Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 08
非常に広く、そして半円状に張り出した機体の風防越し――。
複雑なインパネの計器群に囲まれ、片手で操縦桿を手繰るシャカゾンビの顔には、防がれることを見越して、あえて見舞った”挨拶が”、 予想だにしなかった方法で片付けられてしまったことへの驚きがありありと浮かんでいた。
「……まさか、来たのはヤツの娘だけなのかっ!?」
束の間の邂逅――その刹那の隙に、彼の航空機は慣性のままティルトローター機の真上すれすれを掠めて飛び、ヘリコプターや4人の少女たちを揺さぶる激しい風圧と飛沫を巻き起こしながら、その一団を、圧倒的なスピードと存在感で追い越していった。
「作戦変更、アシュリーはシャカゾンビを追って!あの機体にミサイルの軌道を捻じ曲げる兵器が積まれてるなら、邪魔さえし続けてれば、少なくとも潜水艦の核ミサイルまでは手が回らない!」
イムノが、風から顔をかばっていた腕を素早く伸ばし、航空機の去った方角を指差して指示を飛ばす。
「……ああ!」
指先まですっかり炎に染まりきったホットショットは、体に最高の初速をかけることで、艦砲の発射などよりもよほど派手にヘリから離陸した。
烈火の残像を引きながら一気に高空までのぼりつめ、そのままの勢いでシャカゾンビの航空機の背後まで肉薄する。
しかし、乱流のような風圧を切り裂きながら機尾に迫った瞬間、信じ難い光景が彼女の視界に立ち現れた。
「お前……消えるのか!?」
彼方で、灰色の巨大機体が光学迷彩を起動させたのである。大様だった輪郭が空に溶け込むように、
徐々に曖昧な陰影へと変化していく。
「なるほど、あの赤毛の娘……ヒヒッ!能力は報告通りだな!」
シャカゾンビはモニター越しに状況を冷静に分析し、口元に不敵な笑みを刻んだ。
対するホットショットも口角を上げ、次の瞬間には、ここまでの激烈な追い上げさえ、まるで余裕の徐行だったかのようにみせる、そんな、常識を凌駕するほどの異様な加速で、一気に間合いを詰めていく。
これほど冴えない色の空に描かれると、かえって悪目立ちするひと筋の炎の軌跡が、
透明になりかけた機体の斜め上方へと高く舞い上がっていった。
「おいそこのお前!透明人間ごっこをやる時は、相手が赤外線カメラを持ってるかどうか確認した方がいいぞ!」
刹那、突き出した彼女の左掌から細かな火先がほとばしり、その頂点から、集束されたオレンジ色の線が出で、まっすぐに虚空を貫いた。
それはまぎれもなくレーザー――秒速30万kmで標的を捕捉し、焼き尽くす光そのものだった。
「正の質量」をもつおよそあらゆる存在は、これの追尾から逃れる手段を持たない。
「一瞬」という言葉では到底表現し得ない――人間の認知能力すら凌駕する速度で、尾翼まで透明化しかけた巨大な機体へと、ホットショットのビームが、絶対的な正確さで投射される。大小の2者が超音速で空を並走する間、消失しゆく機影に抗うかのように、
灼熱の波紋は、機体のたった1点を揺るがせることなく穿ち続けた。
単純で強引なこの一撃が、カメラや眼球といった、およそすべての光学センサーにとって最大の障害となるステルスシステム――それが装甲に施していく欺瞞を、あっさりと阻害してしまうことに気が付いたシャカゾンビは、
「……小癪な!」
コントロールパネルの上に激しく指を走らせ、機体の側面からレーザー妨害用のスモーク弾を次々と射出した。
遠くまで飛んだ円筒状の弾体が、炸裂とともに濃密な煙幕を空中に展開する。
その軌跡は、巨大な鳥をかたどる地上絵が、一瞬にして空間に描き上げられるかのようで、
白と灰色の層が複雑に折り重なり、
「なんだっ!?」
ホットショットの視界と攻撃を完全に断ち切ってしまう。
「……へぇ、いいな!でもそれ、あと何発打てる計算でやってるんだ?無駄な抵抗だぞ?!飛ぶだってこっちの方がずっと速いのに!」
攻撃を遮断されたことを敵の怯えと解釈したホットショットは、ためらいなく、渦巻く煙壁へと真正面から突入した。
濃密なスモークの層を切り裂き、炎に包まれた身体が、空気の白い筋を纏ってくるりとローリングしながら敵機の側面へと躍り出る。
バルカン砲の曳光弾と近接信管弾の爆発を巧みに翻弄しながら、その左手からは、小型の弾丸が連射された。
ドドドドドンッ!
炸裂する1発毎に機体の全体が震撼し、計器類で彩られたコクピットを激烈に揺動させていく。
密雲に囲まれた2人だけの空域で、炎と衝撃波が複雑に交錯し続ける。
それに並行して、赤と白の二重螺旋の模様が空に止めどなく織り成されていく。
しかしその拮抗状態は、あたかも永遠に続くかのように思われながら、実際には、きっかけなどなくとも崩れうる脆さを内包している。
ホットショットの追撃は、煙と爆風の迷宮を突き抜けていささかの迷いもなく、シャカゾンビの機体を確実に追い詰めていったのである。




