↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#06 I I I Little Talks

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
778/805

issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 20

さっきから瞳の奥で揺れていたものの正体は、おそらくそれだった。

だが火は灯りきる前に消え、彼女はまた、あの日の続きへと帰っていく。

生まれたばかりの我が子を腕に抱き、名もなき赤子の体温を頬で確かめながら――目の前に立つ本物の娘たちを、善意の他人として、微笑みながら素通りしている。


悲鳴を上げる者は、いなかった。この部屋で流れている血は、誰の目にも映らない。

忘却よりも精密に。忘却よりも深く。母の愛が完全な形で残っているからこそ――その刃は、

4人の喉元だけを、正確に抉った。


後ろで一部始終を見ていた警察官が、ようやく声を発した。


「……えっ。いや……どういう、ことです……?」

調書を持つ手が小刻みに震えている。紙の端が、かさかさと乾いた音を立てた。

自分がたった今この目で見たものと、手元の書類に記された証言。

そのふたつの間に横たわる断崖を、どうしても処理しきれずにいる顔だった。無理もない。

その調書の文字は、他ならぬ本人が、ほんの少し前に書き取ったばかりのものなのだ。

インクも乾ききらぬうちに、そこへ記された人物は、もうどこにもいなくなっていた。


「あの……母は――」

おせちが振り返った。声が掠れ、喉仏が震える。この数週間で骨身に染みついてしまった、

頭を下げるための姿勢を取りかけて、途中でやめた。

「――認知症の、症状が出ていまして」


「認知症……?いや、そんなはずは」

警察官は調書のページをめくり、尊の顔を見て、また書類へ目を落とした。

1度、2度――何度も。だが、いくら往復したところで、視線の橋はどこにも架からない。


「ついさっきまで、しっかりとお話しされていたんですよ?……ここに、この通りに」

震える指先が、調書の1行を叩いた。4人が、同時に息を呑んだ。


「ご自身のお名前も。娘さんたちが『カルテット・マジコ』だということも。ご自宅の電話番号だって、メモも見ずに、そらで暗唱されました」

警察官はそこで言葉を切り、選ぶように間を置いた。

「それどころか――『娘たちに迷惑をかけてしまった、早く帰りたい』と。反省も、されておりました。

……お嬢さんたちがいらっしゃるのを、それはもう、楽しみに待っておられたんですが……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。