issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 23
そして――その光は、思い出したように、ほのかな明滅を繰り返していた。
「あっ……」
さなは、その律動を知っていた。
誰よりも、知っていた。それは、自分の泣き声の録音を不意打ちで聴かされるのに似ていた。
心細さに応じて速まり、あやされて緩む、光の呼吸。生まれたばかりの、
まだ名前すらなかった自分が、世界に向かって発していた信号そのものだった。
それが自分の姿だと気付いた瞬間、堪えていたものが決壊した。
嗚咽が漏れる。とっさに両手で口を塞いだが、震えは指の隙間から溢れた。
目尻に浮かんだ雫が膨れ、折り曲げた掌の底へ、とめどなく落ちていく。
押し留めようとする掌は、すぐにいっぱいになった。つま先が、無意識に床を離れかけ、
後退を促す。目立てば、あの人がこちらを見る。優しい他人の顔で、あやしに来てしまう。
さなは全身の力で、自分を床へ縫い留めた。
「さなっ!」
おせちが素早く肩を取り、引き寄せた。支えた掌へ、姉妹の震えがそのまま流れ込んでくる。
細かく、深く、骨まで伝う震えだった。受け止める側の指先も、もう震えていた。
「おせちぃ」
「……なに?」
名前だった。誰の名前も存在しない時間に閉ざされたこの部屋で、それでも姉妹の間でだけは、
名前がまだ生きて働いていた。呼べば、返ってくる。そのあまりに当たり前のやり取りが、
今は奇跡のように響いた。
「わたしね、わかったの……」
さなが、濡れた声で言った。
「え?」
「あれはね……うぅん、あれがね、おかーさんの――最後の最後まで、忘れたくなかった思い出なんだよ……」
瞬間、何もかもが腑に落ちた。
入室した時の、あの何かを捧げ持つような手つき。頬を確かめ、指を数えた手。間違えなかった、
撫でる順番。擦り切れるほどなぞられたのだろう誓いの文句。この部屋へ入ってから目にしてきた不可解の全部が、同じ答えへ、音を立てて流れ込んでいく。
名乗るための名前を失くし、帰るための家を失くし、それでもあの人は、失くしものの山の中から、
これだけを選んで抱えていたのだ。おせちは息を呑み、幻の赤ん坊を見つめ直す。
たまらず顔が上ずって、それきり、抱えていたもののすべてが、行き場を失って目元へ殺到した。
頬を、熱いものが伝っていく。まとめ役の顔も、次の段取りも、もう間に合わなかった。
と、その時。腕の中の光が、ゆらりと編み直された。
白い赤ん坊の輪郭がほどけ、燐光が渦を巻き、次の形を結ぶ。今度は――燃えるような赤毛の産毛。
周りの空気を陽炎のようにたわめる、ほのかな熱の気配。




