Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 07
それからしばらくして、遙か高空からひとつの影が、この燃えさかる海の只中へ滑り込んでくる。
ティルトローター型のヘリ――防衛省の特務機が、水平線の彼方から一直線に現れたのだ。
海上では、今もなお砲撃の閃光と黒煙が重なり合い、波間を炎が走っている。
機体側部のスライドドアが開かれると、こうした修羅場には不釣り合いなほど若い4人の少女たちの姿が現れ、轟音と突風の中、その地獄図を見下ろすことになった。
「おい、なんでもう戦いが始まってる? 何の時短レシピだよ!」
アシュリーが手すりをしっかりと掴みながら、戦場の混乱も構わず声を張り上げる。
「……シャカゾンビに違いないよ!」
おせちが、息を詰めて叫んだ。
「すみません、この機の武装ではこれ以上は――!!」
パイロットの悲鳴が、エンジンの轟きとともに胴体部を駆け抜ける。
「あっ、ありがとうございました!!ここで構いません!海面につけてください!」
回転翼が巻き上げる強風に髪とスカートが激しくはためく中、おせちは操縦席へ向けて大きな声を投げ返した。
そう――ここでの彼女は、裾を引くピンクのスクールカーディガンにガンブレードという、「イムノ」としての正装をしていたのである。
「わかりましたっ……幸運を!」
パイロットの言葉とともに、キャビン全体が急降下のGでわずかにきしむ。
ヘリが、波間のギリギリまで降下しつつ機体を思い切り180度ドリフトさせれば、
吹き上がる飛沫が、ドアの内側にまで容赦なく押し寄せてくる。
「私はシャカゾンビをなんとか追い詰める!アシュリーはミサイルの処理を最優先にしながら私を手伝って、はちるとさなは潜水艦を探して制圧!」
おせちの力強い指示出しがはじまり、
「よし。世界にホットな愛を振りまいてやろう」
アシュリーは取っ手を握ったまま、炎のような輝きを身にまとい始める。
全身に熱が集まり、体の輪郭が揺れるように赤く光る。
「んにゃっ!」
「わかった!」
背後で、はちるとさなが身軽に準備を整えていく。いま彼女たちが、ふたりして縁に手をかけて、
貨物扉の近くまで導こうとしているのは1隻のパトロールボートだ。
「このボートははちるたちが使って、アシュリー!先に適当な船まで乗せてって、私のボートはそこで確保する!」
「ああ!」
……即席の作戦会議もそこそこに、ヘリの貨物扉が豪快に開かれた。
外気の一撃が4人を打ち、旋回中だった機体は荒波立つ海面へと完全にタッチダウンする。砲撃の轟音と白波が織りなす飛沫の中、4人は風圧と地鳴りのような機体の震動を意に介さず、電光石火でボートの降下準備に取りかかった。
「……ハハハ!最高のところに来たではないか、オールラウンダー!これが吾輩のぜひとも貴様に見せたかった景色だ……」
戦場の上空、斜めに傾いた巨大な航空機のコックピットでは、シャカゾンビが鋭い眼光を眼下に注いでいた。
機体は光学迷彩を解除すると、海域に侵入したヘリめがけて急加速する。
その降下中に連射されたミサイル群は、途中で航跡を激変させ、スタートダッシュを切る短距離選手さながら海面すれすれを疾走した。
そして、彼の機体までが水面を平行に滑り始めるやいなや、中央部のガンポッドから放たれた20mm弾が曳光弾の嵐を巻き起こし、
戦場に華やかな軌跡を描いた。
「あっ!」
ヘリの後部スロープに立っていたミーティスの札が、瞬時に前方へと弓状に展開される。
それは古代ローマ兵が四角い盾で築くテストゥド陣形を、たった1人で構築したかのような光景にも見え、
ドドドドドドォン!
降り注ぐ弾丸と爆発は、その霊的な"障壁"の上でのみことごとく炸裂した。




