issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 15
「え……?」
アシュリーの唇が、かろうじてそれだけの形に動いた。
尊は聞いていない。しゃがんだまま、今度はアシュリーの右手をそっと取った。
小さな指が、強張った娘の指を1本ずつ、丁寧に開いていく。惑星と殴り合った拳が、
なすがままに開かれていく。開ききった手は尊の掌から大きくはみ出し、
関節も、爪の形も、どこからどう見ても年頃の娘の細長い造りだ。
おまけにその皮膚は、湯たんぽでも握ったような、常人にはありえない熱を帯びている。
尊は何ひとつ気に留めなかった。5本を順に数え、左手も同じように開いて確かめ、
安堵したように頷く。
「……よし。ちゃんと動くの。おぉ、握り返してくる。箱の中に詰められておったが、
酸欠の心配はないか」
新生児の指を、数えている。目の前にあるのが、自分の背丈を超す少女の手だということに、
気づいていない。
「全員健康。良い姉妹じゃのう。……仲ようせいよ、今日からは。な?」
それから尊は、4人の頭を順番に撫でていった。おせち、アシュリー、さな、はちる。
――順番だけは、何ひとつ間違えていなかった。今がいつかも、ここがどこかも、
目の前の娘が誰かも見失った掌が、その並びだけを寸分の狂いなく覚えている。
手つきは確かに優しかった。優しかったからこそ、先日味わった恐怖とは、根本から手触りが違っていた。
以前の忘却には、壁があった。「誰じゃ」と問うてくる、
こちらと向こうを隔てる冷たく硬い壁。だが今、目の前の微笑みには、壁がない。
壁どころか、母としての情愛が、疑いようもなくそこに灯っている。
ただ、その焔は15年前のものだった。宛名だけが15年前のまま届いてしまった手紙のような温もりが、
4人の肌を、行き先を間違えて撫でていく。




