issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 13
「どうして黙って出てったりしたんだよ……心配させんなって、ホントに……」
アシュリーがその場に膝をつき、細い肩を抱き寄せる。語尾は掠れて尻すぼみ、
叱責の形を借りた安堵だけがあとに残った。
「よかったぁ……無事だったんだね。どこも痛くない?」
はちるが心配そうに顔を覗き込み、それから鼻先をそっと寄せて、ふん、と小さく鳴らす。
嗅ぎ慣れた母の匂いが、ちゃんとそこにある。それだけで、尻尾の先から強張りが抜けていった。
「……もう!心配したんだからね!」
3人の背後から、おせちが告げる。口々に溢れる言葉のどれひとつとして、
母を責める棘を持たない。深い安堵と親愛だけが、堰を切って注がれていた。
尊がゆっくりと、重たげに顔を上げた。
「――」
4人の声が、順に萎んで、途切れていく。
捉えた瞳は――泥水の底に沈んだ硝子玉のように、光を映さなかった。
蛍光灯の白がその表面をつるりと滑るだけで、奥までは届かない。焦点の定まらない両目へ、
さな、アシュリー、はちる、おせちの顔が、順番に落ち込んでいく。
1度だけ、その瞳の奥で何かが浮き上がりかけた。名前を持つ前の、えもいわれぬ感慨の気泡。だがそれは、水面に届いて弾ける寸前、彼女自身の手で握り潰された。咄嗟の防衛反応――おそらくは、脳の片隅に転がっていた、ありあわせの理知だ。すでに出来上がっている現状の認識と、目の前で起きていることがどうしても噛み合わない。噛み合わないものは、処理しない。棚に上げてなかったことにする。
ゆえに彼女の目線は、意味を持たない体反射としてだけ、4つの輪郭の前を通り過ぎていった。
傾げられた小首は、そのささやかな徒労感の不快な総括だった。




