issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 12
「……はい」
『あ、もしもし。こちら松江警察署の生活安全課ですが――』
その電話は、まさに天恵だった。尊は、神社から数駅離れた公園のベンチで、
1人で座っているところを巡回中の警察官に声をかけられたらしい。
本来であれば身元の特定には時間がかかるところだが、世界を救った英雄「カルテット・マジコ」とその母の容貌を、今の世に知らぬものはいない。保護した警察官が彼女の顔に見覚えがあり、さらに尊自身がはっきりと自分の名前と娘たちの連絡先を告げたことで、即座の連絡がついたのだという。
「よかった……!」
その場に崩れ落ちそうになる膝に力をこめ、4人は再びロング・カウンターに乗り込んだ。
目指すは警察署。 最悪の事態は回避された。母は無事だ。神としての力の暴走も、
次元の彼方への消失も起きていない。
松江警察署のガラス張りの自動ドアが、4人分の姿を映したまま左右へ滑る。受付で名乗る必要さえなかった。窓口の職員が腰を半分浮かせた姿勢のまま奥へ声を飛ばし、廊下の署員たちが次々と道を譲る。
世界で1番有名な家族の突然の来署に、庁舎の空気がざわりと粟立った。だが、当の4人の耳には、
そのどよめきの欠片も届いていない。
通された生活安全課の相談室は、白い蛍光灯が低い唸りと共に寒々しく照らし出す、殺風景な部屋だった。スチール製のパイプ椅子と、事務用の長机。壁の飾りといえば、特殊詐欺への注意を呼びかけるポスターと、素っ気ない壁掛け時計が1つあるきりだ。
その部屋の隅に、ちょこんと座り込んでいる小さな背中があった。丸まった背は、
パイプ椅子の背もたれの半分さえ埋めていない。
不思議なのは、手つきだった。背中越しにも分かるほど、腿の上の両手が、
何かを捧げ持つ形に丸められている。落とせば割れるもの――あるいは、
起こしてはならないものでも包んでいるかのような、静かで、慎重すぎる手つきだった。
「……おかーさん!」
さなの声が弾け、それが号砲になった。4人が一斉に駆け寄る。椅子の脚が床を擦る音、
もつれる足音。狭い相談室が、たちまち4人分の体温で埋め尽くされた。




