Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 05 03
「……先日、労働党の内部で、私の直上の者が派閥抗争に敗れました。独裁国家において
そのような者が辿る末路はただひとつ――粛清です。
私もまた、同じ段階で抹消のリストに名を連ねていたはずですが、不思議と、ただちに拘束されることはありませんでした。そこで私は、自由に動けるうちに行動を起こすことにしたのです。それが、すべての始まりです――」
キョンは背筋を正し、滔々と語り続ける。
「――およそ2年前から、シャカゾンビは我が国と接触を始め、高度な技術を供与することで軍の内部に深く食い込んでいました。粛清の危機に瀕した私は、生き残りを賭けて奴との個人的な交渉に踏み切りました。
すると奴は、驚くほどたやすく私の提案に応じ、機密のリークと引き換えに国外脱出の手筈まで整えてくれたのです。しかし、今振り返ってみれば、党内の政争も、私が機密を渡すにまで至った一連の流れも、すべて奴の仕組んだことだった。
私の反乱は、奴の掌の上での操り芝居だったのです」
「その証拠が、このメモリに?」
尊の問いに、キョンは机上のメモリを指で滑らせて寄越し、深く頷いた。
「そうです。私もまた、亡命を決意した段階で、可能な限り奴とのやり取りを記録することにしました。それが私にできた唯一の抵抗です」
尊はしばし黙し、相手の置かれた境遇を思い量りながらも、やがて静かな声音で言葉を継いだ。
「ひとつだけよろしいでしょうか――」
「はい」
「……とても難しい決断をされましたの。お心中、深くお察しいたします。
そしてこの吉濱尚武尊、亡命の申請が正式に受理されるその時までは、
命を賭して、あなたの御身をお守り申し上げまする。この志に揺るぎはありませぬ。
しかし、それはそうとしてですじゃ、どのような御事情があったにせよ、
このたびの1件、あなたがなされた所業は、決して軽い咎とは申せませぬぞ。
被害を被る方々のことを思えば、どうしても、この言葉だけは申し上げずにはおれませぬ」
キョンはしばし俯き、真摯に応じる。
「……仰る通りです。私は祖国を裏切り、かつての同胞、そしてあなた方の国を危険に晒しました。
家族を守り、生き延びるためとはいえ、シャカゾンビの誘いに乗った私の選択は、許されるものではありません。
しかし、だからこそ、奴の企みのすべてを収めたこのメモリをあなたに託すことで、せめてその過ちを正す1歩を踏み出したい。それが、汚れたこの手で成し得る可能なかぎりの贖罪です」
将軍の言葉には、悔恨と決意がたしかに混じっており、尊もまた、その重さをありのまま受け止めた。
「――――」
会話は続いたが、終始淡々としたものだったのでいずれどこかで自然に途切れた。すると部屋には再び、船体が波に揺られる、あのゆったりとした音が満ちる。
窓の外には、どこまでも平坦で、境界もおぼろげな水平線と、光の粒でやたら煌びやかに飾り立てられた蒼い海が広がっていた。
「……ところで、祖国の動向についてはご存じですか。ここでは限られた情報しか手に入らず――」
と将軍が、沈黙を気まずく思ったかのようにそういった質問で仕切り直せば、
「今日の日本軍の演習にあわせ、大規模な艦隊を羅津港で編成しているというところまでは聞いてはいますがの」
と尊は答える。
その途端に、室内の空気が凍りついたのがわかった。
「まずい、それを知っていれば、こちらもこうもったいぶったコンタクトはけして取りはしませんでした。吉濱さん、急いだ方がいい――」
キョンは言葉を切り、拳を握る。
……そして、防衛省のヘリでちょうど日本海に到達したばかりの4人は、
「……北の羅津という港には、核を搭載した原子力潜水艦が今停泊しておるとのこと。それだけは絶対シャカゾンビの手に渡してはならん」
無線口の尊から事のそうしたあらましを聞いたのである。




