issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 24
「……っ」
アシュリーが、目を逸らした。逸らして、逸らしきれずに、また見た。握りしめた拳の中で、
爪が掌へ食い込んでいく。
さっきまで見ろと叫んでいた。私の顔をちゃんと見ろと、あの肩を掴んで揺さぶった。
――その答えがこれだった。母は見ていた。
ずっと見ていた。15年前の、生まれたばかりの自分を。
「……なんだよ、それ」
掠れた声が、落ちた。
「ずるいだろ……こんなの、ずるいだろ……」
頬を伝うものを、アシュリーはぬぐおうとしなかった。いつもなら天井を睨みつけ、
意地でも喉の奥へ押し戻す涙だった。その意地の張り方すら、この光の前では思い出せなかった。
光は、さらに編み変わっていく。
オレンジ色の産毛の、身じろぎもせず行儀よく眠る子。それから、ふかふかの毛玉。4つの姿が、
ゆっくりと、順繰りに。巡り終えれば、また最初から。
同じ円盤を回り続けるオルゴールのように、あの日の記憶は繰り返し、繰り返し、奏でられていた。
尊は形を変えていくそのすべてへ、等しい深さの笑みを注ぎ続けている。
どの子の番でも、その笑みは1ミリも揺るがない。4人まとめてではない。
1人ずつ、全員が1番なのだった。
言葉もなく、はちるの涙が流れていく。雫は両目を押さえた手の毛並みに吸い込まれて、
床へ落ちる前に消えた。泣いた跡さえ、この部屋には残らなかった。
名前も、顔も、人々と結んだ縁も、3000年の月日も、指の間からこぼれ落ちていく。
そのどうしようもない総崩れのただ中で、彼女が最後まで手放すまいと握りしめたものが――たった15年ほど前にすごした、ある1日の思い出。蛍光灯の白い光の下、光で編まれた我が子をあやし続ける神の横顔を、4人はただ、立ち尽くしたまま見つめていた。
ふ、と背後で衣擦れの音がした。あの警察官が、開いたままだった調書を、
音を立てぬようそっと閉じたのだ。紙の上の証言がもうこの部屋の何ひとつ説明していないことを、
理解した者の手つきだった。
おせちが、目元を手の甲で1度だけ拭い、振り返る。
「あの……もう少しだけ、母をこのままにしておいてあげてください」
声は、もう震えていなかった。震えさせないために、残っていた気力のすべてが使われていた。
「……たぶん、そのうち、自分で気がつくと思いますから」
そして深く、頭を下げた。
警察官は何も言えないまま、ただ姿勢を正し、それよりもさらに深く、頭を下げ返した。




