issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 14
沈黙。
誰も、次の言葉を持っていない。アシュリーの手が、
抱き寄せた肩の上で行き場を失ったまま固まっている。
相談室の壁掛け時計が、秒針を1つ落とした。その1秒が、粘つくほどに長い。
唐突に、尊の表情が変わる。
何かに気が付いたのだ。
濁りきっていた瞳に色が差し戻り、口元がほころんで、頬の深い皺が柔らかな弧を描く。
底抜けに温かい、あまりに無防備な微笑み。思い出してくれたのかと、4人の背筋が同時に伸びた。
「おぉ……」
尊は両手の中のもの――すなわち彼女以外には見えざる何かを、
眠るものを起こさぬ手つきでそっと長机に置いた。
それから、椅子からするりと滑り降りる。ぺたり、ぺたりと草履を鳴らし、
4人の前までちょこちょこ歩み寄ると、そのまましゃがみ込み――手を、伸ばす。
「?」
伸ばされた手は、さなの顔へ向かった。
両手が包み込んだのは、頬。小さな掌が15歳の頬骨をまさぐり、顔をゆっくり右へ、
左へと傾けさせる。角度を変え、蛍光灯の明かりに透かし、眉の形を、鼻筋を、瞳の色を、
1つずつ検分していく。さなの喉の奥で、小さく息が鳴った。
それでも、母の手は止まらない。丁寧で、それでいてどこまでも無遠慮な、その眺め回し――
赤ん坊の顔を初めて覗き込む大人の、あの仕草だった。
「……ええ顔しとるのう」
呟きながら、さなの頬を親指でくにくにと押す。赤子の肌の弾力を確かめる、あの手つきで。
さなは動けなかった。ふだんは重力を忘れてばかりの体が、今は釘で打たれたように床へ固定されている。掌の体温は、確かに伝わってくる。指の腹の、皺の1本1本まで感じ取れる。触れているものの何もかもが本物なのに――こちらを覗き込んでくる瞳の奥のどこを探しても、「さな」という名前を持ったひとりの人間への認識だけが、見当たらなかった。
尊は満足げに頷くと、さなの頬から手を離し、残る3人へ視線を滑らせた。品定めではない。
頭数の確認だった。
「……1、2、3……で、この子が4人目か」
指を折り、声に出して数える。はちるの前で、折った指を「4」の形に立て直して見せ、
ため息のように笑った。
「こぉんな小さいのが、4人も揃うて。向こうが寄越してきたこの白い娘はともかくじゃが……他の子らの親は、一体何を考えてこんなことをしたのやら……」
部屋の空気が、音もなく凍りついた。誰も動かない。静まり返った相談室に、
蛍光灯の低い唸りだけがゆっくりと浮かび上がってくる。




