に進路を捻じ曲げられ、
真上へと巻き上がると、ホットショットを狙うかのような複雑な軌道を描き始めた。
「なるほど、“コイツ”が手品のタネかっ……!」
ホットショットは、空中でたえず軌道を変え続けるミサイル群に対し、
自分自身も機敏な動きで進路を切り替えながら応戦する。
蛇がのたうつかのように、でたらめに曲がりくねるミサイルを、身のこなしで巧妙に回避しつつ、1発ずつ追撃を振りほどいていく。最後の1基が真後ろまで食らいついた瞬間、彼女は振り向きざまに片手を閃かせて火球を放ち、炸裂する爆炎の中で攻勢を完全に遮断した。
「……ちっ!」
いそぎ下方を振り返ったホットショットが舌を打つ。
その間にもシャカゾンビの機体は、両者の間に再び距離を確保すべく、
新たなスモーク弾を展開しながら海面めがけて急降下していたのである。
「下に逃げた……。なるほどな、正面からじゃ分が悪いのがわかって、
ミサイルが無限湧きするそっちでケリつけようって気になったか。
耄碌ジジイにしては考えたもんだ……褒美に勝負に乗ってやるよ!」
ホットショットは全身に炎を装い直しながら、世界で今最も熱いこの海域へ一直線に突入していった。
ヘリの機内で短くうなずき合ってから、イムノはミーティスやスヌープキャットの乗るボートと別れ、
雷のソイルの突発的な初速を全身に帯びて、海上へと躍り出ている。
横向きにほとばしる稲妻に合わせ、まっすぐに弾け飛んだ肉体は遠く灰色の海原に着地し、
それで満足することなく、豪快な飛沫とともに次の1歩を勢いよく踏み出す。
――水面というものは、飛び込みに失敗して腹を打った経験がある者なら理解できるだろうが、
速く突入するほど鉄板のように硬質な感触で反発する。
時速108kmを維持できれば、人間が水面を走ることも理論上は可能だ。
そしてイムノは、その速度を余裕で保ちつつ、忍者のような低い姿勢で、1歩ごとの間隔の――非常に大きな跳躍を繰り返していく。
海面には白波が風紋のように刻まれ、彼女の疾走に呼応して、その景色が画面を滑るように悠然と流れていく。そのはるか背後では、波が自然のうねりのままに静寂の中でめくれ上がっていたりもする。
そんな時、ふいに彼女の頭上で、轟音が大気を震撼させた。
見上げたイムノの顔に、
「……!?」
緊張が走る。空の一角からシャカゾンビの巨大な航空機が斜めに降下してくるのである。
しかも、事態はそれだけにとどまらず、機体からは複数のミサイルが先制攻撃として撃ち出された。
「アシュリーが……勝ちすぎたってワケか!」
イムノは即座にガンブレードを抜刀し、海面から跳躍して身をひねりながら、
ひと息に行う百発百中の狙撃でそのすべてを撃墜する。空中で爆ぜる火花と煙幕、そして水面を震撼させる轟音が、遅れて戦場を壮麗に彩った。
しかしその直後、航空機が水上で急停止し、莫大な推力を海面へと叩きつける。
一帯の波が爆発的に荒れ狂い、彼女の周囲には飛沫と渦巻く白波が乱舞するのだった。
「――わっ!!」
突風に煽られたイムノは、横殴りに吹き飛ばされ、
水の上を何度も跳ねては転がり、ついには波間へと沈み込んだ。
シャカゾンビの機は、同じところに浮遊したまま大海に寸胴な影を落とし
「……まずは1人目だ!ではな!」
海面に孤立したイムノを嘲笑うように、「ベクトル・マグネター」を躍動させる。
青白い光が、彼方の艦隊の上を大雑把によぎっていった。
冷たい光が過ぎ去ったあとの光景は、まるでスクリーンを越えて押し寄せる映像の奔流そのものだった。
艦隊戦の喧騒――イムノにとってはまだ遠い、ただの戦闘の断片にすぎなかったその空域から、
ミサイル群の軌跡だけが異様な弧を描き、虚実の境界を越えて、観る者の目前へと突き抜けてくるように思われた。
シャカゾンビの機体が急激に力を宿して前方へ飛び去ると、10数発もの対艦ミサイルが、今やイムノただひとりを標的として殺到してきた。
「……やばいっ、これはまずいかも!!!」
胸から上だけを波間に出したイムノは、必死にガンブレードを構え直すものの、荒れる波と複雑な潮流に翻弄され、狙いを定めきれずにいた。
その刹那、彼女の視界全体に閃光が落ちる。
ホットショットのレーザーが左から右へと一直線に駆け抜け、周囲の海面を一瞬にして眩い光で染め上げたのだ。それに呼応するように、イムノを追い詰めていたミサイル群も次々と爆発し、衝撃波と破片が白波の上を走って消えていく。
直後、中空で姿勢を制し直したホットショットは、波しぶきを蹴りながら滑空してイムノのもとへと迫る。迷いなく差し伸べられたイムノの手をしっかりと掴むと、そのまま勢いよく空へと引き上げていった。




