issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 22
「――世界で1番の果報者に、無理やりにでも、してやるからの」
いっそう虚ろになった口調で、それでも一言一句、違えることなく繰り返される言葉。
誰に教わったわけでもないのに、4人にはわかってしまった。これは今、即興で紡がれたものではない。数え切れないほど胸の内でなぞられ、擦り切れるほど確かめられてきた――誓いの文句だ。
そして同時に悟ってしまった。自分たちはこの言葉を知らない。知らないのに、心当たりだけがある。
なぜ、あの家はあんなにも騒がしかったのか。なぜ、拾われた身の上で、引け目のひとつも感じさせられずに育ったのか。なぜ、世界がどれだけ燃えても、家に帰れば飯があり、布団があり、馬鹿笑いがあったのか。
15年間、当たり前すぎて誰も出所を尋ねなかったその全部に、いま初めて、原本が示されていた。
娘たちの人生は、丸ごとこの誓いの内側で営まれてきたのだ。立会人もなく、証文もなく、
本人たちにさえ知らされないまま――たった1度きり、眠る4つの寝息に向かって交わされた契約の、
その内側で。
「……おい、あれ」
アシュリーの掠れた声が、皆の視線を引いた。
4人は、見た。
水の滲むように、神通力で編まれた赤ん坊の薄明るい姿が、尊の手中で形取られていく。蛍光灯の白い光に半ば掻き消されそうな、あえかな燐光。まばたきをすれば見失いそうなその輝きが、けれど確かに、
閉じた瞼を、小さな鼻を、胸の前で握られた拳のひとつひとつを編み上げていく。
重さのなかった「何か」に、輪郭が追いついていく。ほどけていく魂からこぼれた力が、
主の意図を待つこともなく、記憶へそのまま姿を与えているのだった。
部屋の白い明かりの中で、その光はあまりにも小さかった。それでも、
尊の顔だけは下から柔らかく照らされていた。
この世で今、彼女の顔を灯しているものは、彼女自身の記憶だった。




