Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 06
霧の層を貫いて、黒光りする未確認機がついに艦隊の頭上へと現れる。
機体の下部が発光をはじめれば、高エネルギーのレーザーが艦隊の広範囲に向けて放射線状に投げかけられた。
艦隊の広範囲を一気に網羅するその光線は、演習の第3波としてすでに発射されていた数多のSSM(対艦ミサイル)を、雲間から差し込む光のように柔らかでありながら、方向を大きく転換するサーチライトのように素早く、一瞬のうちに撫でていく。
ミサイルに意識があったとしても、その光に触れられた感覚を彼らは知覚しなかっただろう。
温度さえ持たぬ光が、音もなく飛翔体の輪郭をかすめ取る――そうした、無垢な接触の中には、
この場の誰もが予想だにしなかった深遠な意味が込められていた……。
「ミサイル、軌道異常!」
射撃管制士官の絶叫が艦橋を貫く。レーダースクリーン上で、ミサイルのマーカーが次々に進路を逸らしたのだ。本来、大型の廃棄貨物船へ向かうはずの弾頭は、空中で無理やり旋回させられ、演習区域のはるか北側――霧の彼方にひそむ北朝鮮艦隊の集結海域へ猛然と加速する。
「弾頭、制御不能! 目標が北朝鮮艦隊に変更されています!」
電子戦オペレーターがヘッドセット越しに絶叫する。艦のホロディスプレイには、ミサイル群のシルエットが、識別上は「味方」に分類される北朝鮮艦隊のアイコンへと突進していく光景が映し出された。隊員たちの顔に戦慄が走る。
「……お、オープン回線で緊急回避を要請しろぉ!」
コウロキ艦長の怒号がひさめの艦橋に轟くが、言葉は途切れる。次の瞬間、水平線の奥で複数の爆発が炸裂した。
霧を突き破る閃光と轟音が重なり、にごった波頭に黒煙と炎の柱が次々と立ちのぼる。
「……北の艦隊、被弾確認!」
通信士官の声が震える。モニターには、北朝鮮艦艇の甲板が炎に包まれ、爆風で鉄骨がねじ曲がる映像が映る。
艦橋内の空気が、恐怖と動揺で一気に重くなる。この日本海の上で、誰もが侵してはならぬと考えていた一線が、あっさりと踏み越えられたのだった。
悪魔じみた黒色の未確認機は、任務を終えたかのように音もなく旋回し、鮮烈な光跡を残して霧の彼方へ消える。その背後で、水平線に新たな脅威が迫っていた――北朝鮮の反撃だ。
「レーダー探知! 複数目標、超低空で接近!」
電子戦オペレーターが叫ぶ。ホロスクリーンに、対艦ミサイルに混じった北朝鮮の新兵器――自律起動型のパンジャンドラムが映し出される。
専用砲で高々と打ち上げられたタイヤ状の巨大な機体は、通常の戦術ドローンとは根本的に異なる攻撃機構を持つ。敵目標を、バイクのチェーンを無限に巻き重ねたような強化装甲の外殻で直接的に粉砕するのだ。
装甲を赤熱させながら異常な速度で自転するその姿は、制御不能の破壊兵器そのもので、従来の軍事技術を凌駕する禍々しいエネルギーを放っていた。
「敵ドローン、艦隊直上! CIWS、集中射撃!」
コウロキ艦長が咆哮し、CIWS(近接防御システム)のファランクスが火を噴く。無数の曳光弾が霧を切り裂き、パンジャンドラムの装甲に火花の嵐を巻き起こす。
しかし弾丸はナノ装甲の表面を滑るばかりで、内部への貫通は許されない。ドローンは甲板に着弾した瞬間、跳ね上がりながら本格的な高速回転を開始し――車輪状の外殻が、艦の鉄板を縦横無尽に食い荒らしていく。
「回避! 全員、衝撃に備えろ!」
隊員の叫び声が響く中、ひさめの甲板もまた、パンジャンドラムの着弾を許している。
赤熱した車輪が砲塔基部に激突――溶断音と共に金属片が飛散する。火花と煙が甲板を覆い、艦橋方向へ真紅の渦が迫った。艦体が傾き、装甲側面から火炎が噴出する。
「前部甲板、炎上! 消火班、急げ!」
通信士官が絶叫し、対空砲の咆哮が海面に響いた。巨大なドローンは執拗に甲板を這い回り、
電磁砲塔やレーダーアレイを次々に粉砕。艦隊の戦闘能力が刻一刻と削がれていく。
「全砲門、応射開始! 射撃諸元を再入力!」
苦悶するように各艦が独自の回避行動を始めた艦隊に、フクダ司令の命令が一斉に響いた。
反撃の嚆矢として「しらぬい」の電磁砲が霧を揺るがせ、曳光弾とミサイルが北朝鮮艦隊へ向けて矢のように放たれる。
無線には北方からの悲鳴と、両軍艦隊の緊急通信が乱れ飛んだ。
――海域の秩序は、いつしか完全に崩壊していた。両軍の艦隊は、互いのレールガンが直撃し合う至近距離まで接近し、青紫色の着弾が甲板のあちこちで炸裂するたび、分厚い黒煙が幾重にも立ち昇る。
曳光弾が赤い筋を引いて薄灰色の空を駆け抜け、爆発の閃光が一瞬ごとに新しい影と輪郭を浮かび上がらせた。海面は炎と油で濁り、激しい揺れと衝撃波で波頭が歪み続ける。
F-51C戦闘機は、生来のステルス性能を放棄してスクランブル発進し、
直後から敵機との苛烈なドッグファイトに突入する。艦橋上空では緊急発進したヘリコプターが垂直に舞い上がり、甲板上では他のジェット機もエンジンの咆哮を響かせて跳躍した。
見上げる空には、すでに複数の戦闘機が目まぐるしく旋回し、互いの後尾を狙い合っている。
ミサイルとフレアが絡み合うように火花を散らしながら、混沌とした戦場の空を鮮烈に彩っていた。




