表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#06 I I I Little Talks

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
766/779

issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 08

アシュリーが腕の中に抱えていた「根性」や「愛情」という反論の種が、

現実という無情の風に吹かれて、ひと粒、またひと粒とこぼれ落ちていく。

介護とは、終わりの見えない総力戦だ。片手間で戦える戦場ではない。

ましてや、命を懸けたヒーロー活動との二正面作戦など――物理的に、不可能な領域だった。


「……もしも私たちの対応が遅れて、誰かが犠牲になったら?私たちと同じ思いをする家族が、どこかに生まれたら?あるいは……母さんの介護を理由に、出動そのものを断ったら?」

おせちは畳の1点を見つめたまま、仮定を1段ずつ積んでいく。

そして、その塔のてっぺんに、決定的なひと言を載せた。


「……それは、意識がはっきりしてた頃の母さんが、絶対に――絶対に、望まないことだと思う」

声が、わずかに震えた。ちゃぶ台の下で、彼女自身の手が固く握られていることに、

気づいた者はいない。これは他人を説き伏せる論ではない。

彼女が誰より説き伏せたくない自分自身へ向けた、身を切るような推論なのだった。


「ヒーローを続けてほしい、なんて高尚な話じゃないんだ。あの人は……自分の都合で娘の生き方が捻じ曲げられることだけは、死んでも許さない人だよ。自分の老後が枷になって、私たちがどこにも行けなくなる――あの人にとって、それ以上の悲しみなんて、たぶん、この世にないんだ」


「――!」


その言葉たちを、聞いてしまった者がいる。


廊下の暗がりに、尊が立っていた。


それは、壊れかけた精神の回路が起こした、あまりにも残酷な気まぐれだった。夜の徘徊の途中、

泥沼のような混濁の底から、その瞬間だけ意識が奇跡的に浮上し――半端な、覚醒を取り戻してしまったのだ。


冷えた廊下の板が、素足の裏に貼りつく。襖の隙間から漏れる細い明かりが、

廊下の闇に1本の線を引き、その向こうで娘たちの影が揺れている。漏れ聞こえてくる、

張り詰めた声、声、声。ふらりと足を止め、その深刻な響きへ何気なく耳を傾け――言葉の意味が、

ひとつ、またひとつと繋がって、やがて全体像を結んだ、その途端。


尊は、全身を杭で貫かれたような衝撃に、呼吸を忘れた。


(……わしが)


(わしが、あの子らの重荷になっておるあの子らの翼を、この老いた体が、縛りつけておる……)


その冷徹な事実は、老いの恐怖よりも、死の恐怖よりも、なお深いところへ突き立った。

鋭利な爪となって、残り少ない精神を抉り取っていく。そこにはもう、どんな自己肯定の感情も、

入り込む隙間はなかった。あるのはただ――自分が「存在してしまっている」ということ、

それ自体への、焼けつくような罪悪感だけ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ