issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 21
言葉尻が、力なく萎んでいく。その視線の先では、当の本人が、
膝をついた娘の頭を胸に抱いたまま、今もゆっくりと体を揺らし続けていた。
数分前だ。
たった数分前まで、この椅子に座っていた尊は――己の名を名乗り、娘たちの正体を告げ、
自宅の電話番号をそらんじ、迷惑をかけた罪悪感まで口にした、明晰な1人の母親だった。
その母親が、当の娘たちがこの部屋へ足を踏み入れた、まさにその瞬間を境に――フィルムが映写機の中で焼け切れるように、「今」と「あの頃」を繋ぐたった1本の回路だけが途絶えた。
映写機は止まっていない。今もからからと回り続けている。ただ、そこに掛かっているのは、
15年前の1巻きだけだった。
おせちは目を閉じ、そして開けた。
振り返った先で、尊はもうはちるを手放していた。膝をついたままのはちるの腕から、
あの「何か」を丁寧に回収し、自分の腕へと戻している。興味は生身の娘から、
幻の赤ん坊の方へ帰ってしまっていた。取り残されたはちるの両腕だけが、
まだ緩やかな受け皿の形のまま、宙で止まっている。
「…………」
尊はもう誰も見ていない。腕の中へ視線を落とし、体を揺すり、穏やかにあやし続けている。
やがてその口から、歌ともつかない低い声が漏れ始めた。子守唄かと思われたそれは、少しずつ、
言葉の形を結んでいく。
「……覚悟せいよ、お前たち」
4人の息が止まった。
「よりにもよって、わしのところへ転がり込んできたんじゃ。この先どうあがこうと、
不幸になどなれると思うなよ」
それは、祝福の言葉だった。なのに語彙のひとつひとつは喧嘩腰で、まるで果たし状の口上だった。
祝詞の荘厳も、儀式の格式もない。博打打ちが啖呵を切るような、神様の名にまるでそぐわない――けれど、あの母以外の誰にも言えない祝福だった。




